表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/44

デパートの夜

男の気配が完全に消えたあと、

しばらく路地には静寂が残っていた。


ひよりが、おそるおそる口を開く。


「……行っちゃいましたね。れんさん、大丈夫——」


そのときだった。


遠くで、何かが一斉に動き出す音がした。


コンクリートを叩く無数の足音。

金属がきしむ音。

割れたガラスを踏みしめる鈍い感触が、空気ごしに伝わってくる。


れんの表情が一変する。


「……まずい。」


「れ、れんさん……?」


角の向こうから、灰色の影が溢れてきた。


一体、二体ではない。

道を埋め尽くすほどのゾンビの群れが、

こちらに一直線に押し寄せてくる。


「——走るぞ、ひより!」


れんはひよりの手を掴み、踵を返す。


さっきまで特訓をしていた廃デパートが、

すぐそこの通りに見えていた。


ひよりが息を切らしながら叫ぶ。


「デパートの中、まだマシですよね!?

 あっち、あっちです!」


「分かってる!」


二人は半分割れた自動ドアをくぐり、

暗いデパートの中に飛び込んだ。


すぐ背後で、ゾンビたちが入口に殺到する音が響く。


ガラスが砕け、ドア枠がきしむ。


「れんさん、来てます来てます来てます!!」


「見りゃ分かる!」


れんは走りながら、足元に風を集めた。


床に散らばったチラシや埃が、

一瞬ふわりと持ち上がる。


その風が、通路脇の倒れかけたラックを押した。


ギシ、と鈍い音。

タイミングを合わせてれんが肩で押し込むと、

ラックごと商品棚がゾンビの前に倒れ込んだ。


何体かがそれに巻き込まれ、足を取られて倒れる。


「今の……」


ひよりが目を見開く。


通路は完全には塞がらない。

だが、ゾンビの先頭の勢いを削ぐには十分だった。


れんは振り返りもせず、エスカレーターへ向かって駆け上がる。


二階に出たところで、ひよりが叫んだ。


「れんさん、“あれ”を!

 さっき特訓してたやつ、使いましょうよ!」


れんは息を整えながら、首だけ振る。


「いや、これくらい俺がなんとかするよ。」


「でも——」


「ひよりは、さっき教えた“流れを見る”だけやってろ。

 今はそれで十分だ。」


ひよりは一瞬、唇を噛んだが、すぐに頷いた。


「……はい!」


階下では、ゾンビたちが階段とエスカレーターに殺到し始めている。

だが、崩れかけた什器や倒れた棚が障害物となり、

その進行は遅れていた。


れんは二階の通路を走りながら、

吹き抜け越しに一階の群れを見下ろす。


(……やっぱりだ。

 動きが昼間の鈍さじゃない。

 “誰か”がまとめて押し出してきてる……)


ひよりが、肩で息をしながらも周囲を見回す。


「このフロア、反対側に非常階段がありました!

 たぶん外に出られます!」


「案内頼む。」


「任せてください!」


二人は、崩れたマネキンの間をすり抜けながら、

非常口の緑のランプを目指して駆け抜けた。


背後からは、

ゾンビたちの濁った唸り声と、

鉄の階段を踏み鳴らす足音が追いかけてくる。


れんは最後に一度だけ振り返り、

階段との合流点近くに視線を落とした。


足元に、わずかな風を集める。


散らばったハンガーや金属の什器が、

かすかな風に押されて階段側へと転がっていく。


それは大した攻撃にはならない。

ただ、数秒でも時間を稼ぐための“ひと押し”だった。


「行くぞ、ひより!」


「はいっ!」


二人は非常階段のドアをこじ開け、

外へと飛び出した。


——背後で、

廃デパート全体が低く唸るような音を立てた。


ゾンビたちの群れが、

そこに溜まっていく。


れんは外の空気を深く吸い込み、

新宿の方向を睨む。


「……遊び半分で、こんなもん差し向けてくるのかよ、あいつら。」


ひよりはまだ荒い息のまま、

れんの横顔を見上げて呟いた。


「……れんさん。

 やっぱり、私……ちゃんと強くなりたいです。」


れんはほんの少しだけ、口元を緩めた。


「だったら明日も特訓だ。

 新宿入りする前にな。」


体調を崩して少し休みました。

5日に一度休載します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
世界観が素敵ですね。物語にぐっと引き込まれました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ