第十五話:棄権すら許されない「魔王」の威圧
学園の一大イベントである「対抗戦(武闘大会)」が始まった。
この大会は、貴族の子弟たちが互いの実力を示し、将来の序列を決める重要な場だ。しかし、レオンにとってはどうでもいい。
(面倒くさい。学園で暴れて目立てば、王家から目をつけられる。それに、俺はニート生活が目標だ。体力を使うのは馬鹿らしい。よし、棄権しよう)
レオンは対戦表を見て、迷わず棄権届を出そうとした。だが、それを見たセバスが驚愕の表情で制した。
「若様、何をお考えで!? この対抗戦は、若様の『圧倒的な力』を、学園の青二才どもに見せつける絶好の機会では!?」
「いや、目立ちたくないんだ。平穏に暮らしたい」 「まさか、若様は『相手を傷つけたくない』という慈悲の心から、棄権を……!? なんと、なんと聖人君子な……!」
セバスは一人で勝手に感動し、フェリスもまた、熱い眼差しでレオンを見つめた。
「閣下……。その力ゆえに、弱き者を傷つけることを厭われるのですね。私、その高潔な騎士道に涙が止まりません!」
結局、セバスとフェリスに説得(圧力)され、レオンはしぶしぶ試合に出場することになった。
だが、彼は対戦相手が自分だと知れば、勝手に自滅してくれるだろうと高を括っていた。
「……レオン・フォン・グラウス! 入場!」
アナウンスと共に、漆黒の制服を纏ったレオンが、ふてぶてしい顔で闘技場の中央へ歩いていく。
その姿を見た瞬間、対戦相手の貴族令息は、顔面を蒼白にして震え上がった。
「ひっ、ひぃぃぃっ! ま、まさか、あの『グラウスの死神』と戦うだと!?」
数日前、サロンで一晩にして家を潰された貴族たちの惨状は、学園中に広まっていた。 特に、レオンの背後から感じる「底知れない悪意(保身のオーラ)」は、相手に本能的な恐怖を植え付けた。
「お、俺は……お、俺はこんなところで死にたくな……」
対戦相手は、レオンが何も言わないうちに、突然自分の足に絡まって派手に転倒した。 その際、頭を強打し、泡を吹いて気絶。
「し、勝者……レオン・フォン・グラウス!」
アナウンスが響き渡り、観客席は静まり返った。 レオンは呆れた顔で呟く。
「……なんだ、アイツ。勝手に転んで気絶しやがった。これだから最近の貴族は……」
(※実際は、レオンの放つ『悪意のオーラ』が強すぎて、恐怖で脚がもつれたのである)
試合後、レオンは面倒くさそうに次の対戦表を確認した。 次の相手は、学園最強と謳われる剣術の天才、そして勇者アルスの友人でもある『騎士公爵家』の嫡男だった。
「ふん。あの剣馬鹿なら、さすがに勝手に転びはしないだろう。……よし、適当に打ち合って、隙を見て降参すればいい」
レオンはそう考えたが、事態は思わぬ方向へ進む。 翌日。闘技場に現れた騎士公爵家の嫡男は、レオンの姿を見るなり、突然膝から崩れ落ちた。
「レオン閣下……! 貴方様の偉大なる御足に、このような凡俗の剣を突きつけるなど、恐れ多くてできません……! 棄権させていただきます!」
「はぁ!?」
レオンが目を丸くする間に、セバスが素早くマイクを奪い取った。 「流石は若様! その慈愛と威厳は、剣すらも自ら鞘に収めさせるのですね! 完璧な勝利でございます!」
「勝者、レオン・フォン・グラウス!」
こうして、レオンは一度も剣を抜くことなく、対抗戦を全勝で勝ち進んでいくことになった。 観客席では、勇者アルスが感極まって叫んでいた。
「見てください、リアナさん! レオンさんは、暴力を使わずに、ただその『存在感』だけで相手を改心させている! 僕も、レオンさんのような『武力に頼らない強さ』を身につけたい!」
リアナもまた、熱い視線をレオンに送る。 「……ええ。レオン様は、まさに『争いを生まぬ平和の体現者』。……きっと、決勝でも相手は戦うことすらできないでしょう」
(……嘘だろ。まさか、俺の「目立たないように振る舞う」という作戦が、まさかここまで裏目に出るなんて……!)
レオンは決勝戦の相手が「勇者アルス」であることを確認し、血の気が引くのを感じた。




