第二十六話:帝国五万vs領地兵三〇〇――「実戦形式の研修」
逃げ出した傭兵たちの背中を見送りながら、レオンは魔導船の指令室でふと考えた。
(……待てよ。帝国軍の精鋭五万が相手なら、最近レベルが上がりすぎて慢心しているハンスや元山賊たちにとって、これ以上ない「動く標的」じゃないか? 設備投資(魔導武装)の元を取るためにも、一度実戦で耐久テストをさせておくべきだ)
レオンはマイクを手に取り、領地全体に響き渡る声で命じた。
「……ハンス、フェリス。聞こえるか。あそこにいる連中は、今日からお前たちの『特別研修用ダミー』だ。魔導砲は使わん。白兵戦で叩き伏せろ。ただし、敵の装備は『中古資産』として回収するから、なるべく原型を留めたまま、中の人間だけを無力化しろ」
「了解しました、若様! 野郎ども、研修開始だ! 傷一つ付けずに身ぐるみを剥げ!」
ハンス率いる「剥ぎ取り重装歩兵大隊」三〇〇人が、怒号と共に城門から飛び出した。 対する帝国軍五万。数は圧倒的だが、目の前の光景は異様だった。たった三〇〇人の集団が、一人残らず「全身を淡く光る神銀」で固め、一歩踏み込むごとに地面が爆発するような速度で肉薄してくるのだ。
「な、舐めるな! たかが数百人に何ができる! 突撃ィ!!」
バルカス将軍の号令で、帝国重装騎兵が地響きを立てて突進する。しかし、ハンスがリネット特製の『重力分散斧』を軽く一振りした瞬間、衝撃波だけで騎兵隊の先頭集団が馬ごと空中に舞い上がった。
「フェリス様、あっちの隊長クラスは任せたぜ!」 「ええ、閣下の領地の土を汚した罪、その身をもって償わせましょう!」
フェリスが音速を超えた抜刀を見せると、帝国騎士たちの鎧の継ぎ目だけが正確に斬り裂かれ、彼らは「怪我一つないのに全裸」という屈辱的な状態で次々と転がされた。
「な……なんだこの化け物どもは! 帝国の精鋭が、赤子のようにあしらわれている……!」
戦況は数時間で決した。五万の軍勢は、たった三三〇人の「研修生」によって包囲・蹂躙され、戦意を完全に喪失していた。
しかし、本陣に立てこもったバルカス将軍が、禁忌の魔導書を起動。最後の悪あがきとして、周囲の兵士の生命力を吸い上げ、巨大な「血の魔人」を召喚し始めた。
「ハハハ! こうなれば道連れだ! この地を、呪いと死の荒野に変えてくれる!」
(……チッ、あのおっさん、余計なことを! あんな汚い魔物を召喚されたら、土地の資産価値(坪単価)が暴落するじゃないか!)
魔導船のバルコニーで見ていたレオンの我慢が限界に達した。
「セバス、リネット! 船を寄せろ! ――俺の不動産価値を下げようとする奴は、一円の容赦もしない!」
レオンはバルコニーから飛び降りた。 落下中、リネットが空中射出した『接収専用・漆黒の決戦外骨格』がレオンの体に自動装着される。
「……邪魔だ。どけ、お前ら」
着地の衝撃で大地が陥没し、レオンは「一騎駆け」で敵本陣へと突き進んだ。 立ち塞がる帝国兵の壁を、ただ「歩く」だけで弾き飛ばし、巨大な血の魔人の前に立ったレオンは、漆黒の手袋を嵌めた拳を握りしめた。
「俺の領地に……! 変な液体を……! 撒き散らすんじゃ……ない!!」
ドォォォォォォン!!
レオンの「資産を守りたい執念」が込められた一撃が、魔人の核を粉砕。余波だけで帝国の本陣天幕が消し飛び、バルカス将軍は衝撃で遥か彼方の山まで吹き飛んでいった。
静まり返る戦場。 全裸や半裸で転がる五万の帝国兵たちの中心で、レオンは肩で息をしながら、汚れた制服の袖を忌々しげに払った。
「……セバス。クリーニング代、あのおっさんの実家に請求しておけ。あと、転がってる連中の私物、全部数えてリスト化しろ。一銭の漏れも許さんぞ」
「はっ、流石は若様……。一騎駆けで敵の総大将を討ち取りつつ、戦後処理の迅速さまで計算に入れておられるとは。これぞ真の覇道でございますな」
フェリスやハンス、そして遠くで見ていたアルスたちは、夕日を背に立つレオンの姿に、もはや神の再来を見たかのように深く、深く跪くのだった。




