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第二十一話:勇者の停滞と「スパルタな慈悲」


手に入れた魔導飛行船を『空飛ぶ究極の怠惰空間』に改造し、優雅な夏休みを謳歌していたレオンだったが、セバスが持ってきた「王都の近況報告」を聞いて、思わず紅茶を吹き出した。


「……何? アルスのレベルがまだ『25』だと!? 嘘だろ、あいつもうすぐ魔王軍四天王の一人、『狂犬のゼノス』に襲撃されるイベントが発生する時期だぞ!」


勇者ルートの知識によれば、アルスはこの時期にレベル40には到達しているはずだった。しかし、レオンが先回りして素材を独占し、闇組織を壊滅させ、山賊まで根こそぎ接収してしまったため、アルスが戦うべき「手頃な敵」が絶滅していたのである。


(マズい……。このままだとアルスがゼノスに瞬殺される。そうなれば、魔王軍の矛先がこの豊かな我が領地に向いてしまう! 俺のニート生活を守る盾(勇者)が、これじゃただの紙屑だ!)


「セバス! すぐにアルスをこの飛行船に拉致……いや、招待しろ! リネット、特訓用の『過保護な殺戮空間』を準備しろ!」


数時間後、飛行船に招かれ(拉致され)たアルスは、豪華なサロンで震えていた。 「レオンさん……わざわざ僕を呼んでくれるなんて。……でも、僕、まだ全然ダメなんです。最近、魔物一匹見つからなくて、全然修行が進んでなくて……」


レオンは冷徹な仮面を被り、内心の焦りを隠して言い放った。


「……アルス。お前のその『鈍さ』には反吐が出る。魔王軍の足音が聞こえないのか? お前のような弱者を放置しておくのは、俺の領地の景観を損ねる。――リネット、始めろ」


「了解……。仮想敵エネミー生成。……設定、生存率0.01%……」


リネットが起動した『魔導VR訓練室』に、アルスは無理やり叩き込まれた。そこは、レオンが領地で乱獲した強力な魔獣の「魂のコピー」が無限に湧き出る、地獄のレベル上げ会場だった。


「ひ、ひぃぃぃ! レオンさん、これ、死んじゃいます!」


「死ぬ気で戦え! お前が死んだら、俺の投資(不用品の聖剣)が無駄になる! セバス、こいつが倒れるたびに最高級の回復ポーションをぶっかけろ! 眠らせるな、二十四時間体制でレベルを吸い上げろ!」


レオンはバルコニーから、叫び声を上げながら魔獣に立ち向かうアルスを眺め、優雅に高級ブドウを口に運んでいた。


(よしよし、いいペースだ。これでゼノスが来ても、アルスが盾になってくれる。俺はその後ろで、接収した金を数えていればいい……)


だが、その様子を見守るフェリスの目には、またしても「別の真実」が映っていた。


「……ああ、閣下! 自らの貴重な魔導船のリソースを全て注ぎ込み、あえて『悪鬼』となってアルス様を鍛え上げている……。もしアルス様がこのままでは死ぬと悟り、ご自身の悪名を犠牲にしてまで、彼に『生き残るための力』を授けようとなされているのですね!」


フェリスは涙を流しながら、アルスに向かって叫んだ。 「アルス様! 閣下の愛を受け止めなさい! 閣下は貴方が死ぬことを、世界の誰よりも恐れているのです!」


(※実際は、自分が戦わされるのを誰よりも恐れているだけである)


三日後。 訓練室から出てきたアルスは、レベル50に到達し、全身から凄まじい覇気を放っていた。その瞳は、もはや迷いなき「勇者」のそれへと進化している。


「レオンさん……。僕、わかりました。あなたは僕に『絶望』を教えることで、本当の『希望』を引き出してくれたんですね。……この恩、一生忘れません!」


(ふぅ、これで一安心だ。ゼノスが来たら、真っ先にこいつをぶつけてやろう)


「ああ、勝手にしろ。……リネット、次は俺の部屋に『全自動・背中流し機』を設置しろ。疲れたから寝る」


レオンが自室へ消えた後、アルスは空を見上げ、固く拳を握りしめた。 「レオンさんの愛に応えるためにも、僕は負けられない……!」


その頃、魔王軍四天王の一人、ゼノスがグラウス領の境界に近づいていた。 彼はまだ知らない。自分が戦うはずの勇者が、一人の「ニート志望のクズ」によって、想定外の化物へと改造されていることを。

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