第十一話:漆黒の浄化と「人材育成」
「セバス、ハンス。街の中に蔓延るネズミどもを掃除するぞ。……あちこちで勝手に賭場を開いたり、路地裏で違法な店をやってる連中だ。俺の許可なく俺の領地で金を動かす奴は、一ペニーたりとも許さん」
レオンの冷徹な号令に、ハンスが野卑な笑みを浮かべ、フェリスが正義の剣を鳴らした。
レオンの目的は、道徳心ではない。
(勝手な賭場や闇商売は、俺の取り分(税金)を掠め取る害悪だ。それに、無計画な治安悪化は領地の資産価値を下げる。不健全な娯楽は、俺が管理・公認する区画に押し込め、そこからキッチリ『管理料』を徴収するのが一番効率がいい!)
その夜、レオン率いる領主軍は電撃的に街を掃討した。 闇カジノや非合法な店は次々と摘発され、震え上がる悪党たちの前に、漆黒の鎧を纏ったレオンが降り立つ。
「今日から、この領地での博打と夜の商売は『公営制』とする。許可された特区以外での営業は一切認めん。……その代わり、許可証を持つ奴は俺が保護してやる。売り上げの四割を納めろ。嫌なら今すぐこの領地から『剥ぎ取られて』出て行け」
悪党たちは、レオンの圧倒的な威圧感と「保護」という甘い言葉に屈し、その場で軍門に降った。
これを目撃したフェリスは、またしても瞳を潤ませる。
「……閣下。あえて悪を完全に滅ぼさず、秩序の光が届く場所へ隔離し、管理下に置くことで、より大きな犯罪を防ごうというのですね。……罪人すらも社会の歯車として活かす、その深い慈悲と知略。感服いたしました!」
「若様、特区からの収益計算、完了しました。従来の闇市場よりも安定して稼げますな」
セバスの補足に、レオンは満足げに頷いた。
次に向かったのは、街の外れにある崩れかけた孤児院だった。
そこには、前領主の圧政で親を失った子供たちが、飢えに震えながら身を寄せ合っていた。
レオンは無造作に、最高級のパンと肉、そしてリネットが開発した「全自動・洗濯乾燥機(魔導式)」を孤児院に放り込んだ。
「今日からここには、俺が潤沢な予算をつぎ込む。……ただし、ただで飯を食わせるわけじゃない。文字を覚え、計算を学び、魔法と剣の訓練を受けろ。お前たちは将来、俺の『手足』となって働いてもらう。逃げ出すことは許さん」
レオンの本音はこうだ。
(今の兵士たちは元山賊やならず者で、知性に欠ける。将来、俺の経済支配を盤石にするには、俺に忠実で、かつ高度な教育を受けた官僚や魔法騎士が必要だ。孤児なら余計な派閥もないし、恩を売っておけば『死ぬまで働いてくれる最強の駒』になる!)
しかし、子供たちの目には、漆黒の鎧の騎士が「救いの神」に見えていた。
「……ありがとう、お兄ちゃん! 僕たち、一生懸命勉強して、お兄ちゃんを助けるよ!」
「…………お兄ちゃん、じゃない。閣下と呼べ」
照れ隠しで冷たく突き放すレオンの姿を見て、フェリスはついに号泣した。
「……ああ! 未来を担う子供たちに、教育という名の『翼』を授け、彼らの人生に目的を与えられるとは! 閣下は、この領地の『父』になろうとされているのですね!」
数日後。 街には「公認カジノ」が誕生し、そこから得られる莫大なテラ銭が領地の財政をさらに潤した。
一方で、孤児院は「グラウス英才士官学校」へと改装され、子供たちは「聖者レオン様のために!」と目を輝かせて勉学に励んでいる。
「ひっひっひ……。特区からの税収で潤い、将来は有能な部下が勝手に育つ。俺は寝室から指示を出すだけで、世界が回るようになるぞ……!」
ベッドでゴロゴロしながら、リネットが作った「自動ブドウ剥き機」の果実を口にするレオン。
その姿は、領民たちには「領地の千年先の安寧を計画し、束の間の休息をとる至高の賢者」として崇め奉られていた。
一方、王都ではレオンの評価がさらにバグり始めていた。 「グラウス卿は、犯罪者すらも更生させ、孤児たちに希望を与える教育の先駆者である」と。




