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2話

「若様、ご報告いたします。前当主(父君)ならびに長男(兄君)の『身辺整理』、完了いたしました」


朝食の席についてから一時間も経っていない。 優雅にクロワッサンを口に運んでいたレオンの前に、セバスが血の匂い一つさせずに現れた。


「……もう終わったのか?」


「はい。旦那様方は最初、何やら大きな声を出しておられましたが……私が『レオン様は一族の罪をすべて背負い、地獄へ向かう覚悟を決められました。邪魔をするなら、ここで引導を渡します』と申し上げたところ、驚くほど静かに、北へ向かう馬車にお乗りになりました」


(……絶対に力ずくで黙らせたろ、これ)


レオンは頬を引き攣らせた。 だが、これでいい。あのクズな身内がいれば、レオンが蓄えた資産を勝手にギャンブルや汚職に使い込まれたはずだ。


「そうか。で、親父たちの隠し金庫の中身は?」


「こちらに。金貨にして三万枚相当の宝石と、闇ギルドとの取引明細、そして……」


セバスが卓上に並べたのは、眩いばかりの財宝。レオンの目が、前世のゲーマー時代の「ドロップ品」を見る輝きに変わる。


「最高だ……! これだけあれば、とりあえず『漆黒の重騎兵団』の装備を一式買い揃えられる。あ、いや、私兵たちの装備を整えられるな」

「……おお! 没収した私財を即座に兵の軍備に充てるとは! 自らの贅沢を後回しにし、まずは領民を護る盾を強固にされるのですね。兵士たちも涙を流して喜びましょう」


(いや、違う。俺を護るガードマンが弱かったら、俺が死ぬだろ。あと余った金で最高級のシルクのシーツ買うつもりなんだけど)


レオンは口を挟もうとしたが、セバスの感動しきった瞳を見て諦めた。 ここで否定して、セバスの「やる気」を削ぐのは得策ではない。


「……まあ、そういうことにしておけ。セバス、次は領主軍の全兵士を広場に集めろ。俺が直接『教育』してやる」


グラウス領主館の前にある訓練広場。


そこには、やる気のない、薄汚れた鎧を着た五百人の兵士たちが集まっていた。


彼らは代々の悪徳領主のもとで、領民をいじめることしかしてこなかった、いわば「ならず者の集団」だ。


壇上に立ったレオンは、彼らを見下して鼻で笑った。


「お前ら。今日から、この俺が新しい主だ」


兵士たちの間に、馬鹿にしたような失笑が漏れる。 十五歳の、温室育ちの若造に何ができる――そんな空気だ。


「いいか、俺は慈悲深い領主様じゃない。俺が欲しいのは、金と、レア素材と、平穏な生活だ。それを邪魔する奴は、魔物だろうが隣国の軍だろうが、一匹残らず『剥ぎ取る』」


レオンは腰の剣――といっても、まだ実戦経験はないが、勇者ルートの知識で「初期位置に隠されていた最強の古剣」を抜いた。


「俺に従え。そうすれば、お前らには山賊から奪った財宝の三割を報酬としてやる。略奪じゃない、『正当な報酬』だ。だが、もし俺の命令を聞かずに獲物を逃したり、俺の足を引っ張るような奴がいれば……」


レオンは、広場の隅にある巨大な装飾岩に向けて、古剣を無造作に振るった。


勇者ルートで培った「効率的な魔力操作」の知識。筋力ではなく、世界に満ちる魔力回路を最適化する一撃。


ドォォォォォン!!


一瞬の閃光とともに、巨大な岩が綺麗に真っ二つに割れ、断面から高熱の蒸気が上がる。


「……死ぬより惨めな目にあわせてやる」


広場が、静まり返った。 兵士たちの顔から余裕が消え、代わりに「この男は、自分たちの想像を絶する怪物だ」という恐怖、そして「ついていけば金になる」という強欲な熱が宿る。


「若様……なんと、なんと慈悲深い!」


静寂を破ったのは、やはりセバスだった。


「略奪品を兵に分かち合うことで経済の循環を促し、圧倒的な武力を見せることで無駄な反抗による死傷者を防ぐ……。そして、あの岩を斬ったのは『私が盾になるから安心せよ』という無言のメッセージですね! 兵士たちよ、見よ! 我らが新当主、レオン様の御姿を!」


「「「レオン様万歳!! グラウス領に栄光あれ!!」」」


ならず者だった兵士たちが、一瞬で狂信的な精鋭軍団のような顔つきで怒号を上げた。


(……ええ? 三割もやるって言ったのは、お前らが逃げないようにするための最低限のコストなんだけど? セバス、お前どういう脳内変換したんだよ)


戸惑うレオンを余所に、セバスは満足げに頷き、手帳に筆を走らせる。 その表紙には、『レオン様・聖者伝説:第一巻』と記されていた。


「よし、お前ら。最初の獲物は『忘却の炭鉱』を根城にする山賊どもだ。あいつらが溜め込んだ宝は、今日から全部俺のものだ。一人も逃がすな、一ゴールドも残すな! 剥ぎ取り開始だ!」


「「「ヒャッハー!! 剥ぎ取りだぁぁぁ!!」」」


こうして、聖者(予定)が率いる、世界で最も強欲で凶悪な「正義の軍隊」が出撃した。

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