休息
中野から新宿へ向かう道すがら、
れんとひよりは薄暗いビル街を歩いていた。
やがて、ひよりが立ち止まって前方を指差す。
「れんさん、あれ……今日の寝床にできそうじゃないですか?」
巨大な建物があった。
ガラスは割れ、看板は色褪せている。
かつては賑わったであろう“デパート”の廃墟だ。
れんは頷く。
「ひより。今日はここで試したいことがある。
だから……新宿に行くのは、明日にしよう。」
ひよりが首をかしげる。
「ここって……デパートですか?」
「ああ。」
れんは少し間を置き、続けた。
「ひよりについてきてもらったのは……
別に情報が欲しかっただけじゃないんだ。」
ひよりは目を丸くし、胸の前で手を組む。
「私が可愛いからですか?」
れん「……」
ひより「……?」
れん「……俺が向こうの世界で得意にしてた魔法があるんだ。
それをするのに、最低二人はいたほうがいい。」
ひよりはぱっと笑顔になる。
「じゃあ、特訓ですね!」
れんは小さく息をついた。
「……特訓するぞ。」
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「……結構筋がいいんじゃないか。」
ひよりは胸を張っていた。
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れんはデパート内部の暗がりを見渡し、ぽつりと呟いた。
「……昔映画で見たんだ。
荒廃したデパートで物色するやつ。
一度やってみたかった。」
ひよりの目がきらりと光る。
「れんさん、そういうタイプだったんですね!」
二人はデパート奥へ進んだ。
だが——
棚は空。
お菓子コーナーも空。
酒売り場も空。
服は引きちぎられた残骸ばかり。
れんは肩を落とした。
「……なんにもないじゃん。」
ひよりはけろっとして言った。
「そりゃそうですよ〜れんさん。
この辺りって、新宿コロニーに物資が全部持ってかれる地域なんです。
私たちもコロニーにいたとき、
この辺の建物は結構漁りましたし。」
れんは言葉を失い、もう一度空の棚を見る。
「……マジか。」
ひよりは笑いながら、れんの肩を軽く叩く。
「そう落ち込まないでくださいよ。
でも……一緒に歩いてると、なんだかゲームみたいで楽しいです。」
れんは視線を横にそらす。
「そうかよ。」
ひよりは満足げに頷いた。
デパートを出て外の空気を吸った瞬間、
ひよりが小さく息を呑んだ。
「……れんさん。今の……」
れんも気づいていた。
肌をかすめるような“見られている気配”。
「……前からずっとだ。
でも、ここまで近いのは初めてだな。」
夕暮れに染まる路地の奥から、
細身の男が静かに現れる。
首に古いチョーカー、
ひび割れた笑み。
「やっと見つけましたよ。
——帰還者さん。」
れんは無言で腰の剣に触れる。
男は一歩、距離を縮めた。
「ネクロマンサー様は、あなたと“お話”したいそうです。」
ひよりの喉が震えた。
れんの表情だけが、風のように鋭くなる。




