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第二十五話:帝国軍の誤算と、賢い傭兵の「全力逃走」


バルムート帝国軍の先陣を切るのは、金で雇われた歴戦の傭兵団『鉄の牙』であった。彼らは数々の修羅場を潜り抜けてきた実力者たちで、将軍たちの傲慢な言葉を鵜呑みにするほど愚かではない。


「おい、団長……。あそこ、本当に『貧相な村』か?」


副団長が、双眼鏡を覗きながら震える声で言った。 進軍ルートの先、地図上では「ただの荒野」と記されていた場所には、天を衝くような漆黒の城壁がそびえ立っていた。


「……馬鹿な。あの城壁、全面に『オリハルコン』が蒸着されてやがる。しかも、城門の横に並んでいる防衛ゴーレムの動力源……あれ、一個で小国の城が買える『太陽魔石』だぞ」


団長と呼ばれた男は、額に冷や汗を流した。 帝国将軍たちが「農民の凧」と笑った空飛ぶ影――魔導船プロトタイプが、ゆっくりと高度を下げて彼らの真上を通過した。その瞬間、凄まじい風圧と共に、傭兵たちの装備している「安物の鉄剣」が、不気味に共鳴し始めた。


「な、なんだ!? 剣が勝手に引っ張られる!」


「リネット製磁界展開……完了。範囲内の『低質な金属』、全て強制回収(ゴミ拾い)……」


空から無機質な声が響いたかと思うと、傭兵たちの手から剣や盾が次々と吸い取られ、空飛ぶ船の底へと「接収」されていった。


「ひ、ひぃぃぃ! 俺たちの飯の種がぁ!」


その時、城壁のバルコニーに一人の青年が姿を現した。 漆黒の制服を優雅に着こなし、片手には高級なワイングラス。傍らには、銀髪の女騎士と、完璧な姿勢で控える老執事。


レオンはモニター越しに傭兵たちの様子を見下ろし、心底迷惑そうに呟いた。


「……セバス。あの連中、俺の領地の空気を汚している。それに、あんな錆びた剣を振り回して、万が一うちの城壁に傷でもついたらどうする? 修理費だけで彼らの寿命が千回分は必要になるぞ」


「左様でございますな、若様。……いっそ、彼らの持っている『残りの換金可能な私物』も全て回収して、通行税として計上しましょうか」


レオンはため息をつき、スピーカー(魔導拡声器)のスイッチを入れた。


「……下のゴミ……失礼、迷い子たちに告ぐ。お前たちが踏んでいる土は、一坪あたり金貨十枚の『特別保護区』だ。一歩歩くごとに課金が発生している。今すぐ全裸で逃げ出せば、追徴課税は免除してやろう」


「……逃げろ!! 全員逃げろぉ!!」


団長が叫んだ。 「あれは戦争じゃない! 災害だ! いや、地獄の借金取りだ! 相手にするな、命を接収されるぞ!」


『鉄の牙』の面々は、帝国との契約も、前払い金も、誇りもすべて投げ捨てた。彼らは装備を剥ぎ取られた半裸の状態で、全速力で来た道を逆走し始めた。


「将軍に伝えろ! あの先にあるのは村じゃない! 宇宙から来た『黄金の化け物』の巣窟だ!!」


五万の軍勢のうち、先鋒を務めていた三千人の傭兵が、一戦も交えず、一発の矢も射たれずに、「恐怖」と「経済的威圧」だけで戦場から消え去った。


それを見たバルカス将軍は、本陣で泡を食っていた。 「な、なんだ!? 傭兵どもが全裸で走って戻ってくるぞ!? 何が起きたんだ!」


レオンはモニターを見ながら、リネットに指示を出した。


「……よし、落とし物はしっかり回収しろよ。次は、あそこにいる『豪華なテント』を張ってる連中だ。あのテントの布、いい素材使ってそうだな。……あれも接収だ」


レオンの「過剰な防衛」という名のカツアゲが、いよいよ帝国の本隊へと牙を剥こうとしていた。

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