第二十二話:四天王、来襲。そして「秘宝」の査定
グラウス領の北端、不気味な暗雲が空を覆い尽くした。 雷鳴と共に降り立ったのは、魔王軍四天王の一人、『狂犬のゼノス』。その身には、あらゆる物理攻撃を無効化し、周囲の魔力を強制吸収する魔王軍の至宝**『虚無の黒盾』**が輝いていた。
「ヒャッハッハ! ここが最近噂の成金領地か! 勇者の卵ともども、俺の盾で全てを吸い尽くしてやるぜ!」
一方、レオンは空飛ぶ魔導船のバルコニーから、特注の双眼鏡でその様子を眺めていた。
「よしよし、アルスが行ったな。いいぞ、三日でレベル25も上げたんだ。あいつを盾にして、俺は今のうちに領地の金庫をさらに堅牢な場所に……」
だが、リネットがモニターに映し出した「敵の装備データ」を見た瞬間、レオンのティーカップが手から滑り落ちた。
「……リネット。あのゼノスとかいう奴が持ってる盾。……あれ、勇者ルートの最終盤でしか手に入らない、伝説級の超希少魔導金属製じゃないか?」
「肯定……。市場価値、計測不能。……換算すれば、王国一個分の国家予算に匹敵……」
レオンの目が、カッと見開かれた。 (王国一個分!? あれを接収すれば、俺のニート生活は『一生』どころか『来世の分』まで保証される! アルスに壊されたり、教会の聖騎士団に回収されたりしたら、一生の不覚だ!)
「セバス! 予定変更だ! あの『動く金塊』を他の誰にも触らせるな! リネット、最大出力で船を急降下させろ! フェリス、援護の準備をしろ! あれは……俺の物だ!!」
戦場では、勇者アルスがゼノスの圧倒的な盾の防御に苦戦していた。 「くっ……僕の攻撃が、全て吸い込まれる……! さすが四天王……!」
「死ねよ勇者! この盾の前では、どんな正義も無……ぶべっ!?」
絶叫するゼノスの真上から、音速を超えた魔導船が猛烈な勢いで着陸した。土煙の中から現れたのは、これまでにないほど血走った目をしたレオンである。
「……貴様。その盾、許可なく我が領地に持ち込んだな。不法投棄および、あまりに高価な品を俺の前に晒した『精神的誘惑罪』で、今すぐ没収する」
「な、なんだ貴様は!? この『虚無の黒盾』に触れれば、貴様の魔力も……」
レオンはリネットが開発した「絶縁体・絶縁魔・超高圧接収グローブ」を装着し、ゼノスの盾を力任せに掴んだ。
「うるさい。これは俺の『将来の別荘』だ。離せ、この……狂犬野郎!!」
ドゴォォォォン!!
レオンの「強欲」という名の暴力が、物理法則を超越した。盾の魔力吸収限界を、レオンの「独占欲」が上回った瞬間、至宝はゼノスの腕から強引に引き剥がされた。
「……はぁ、はぁ。よし、リネット、すぐに防錆加工と鑑定に回せ。傷一つ付けるなよ」
盾を奪われ、文字通り「武装解除」されたゼノスは、呆然と立ち尽くしていた。四天王の威厳など微塵もない。
「……盾が……俺の、魂よりも大事な盾が……あんな一瞬で……?」
そこに、フェリスが剣を構えて駆け寄る。 「流石は閣下! 勇者アルス様が苦戦する四天王の『最強の牙』を、自ら無力化してしまわれるとは! 敵の力を奪うことで、これ以上の流血を止めようとなされたのですね!」
アルスもまた、震える手で剣を握り直し、レオンの背中を見つめた。 「レオンさん……僕が盾を壊してしまわないように、あえてご自身の手で回収されたんだ……。僕に、本物の『強者』の引き際を見せてくれるために……!」
(※実際は、一ミリでも傷がつくと査定額が下がるのが怖かっただけである)
「……アルス。後は好きにしろ。牙の抜けた犬に興味はない」
レオンは奪った盾を愛おしそうに磨きながら、そそくさと船へ戻っていった。残されたゼノスは、レベル50になったアルスの怒りの一撃を浴び、星となって消えていった。
その夜。グラウス領の領主館では、史上最高額の「戦利品」を前に、レオンが邪悪な笑みを浮かべていた。
「ひっひっひ……。四天王が来るたびに装備を奪えば、魔王を倒す頃には俺は世界の王になれるぞ……」
「若様、魔王軍から『宣戦布告』が届きましたぞ。四天王を倒した若様を、魔王軍の『最大の敵』と認定したようですな」
セバスの報告に、レオンの笑みが凍りついた。
「……え、俺? アルスじゃなくて、俺がターゲット!?」
「左様で。……ああ、なんと名誉なこと。魔王ですら恐れる、漆黒の守護神。……若様、次の『接収』も楽しみですな」
レオンは「盾なんて奪わなきゃよかった!」と叫びたい気持ちを抑え、次の「防衛費」をどこから捻出するか、計算機を叩き始めるのだった。




