第十一話・追記:酒場の喧騒と漆黒の英雄譚
その夜、グラウス領で最も賑わう酒場『赤ら顔の豚亭』は、これまでの活気を遥かに超えた熱狂に包まれていた。 真新しい許可証を誇らしげに掲げた公営カジノ『深夜の梟』から流れてくる陽気な音楽と、酒場から沸き起こる大声援が入り混じり、街全体が祝祭の様相を呈している。
「おい、聞いたか! 『蛇のブライアン』の賭場が潰されたってよ! あいつら、どうせまた汚い手で俺たちの金を巻き上げてたんだ!」
「ああ、だが新しい『公認カジノ』は違う! 坊ちゃんが直々に監視してるから、イカサマは一切なし! しかも、稼いだ金は全部、領地の孤児院――いや、『レオン様英才学院』の運営費に回されるんだってな!」
かつては重税と闇稼業に怯えていた男たちが、今や公言して憚らない「レオン様賛歌」を口々に叫び、安酒ではなく質の良いエールをジョッキで煽っていた。 カウンターでは、元山賊の兵士たちが、自らの「武勇伝」を誇らしげに語っている。
「へへっ、あの悪党どもが坊ちゃんに頭下げて土下座してたぜ。『公認カジノの運営をさせてください』ってよ! 坊ちゃんが『売り上げの四割は領地に収めろ。嫌なら剥ぎ取る』って言ったら、みんな震え上がってやがった!」
(※実際は「剥ぎ取って領地から追い出す」という意味だったが、兵士たちには「坊ちゃん特製の残酷な拷問」と誤解されている)
「フェリス様も言ってたぞ。『悪を社会に組み込み、その活力を領地のために使う。閣下は、光と闇の双方を支配する真の王だ』ってな! 俺たちも、閣下の『闇の兵士』として、これからも悪党どもを……いや、閣下に反抗する奴らを狩り続けてやる!」
酒場の主人は、忙しそうにジョッキを洗いながら、感無量といった表情で頷いた。 「まさか、この街に『公認の賭場』ができるとはな……。しかも、そこから得た金が子供たちの未来に使われるんだ。レオン様は、俺たちには見えないところで、ずっと街のことを考えてくださってたんだな……」
壁にかけられた、レオンの肖像画――漆黒の鎧を纏い、どこか不敵な笑みを浮かべた姿に、男たちは口々に乾杯の音頭を取った。
「レオン様、万歳!」 「グラウス領に永遠の繁栄を!」
酒場の喧騒は夜遅くまで続き、領民たちの心には、もはやレオンの存在は「聖者」や「義賊」を超え、「この地の全てを司る絶対的な王」として深く刻み込まれていた。 それは、レオン自身の意図とは全く異なる、しかし揺るぎない「信仰」となっていたのである。




