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第三十六話:執事の矜持と「最強の共犯者」


領主館の深夜。すべての領民がレオンの整備した安眠環境で深い眠りについている頃、執務室には二つの影があった。


レオンは、帝国から接収した最高級の革椅子に深く腰掛け、リネットが淹れた(自動抽出機製)コーヒーを啜っていた。その傍らには、影のように音もなく控えるセバスの姿。


「……セバス。お前、たまには休んだらどうだ。この領地は今や、俺が寝ていても勝手に金が回り、勝手に防御魔法が発動する『全自動・ニート帝国』だ。お前が二十四時間起きて俺の世話を焼く必要はないはずだが」


レオンは、書類の山(そのほとんどが「若様、次はこれを自動化しましょう」という嘆願書)を眺めながら、不機嫌そうに呟いた。


セバスは、眼鏡の奥の鋭い瞳を少しだけ和らげ、完璧な角度で一礼した。


「若様。私は休んでおりますよ。若様が、ご自身の『怠惰』を守るために、冷徹な仮面を被って世界を翻弄される……その鮮やかな手際を拝見することこそ、私にとって最上の休息であり、娯楽でございますから」


レオンは、鼻で笑った。 「娯楽だと? お前、昔からそうだ。俺が親父に勘当されそうになった時も、俺が『領地の金を全部自分に回す』と言い出した時も、一度も止めなかったな」


「止める必要がございませんでした。若様は『自分のために』と言いながら、結果として誰よりも効率的に、この領地の価値を最大化された。……かつて、この地は飢えと病に満ちた泥の沼でした。それを、若様の『わがまま』一つで、王都が羨む黄金の郷に変えてしまわれた」


セバスは、懐から一冊の古びた手帳を取り出した。それはレオンが子供の頃に書いた、「僕の最強の引きこもり計画」という名の落書き帳だった。


「若様が幼き頃に仰った『一歩も歩かずに美味しいものが食べたい』『誰にも邪魔されずに一日中寝ていたい』という願い。……私はあの日、誓ったのです。この若様の『究極の欲望』を、現実のものにする手伝いをしようと」


(……こいつ、俺がクズなのを全部分かってて、面白がって助長させてやがったのか)


「……セバス。お前、もし俺が明日『魔王を倒すのが面倒だから、魔王城を買い取って俺の別荘にする』と言い出したらどうする?」


レオンが冗談めかして言うと、セバスは一切の迷いなく答えた。


「すぐに不動産鑑定士と、魔王城専用の『自動清掃ドローン』の手配をいたします。……ついでに、魔王の玉座は若様の腰に優しくないようですので、最新の低反発素材への張り替えも、リネットに命じておきましょう」


レオンは呆れ果て、しかしどこか満足げにコーヒーを飲み干した。


「……全くだ。お前みたいな狂った執事がいるから、俺の『悪徳領主』計画がいつも『聖者伝説』に書き換えられるんだ。責任を取って、一生俺の汚れた身辺整理(カツアゲの隠蔽)を手伝えよ」


「御意に、若様。地獄の果てまで、若様の『快適な昼寝』をお守りいたしましょう」


窓の外では、夜明けの光が「世界一清潔な街」を照らし始めていた。 レオンは、自分を理解し、全肯定し、その上で最悪の効率で「欲望」を叶えようとするこの老執事こそが、自分の最大の「接収品(財産)」であることを、口には出さずとも自覚していた。


「……セバス。朝飯は、帝国から届いた最高級の卵を使ったエッグベネディクトだ。……それから、アルスの特訓の強度を三割上げろ。あいつが強くなればなるほど、俺の安眠は保証されるからな」


「承知いたしました。……若様の『愛の鞭』、アルス様もさぞかしお喜びになるでしょう」


二人の「主従」という名の共犯関係は、今日もこの世界の常識を、レオンの「怠惰」のために塗り替えていくのだった。

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