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アイドル -桃瀬鈴-

これまで大嫌いだった“あの力”が、

こんなにありがたく思える日が来るなんて——

鈴は、自分でも信じられなかった。


新宿に“大規模コロニーがある”と聞いたのは、

混乱したニュースがまだ辛うじて流れていた頃だ。


「ここなら……みんな避難できるかもしれない。」


その一言で、

スタッフもマネージャーも全員賛成した。


鈴も、迷わなかった。


自分のSNSで、不安な生存者たちに向けて

「安全情報」や「励ましの言葉」を

途切れずに発信しながら移動した。


「桃瀬りんを信じて、落ち着いて動いてください!」

「絶対にみんなで生き残りましょう!」


電波が弱くなり、

時々SNSが反応しては止まり、再び動かなくなる。

それでも、鈴は発信をやめなかった。


——ファンのため。

——見てくれていた誰かのため。


その道中で、

数人の熱狂的なファンが鈴の元へ駆け込んできた。


「りんちゃん!! 一緒に行かせて!!」

「俺ら、“桃農家”だから! 最後までついてく!」


鈴は涙が出そうになった。


でも——

ひとりより、誰かがいる方が強い。


だから鈴は言った。


「……ありがとう。」


その時、周囲のスタッフも頷いた。


「鈴ちゃんが行くなら、俺たちも行くよ。」


そうして小さな一行が新宿に向けて歩き出した。


——しかし。


境界線のように、

唐突に“電波が消えた”。


「……りんちゃん、WiFi探してみる?」

「無理だよ。完全に死んでる。」


スタッフが焦り始める。


「SNSが使えないと……もう誰にも状況が伝えられない……」


鈴はきつく手を握った。


(……大丈夫。

 たとえ誰とも連絡が取れなくても——

 私が生きて、きっと皆んなの希望になってみせる)


だが、問題は電波ではなかった。


その数分後。

鈴の前に現れたのは、ゾンビではない“何か”だった。


足取りはゾンビに似ている。

しかし動きが妙に整っている。

顔の半分が金属で覆われ、

頭部には黒い石のようなものが埋め込まれていた。


ファンのひとりが叫ぶ。


「な、なにあれ!? ゾンビじゃないのか!?」


鈴はすぐに理解した。


(……これは、何か別の……)


スタッフが震える声を出す。


「にげないと!? 鈴ちゃん……!?」


この瞬間、

鈴は胸の奥で眠っていた“異世界の力”を呼び起こす。


小さな風が足元に集まり、

目に見えない魔法陣のように渦を巻いた。


——誰にも気づかれないように。

——アイドルの“秘密”として。


「みんな、伏せて!」


鈴が叫んだ瞬間、

風の刃が地面すれすれに走り、

黒石のゾンビの膝を一斉に断ち切った。


倒れ込む複数の“何か”。


ファンたちは呆然とする。


鈴は息を整えながら言った。


「……ここは危ない。

 みんな、走れるよね?」


震えながらも、全員が頷く。


鈴は胸に手を当てた。


(この力……本当は嫌いだった。

 普通の女の子として生きたくて……

 でも今だけは……)


ゾンビではない“何か”の背後で、

影が揺れた。


男の声が聞こえる。


「……これはこれは、アイドルの桃瀬鈴さんではありませんか。」


鈴の背がぞくりと震えた。


ローブの男が、一歩前に出る。


「だが……異世界の匂いがする。

 なんだ……お前は?」


鈴はゆっくり振り向いた。

その目は怯えていない。

むしろ決意に近い光を宿している。


「私?

 ——“転生者”だよ。」


風が鳴った。

次の瞬間、鈴の姿はローブの男の視界から消えていた。


影の男は、ただ一言呟く。


「……ネクロマンサー様に報告だ。

 帰還者はまだまだ数を増やす。」


鈴は仲間達とともに、安全地帯へと移動していくのだった。

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