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第十三話:謙虚な登校と「威圧」の制服


「……いいか、セバス。王都は伏魔殿だ。変に目立てば、無能な貴族共に嫉妬され、王家からは警戒される。俺はあくまで『地方から来た地味な特待生』として、静かに図書室の利権を漁り、学園生活を謳歌ニートするつもりだ」


王都に構えたグラウス家別邸。登校初日の朝、レオンは鏡の前で念を押した。


「左様でございますな。若様のその奥ゆかしさ、王都の者共も見習うべきかと。……して、本日の装いは?」


「ああ。リネットに作らせた『目立たないための標準装備』だ」


レオンが身に纏ったのは、一見すると地味な黒の学生服。


しかし、その実体はリネットが心血を注いだ**「過保護の結晶」**であった。


表地: 深海に生息する絶滅危惧種『幻影クラーケン』の墨で染めた、魔法完全吸収繊維。


裏地: 物理衝撃を熱エネルギーに変換して無効化する『金剛龍』の薄皮。


ボタン: 精神干渉を遮断する特級魔石の削り出し。


靴: 履いているだけで疲労を自動回復し、地面との摩擦音を消す無音の軍靴。


「……ふむ。色も黒だし、装飾もない。これなら誰も俺を見ないだろう。完璧だ」


レオンは満足げに頷いた。


彼にとっての「最高級」とは「死なないための性能」であり、それが王都の貴族が誇る「宝石や刺繍の豪華さ」とは別の次元の価値を持っていることに、彼は気づいていなかった。


学園の門を潜った瞬間、喧騒が止まった。 馬車から降りたレオンが歩き出すたび、モーセの十戒のごとく生徒たちが左右に割れていく。


「な……なんだ、あの生徒は……」


「漆黒の布地から漏れ出している、あの圧倒的な魔力障壁の揺らぎ……。あんなもの、王宮魔導師でも見たことがないぞ」


王都の貴族たちは、見た目の派手さよりも「本物の強さ」に敏感だ。


彼らの目には、レオンの着ている「地味な制服」が、**『一国を滅ぼせるほどの軍資金が詰まった、生ける要塞』**に見えていた。


「おい、あのボタン……国宝級の魔石じゃないか? それをあんなに無造作に……」 「靴が地面に触れる音がしない。……常に浮遊魔法か気配遮断を使っているのか? 登校中だぞ!?」


レオンは周囲の視線を感じ、内心で舌打ちした。 (……ちっ、やっぱり地方出身者は浮くのか。みんなが俺を凝視している。やっぱり、ボタンを金剛石にするのはやりすぎだったか? いや、耐熱性能を考えれば妥当なはずだ)


「閣下、皆様が道を開けて待っております。これぞ覇道の歩み、流石でございます」

背後に控えるフェリスが、誇らしげに胸を張る。


「……フェリス、違う。みんな俺の『田舎臭い格好』を笑ってるんだ。気にするな、無視して教室へ行くぞ」


教室に入ると、そこには既に勇者アルスがいた。 アルスはレオンの姿を見るなり、椅子を蹴って立ち上がり、キラキラした目で駆け寄ってきた。


「レオンさん! おはようございます! その制服……すごいです! 一見シンプルなのに、内に秘めた力が凄まじすぎて、僕、感動して鳥肌が止まりません!」


「……ああ、おはよう。これか? 領地の内職で作らせた安物だ。気にするな」


(※リネットの時給と素材費を合わせれば、学園の校舎を三つ建て直せる値段である)


「『安物』……!? そうか、レオンさんにとっては、これほどの奇跡の衣も『当たり前』のことなんですね。僕、もっと修行しなきゃダメだ……!」


アルスは勝手に自らの未熟さを呪い、拳を握りしめた。 その隣で、聖女リアナもまた、レオンの制服の裾に触れようとして、その指先が拒絶されるほどの魔力密度に頬を染めた。


「……素晴らしいわ。贅を尽くすのではなく、機能を研ぎ澄ますことで到達する、この究極の機能美。レオン様、貴方は本当に、飾ることを知らない純粋な『守護者』なのですね」


(……よし。どうやら『質素で地味な学生』という設定は、概ね成功したようだな)


レオンは、周囲が恐怖と羨望でガタガタと震えていることに気づかぬまま、窓際の「目立たない席」に座り、悠々と二度寝の準備を始めるのだった。

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