3話
「……ひっ、化け物だ! 逃げろ、逃げろおぉ!」
暗く湿った『忘却の炭鉱』に、山賊たちの悲鳴が木霊する。
かつては王国でも有数の採掘量を誇ったこの場所は、今や凶悪な山賊団の根城と化していた。だが、今この瞬間、立場は完全に逆転している。
「逃がすなと言ったはずだ。逃げられたら、その分だけ俺の取り分が減るだろうが」
暗闇の中、レオンは冷徹な声で呟いた。
その手に握られた古剣が、流麗な軌跡を描いて空を裂く。勇者ルートで培った「最短・最小の予備動作」による一撃は、山賊たちの心臓を正確に、そして「装備を傷つけないよう」に貫いていく。
「ひぎっ……!?」
最後の一人が倒れた時、奥の玉座に座っていた山賊の頭領、ハンスが腰を抜かしていた。
彼はこの界隈で「狂犬」と恐れられた男だったが、目の前の少年の「効率を追求した虐殺」を前に、戦慄していた。
「……ま、待ってくれ! 命だけは助けてくれ! 金ならある、隠し財産を全部出す!」
ハンスの懇願を聞き、レオンの口角が吊り上がる。 レオンはハンスの胸ぐらを掴み、その瞳を覗き込んだ。
「金? 当たり前だ、それは元々俺の領地のものだ。だが、お前にはもっと価値のある仕事(罰)をさせてやる」
「……え?」
「お前のナイフ捌き、見ていたぞ。急所を外してなぶり殺す、実に粘着質で……素晴らしい『素材解体』の才能だ。死ぬまで俺のために、魔物の皮を剥ぎ、敵の身ぐるみを剥がせ。一滴の血、一ゴールドの金貨も残さずにな」
レオンの本音はこうだ。
(勇者ルートの知識で、こいつが将来『魔王軍の拷問官』になるのは知っている。そんな才能、殺すのは勿体ない。俺がこれから狩りまくるレア魔物の素材を、傷一つなく剥ぎ取らせる専属職人としてこき使ってやる)
だが、震えるハンスの耳には、全く別の言葉として届いた。
(……このお方は、俺のようなクズに『死』ではなく『役割』を与えてくださるというのか? 『剥ぎ取り』……それはつまり、悪が蓄えた富をすべて奪い、二度と悪事ができないように浄化せよという聖命……!)
「あ……ああ……! わかりやした、旦那! いや、主様! このハンス、地獄の果てまで『剥ぎ取り』に付き合いやすぜ!」
「……話が早くて助かる。セバス、こいつを洗って軍に組み込め」
背後から、一切の汚れを感じさせないセバスが歩み寄る。
「レオン様、感服いたしました。まさか、極悪非道の山賊をその場で更生させ、正義の執行者へと変えてしまわれるとは。彼に『奪う』ことの本当の意味を教える……なんと深き教育的配慮でしょうか」
(……いや、ただのタダ働き要員なんだけど)
レオンは心の中で毒づいたが、口には出さない。
セバスが勝手に解釈して現場を仕切ってくれるおかげで、自分は「美味しいところ」の回収に専念できるからだ。
「セバス、あとの処理は任せた。俺は奥の『聖域』へ行く」
「御意。周辺の警護は鉄壁に。若様の神聖な儀式、誰も邪魔はさせません」
レオンは鼻歌まじりに炭鉱の最深部へと足を進めた。 行き止まりに見える壁。だが、レオンは迷わず特定の岩を叩く。
隠し扉が開いた先には、眩いばかりの青白い輝き――希少鉱石『真・ミスリル』が眠っていた。
「あった……! これを全部剥ぎ取って、俺の部屋のシャンデリアと、特注の防弾風呂釜を作るんだ」
レオンの目が、欲望でギラギラと輝く。 その時、宝箱の中から隣国の悪徳貴族の汚職証拠を見つけた。
カツアゲのネタにしようとニヤつくレオンを見て、追ってきたセバスがまたしても涙を流す。
「……隣国の腐敗を正す『聖なる鍵』までも見つけ出されるとは。若様、貴方はどれだけ先を読んでおられるのですか!」
数日後。 鉱山を制圧し、莫大な富を持ち帰ったレオン一行。
領民は「救世主」と称え、ハンスは「俺たちはレオン様の浄化の刃だ!」と兵士を鼓舞し、セバスは『レオン様・聖者伝説』の執筆に励む。
レオンは、届いたばかりの最高級シルクのパジャマに身を包み、ふかふかのベッドにダイブした。
「ひっひっひ、計画通りだ。これでしばらくは働かずに済む。あとはセバスに任せて、俺はゴロゴロ……」
「若様! お目覚めですか! 王都から、若様の噂を聞きつけた女騎士フェリス殿と、聖女リアナ様が視察にいらっしゃいましたぞ!」
扉を景気よく開けたセバスの声に、レオンはベッドから転げ落ちた。
「……はぁ!? なんで、第一章でもうメインヒロインが来るんだよ!」
レオンの「平穏なニート生活」への道のりは、あまりにも遠かった。




