第二十七話:帝都の凋落と「死神への請求書」
バルムート帝国の帝都。かつて世界征服の野望を語り合っていた壮麗な会議室は、今や通夜のような静まり返っていた。 円卓を囲むのは、前線から命からがら逃げ延びた数人の将校と、事態の把握に追われる文官たち。そして中央に座る皇帝は、あまりの衝撃に顔を土気色にしていた。
「……報告せよ。我が軍五万はどうなった。王都は落としたのか? 略奪した財宝はどこだ」
皇帝の震える声に、ボロボロになった参謀が膝をつき、絞り出すように答えた。
「……陛下。我が軍は……全滅、いえ『解体』されました。グラウス領の国境を一歩越えた瞬間、重力は狂い、空からは鉄を喰らう怪鳥(飛行船)が現れ、さらには……」
「さらには、何だ!」
「……死神が現れました。漆黒の鎧を纏い、一撃で魔人を粉砕する男……レオン・フォン・グラウスです。彼は我が軍を『不法投棄物』と呼び、バルカス将軍を文字通り地平線の彼方まで殴り飛ばしました……」
会議室に戦慄が走る。だが、真の絶望はそこからだった。 文官の一人が、震える手で分厚い書類の束をテーブルに置いた。
「……陛下、それから先ほど。グラウス領主、レオン氏より『公式文書』が届きました。……タイトルは『帝国軍進攻に伴う、領地清掃費用および迷惑料の請求について』です」
「……請求書、だと?」
皇帝が書類をめくる。そこには、目を疑うような項目が並んでいた。
領地内不法侵入過料(五万人分): 金貨五十万枚
ハンス氏およびフェリス氏の「特別研修講師」派遣料: 金貨二十万枚
レオン氏の制服クリーニング代(特級魔導洗浄): 金貨五万枚
精神的苦痛に伴う安眠妨害慰謝料: 金貨百万枚
合計:バルムート帝国国家予算・三カ年分
「……なっ、ふざけるな! こんなもの、国が滅びるではないか!」
「……追伸がございます。『期限内に支払われない場合、支払い能力の有無を確認するため、直接帝都まで「接収」に伺います。その際の移動費も別途請求します」とのことです……」
会議室に絶望的な沈黙が流れた。 彼らが「雑巾」と蔑んだ辺境の領主は、今や帝国を丸ごと買い叩けるほどの力と、それを裏付ける「狂気的な守銭奴の執念」を持っている。
「……払え。……宝物庫を空にしてでも、今すぐ払うのだ。あの『死神』が帝都に来るくらいなら、金などいくらでもくれてやる……!」
皇帝の悲痛な叫びと共に、かつての大国バルムート帝国は、一人のニート志望者の「クリーニング代」のために、事実上の経済的属国へと転落したのであった。
一方その頃、レオンは届いたばかりの「帝都からの謝罪金(第一弾)」の山を眺めて、リネットとセバスに指示を出していた。
「……よし、これで領地全体の『自動床暖房』の設置予算が確保できたな。セバス、次は魔王軍にも『領空侵犯の事前警告書』を出しておけ。一通につき事務手数料で金貨三枚取るとな」
レオンの「平穏への執着」は、いよいよ国家どころか、魔界の経済までをも脅かし始めていた。




