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第十話:素材の帝王と「勘違い」のバブル


隣国の砦から「接収」した莫大な資金は、リネットの手によって、領内に「超効率型・魔導素材加工工場」という形へ姿を変えていた。


これまで、魔獣の死骸は「処分に困るゴミ」か「一部の専門家が扱う贅品」だった。


だが、レオンは勇者ルートの知識を用い、どの部位がどのポーションや装備の原料になるかを完璧にマニュアル化したのである。


「ハンス! 『岩鉄竜ガンテツリュウ』の鱗は剥がすな、叩き割って粉にしろ! その方が王都の錬金術師ギルドに三倍の値段で売れる。一枚も無駄にするな、それは俺の『高級羽毛布団』に変わる金だ!」


「がってん! 坊ちゃん、今日も『金色の山』を築いてやりやすぜ!」


ハンス率いる剥ぎ取り部隊は、もはや軍隊というより「高収益を追求する戦闘集団」へと変貌していた。


一ヶ月後。グラウス領は世界最大の素材供給地として、大陸の経済を支配し始めていた。


レオンは、勇者ルートで「将来的に品薄になる素材」を今のうちに独占・備蓄し、市場価格を自在にコントロールする。


「ふふふ……。王都の武器屋も、教会の聖騎士団も、俺の許可なくして剣の一振りも作れん。この『素材の蛇口』を握っている限り、俺は寝ているだけで世界中の金が流れ込む……。これぞ完璧な不労所得計画だ!」


レオンは執務室で、積み上がった金貨の山を前に邪悪な笑みを浮かべていた。


だが、その光景すら、背後に控えるフェリスとセバスの目には、崇高な儀式に見えていた。


「閣下……。あえて素材の流通を絞ることで、王都の貴族たちの贅沢を戒め、その富を我が領の開拓資金へと注ぎ込む。……これほどまでに計算され尽くした『救済の経済学』、私は初めて目にしました」


「左様でございますな、フェリス殿。若様は『富を一部の者に独占させてはならぬ』と、自らその富を『預かる』ことで世界のバランスを保っておられるのです」


(※実際は、自分が独占してニヤニヤしたいだけである)


街の様子も一変していた。


立ち並ぶ商店には、王都でも滅多にお目にかかれない高純度の魔石や希少な毛皮が溢れ、領民たちは皆、レオンが作った漆黒の外套(領内限定の高性能防寒具)を羽織り、活き活きと笑っている。


「おい、見たか。子供たちが、希少な魔物の牙を『おもちゃ』にして遊んでるぜ」


「ああ、それほどまでに、この地は豊かで、安全になったってことなんだな……。すべては、レオン様が命懸けで大森林を浄化し、その恩恵を惜しみなく俺たちに分け与えてくれたおかげだ」


酒場では、レオンへの感謝と崇拝が、酒の肴として語り継がれている。


「漆黒の聖者」「強欲なる救世主」

——矛盾した二つ名は、今やグラウス領の誇りとなっていた。


バルコニーから、活気付く街を見下ろすレオン。


「ひっひっひ……今月の利益だけで、俺の寝室を純金でコーティングできるな。もう一生、布団から出なくても生きていけるぞ……!」


「若様、ご報告です」


セバスが、どこか意味深な笑みを浮かべて背後に立った。


「王都の教皇庁、ならびに王家より親書が届きました。若様の経済貢献を讃え、公式に『聖域守護卿』の称号を授与したいとのこと」


レオンは表情を凍りつかせた。


「……は? 聖域守護卿? 経済支配を独占して私腹を肥やしてるのに、なんでそんな名誉職がもらえるんだ!?」


「彼らは、若様が『魔王軍の復活に備え、世界中の素材を管理・保護している』と判断したようですな。若様の『独占(略奪)』が、世界を救うための備蓄だと……」


レオンは顔面を蒼白にした。


その頃、王都の辺境で修行中の勇者アルスは、グラウス領から流れてくる「高品質な安価の装備」を手に取り、涙を流していた。


「……なんて温かい剣なんだ。これを作ったグラウス卿は、きっと、僕たちのような無名の騎士の命を何よりも大切に思っている、慈愛に満ちた人なんだろうな」


勇者がまだ見ぬレオンに勝手な憧れを抱く中、レオンは「称号なんていらないから、その分金貨をくれ!」と叫びたい衝動を必死に抑えていた。

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