第十二話:学園入学と「慈悲深い」投資
「……なぜだ。なぜ俺が、今さら学生なんて面倒な真似を……」
王都へ向かう豪華な魔導馬車の中で、レオンは深い溜息をついた。
リネットが開発した「全自動・移動式マッサージチェア」に身を沈めながら、彼は手元の「入学案内」を忌々しげに眺める。
レオンの狙いは単純だ。
(勇者ルートの本編が始まる。主人公のアルスが学園に入るこの時期、王都には「将来の重要人物」と「カモにできる悪徳貴族」が密集する。学園に潜り込んでアルスに適当な『おこぼれ』を与えて恩を売りつつ、敵対する無能な貴族どもから合法的に資産を毟り取る……。これこそが、俺の将来の安泰を盤石にする最後の仕上げだ!)
だが、隣に座るフェリスは、その溜息すらも「高潔な決意」と受け取っていた。
「閣下……。自らの領地を離れ、あえて格下の者たちが集う学園へ。……その目的は、次世代を担う若者たちを導き、腐敗した王都の社交界を内側から浄化するためなのですね。その忍耐、このフェリス、感銘を受けております」
「……いや、単に学園の図書室にある『禁忌の魔導書(金になる知識)』を接収しに行くだけなんだが」
「……禁忌の知識すらも正しく使いこなそうとされるとは。流石でございます」
学園の門を潜った瞬間、全生徒の視線がレオンに突き刺さった。
他の貴族たちが華美な礼服を纏う中、レオンはリネット特製の「物理・魔法攻撃9割カット」の漆黒の制服(見た目は死神のよう)を身に纏い、背後には「生ける伝説」と化している執事セバスと、氷の女騎士フェリスを従えている。
「あ、あの人が……噂の『グラウス領の聖者』、レオン様……?」 「なんて禍々しくも、神々しいオーラなんだ……」
そこに、一人の少年が駆け寄ってきた。勇者ルートの主人公、アルスだ。
彼はまだ自分の運命を知らず、安物の剣を腰に下げた特待生に過ぎない。
「あ、あの! 僕はアルスと言います! グラウス卿、あなたの噂は聞いています! 領民を救うために自ら悪役を演じていると……僕、尊敬してるんです!」
(……出たよ、キラキラした目の勇者様。こいつを今のうちに『飼い慣らして』おけば、将来俺の領地が襲われた時に盾にできるな)
レオンは冷淡な顔を作り、懐から「大森林で拾った型落ちの聖剣」を無造作に放り投げた。
「……拾え。そのなまくらでは、俺の視界を汚す。それを使いこなせたら、少しは話を聞いてやる」
「えっ……こ、これ、伝説の『白銀の魔剣』じゃないですか!? こんな貴重なものを、初対面の僕に……!?」
アルスは震える手で剣を抱え、涙を流した。
(※実際は、倉庫の場所を取っていた「捨てるのが面倒な不用品」である)
「レオンさん……。僕、わかります。あなたは言葉では突き放しながらも、僕の中に眠る可能性を信じて、この『愛の試練』を与えてくださったんですね!」
その日の夜、学園の歓迎パーティという名の社交界。
レオンは、勇者ルートで「後に魔王軍に寝返る汚職貴族」たちのテーブルへ、獲物を狙う鷹のような目で近づいていった。
「……バルガス子爵。貴殿が管理している『王都東門の通行権』、あまり利益が出ていないようだな。……俺が『適正な価格(格安)』で買い取ってやろうか? それとも、貴殿が裏で流している禁製品の証拠を、今ここで披露したほうがいいか?」
「なっ……貴様、何を……っ!」
レオンの口角が吊り上がる。
(勇者のために資金を稼ぐフリをして、こいつらの利権を全て『接収』する。学園卒業までに、王都の経済の半分を俺の手に堕としてやる……!)
それを見ていた聖女リアナは、会場の隅で胸を熱くしていた。
「……見て、アルス様。レオン様は、悪徳貴族たちに自ら『罪の告白』を促しているのですわ。彼らから奪った利権で、きっとまた困っている人たちを救うつもりなのですね……。なんて、なんて孤独で慈悲深い戦いなのでしょう……!」
こうして、レオンの「学園での資産狩り」は、周囲には「王都の腐敗を正す聖者の粛清」として、熱狂的に受け入れられていくのであった。




