第三十話:史上最悪の「増税」と、酒場の狂乱
「……セバス、リネット。よく聞け。俺は決めたぞ。増税だ。」
領主館の執務室で、レオンは不敵な笑みを浮かべて宣言した。 帝国からの賠償金や天才たちの移住で潤っているとはいえ、レオンの「将来への不安(という名の強欲)」は止まらない。
(勇者ルートの終盤になれば、世界経済はさらに不安定になる。今のうちに領民から徹底的に吸い上げ、俺の専用シェルターと、三世代先まで遊んで暮らせる裏金を蓄えておくべきだ。……ククク、これぞ悪徳領主の真骨頂!)
「増税、でございますか? 具体的には……」 「一律、税率三割アップだ。 反発? 知るか。嫌なら出て行けと言ってやれ。その代わり、文句を言わせないための『餌』として、インフラ整備と公共サービスにも少しは回してやる。……あくまで、俺の資産価値を維持するためのメンテナンスとしてな!」
レオンはすぐさま「緊急増税の布告」を領内全域に出した。
その日の夜。街で最も賑わう酒場『赤ら顔の豚亭』。 そこには、増税の知らせを聞いた領民たちが集まっていた。普通なら暴動が起きてもおかしくない状況だが、酒場の中は異様な熱気に包まれていた。
「……おい、聞いたか! レオン様がまた税金を上げやがったぞ!」
一人の農夫がジョッキを叩きつけるように置いた。しかし、その顔は笑っていた。
「ああ、三割も増税だ。……だが、見てみろよ。その布告のすぐ後に、村のすべての街道に『全自動・泥落とし魔導マット』が設置されたんだ! おかげで、市場までの荷運びが三時間も短縮されたぜ!」
「俺のところなんて、増税分で『魔導式・全自動害獣防除ネット』が配備されたんだぞ。今まで徹夜で見張ってたのがバカらしくなるくらい、畑が安全になった。……あのお方は、俺たちの『労働時間』を金で買い取ってくださったんだ!」
カウンターでエールを煽っていた元帝国の技師が、感極まったように叫ぶ。
「……それだけじゃない! 今回の増税分から、若者たちの学園への『返済不要奨学金』が倍増したんだ。レオン様は仰っただろう? 『無能な働き者は資産の無駄だ。賢くなって俺のために働け』とな。……なんて慈悲深いお言葉だ。俺たちの子供を、国の一流の人材に育てようとしてくださっている!」
酒場の主人が、特級のワインを全員に振る舞いながら唱和した。
「レオン様は、俺たちから金を奪っているんじゃない。俺たちが一生かかっても買えない『快適な未来』を、税金という形でまとめ買いして、安く卸してくださっているんだ! レオン様、万歳!!」
「「「レオン様、万歳!!」」」
一方その頃、隠し通路から酒場の様子を偵察していたレオンは、耳を疑っていた。
(……おかしい。なんであいつら、金を毟り取られたのに宴会を始めてるんだ? しかも俺を拝んでるぞ?)
「……若様。どうやら、若様が『メンテナンス』として投資された魔導設備が、領民たちの生産性を三倍以上に向上させてしまったようですな。三割の増税など、増えた利益に比べれば誤差……いえ、むしろ『安すぎる会費』だと彼らは認識しております」
セバスが満足げに眼鏡を拭く。
「……さらには、余った予算で建設された『二十四時間営業・全自動診療所』。若様は『死なれると納税者が減るからな』と仰いましたが、民草の間では『死の淵から救ってくださる救世主の指先』と語り継がれております」
(……嘘だろ。俺はただ、俺の安眠と資産を守るための『効率化』をしただけなのに、なんで聖者扱いが加速してるんだ!?)
「リネット……。次の増税は、五割に……」 「却下。……これ以上取ると、領民の忠誠心が爆発して、領主館の前にレオンの巨大黄金像が建つ……。恥ずかしくて、私が死ぬ」
レオンは頭を抱えた。 悪徳領主として嫌われ、誰も近寄らない孤独な富豪を目指しているのに、彼の歩む道は常に「熱烈な信仰」と「さらなる繁栄」に塗り替えられていくのであった。




