8話
秋って、なんかこう…空気がすこしだけ澄んでて、風がすこしだけ冷たくて、陽だまりがすこしだけやさしくなる。
わたしは、秋がけっこう好き。
夏のあいだは、テラスが暑すぎて、床に寝るとおなかがじりじり焼けそうだったけど、秋になると、ちょうどいい。
ぽかぽかすぎず、ひんやりすぎず。
それって、猫にとっては“完璧な温度”なんだよ。
そして、秋といえば、毛づくろい。
わたしの毛は、三毛でふわふわしてて、季節によってちょっとずつ変わる。
秋になると、夏の毛が抜けて、冬の毛が生えてくる。
だから、毎日のお手入れが大事なの。
わたしは、テラスの角っこに座って、前足をぺろぺろ、耳の後ろをぺろぺろ、しっぽの先までていねいに。
それは、ただの習慣じゃなくて、ちょっとした儀式。
毛づくろいって、わたしにとっては“心の整理”みたいなものなの。
美希さんは、秋になると読書を始める。
ソファに座って、ブランケットをかけて、マグカップを持って、分厚い本を開く。
そのときの空気が、なんか好き。
紙の匂いと、紅茶の匂いと、インクの匂いがまざって、部屋がちょっとだけ“文学的”になる。
わたしは、毛づくろいをしながら、その匂いを吸い込む。
それって、ちょっとだけ知的な気分になるんだよね。
このあいだ、美希さんが「こまりさん、読書って好き?」って聞いてきた。
わたしは、答えなかった。
でも、たぶん、顔に出てたと思う。
読書って、ページをめくる音がいい。
静かで、やさしくて、ちょっとだけ切ない音。
それを聞きながら毛づくろいすると、なんかこう…自分が“詩”になった気がする。
美希さんの読んでる本は、たまに恋の話だったり、旅の話だったり、ちょっと怖い話だったりする。
わたしは、内容はわからないけど、ページをめくる速さで、だいたいの気分はわかる。
ゆっくりめくってるときは、しみじみしてるとき。
ぱらぱらってめくってるときは、ちょっと退屈してるとき。
そして、ページを閉じて、ため息をついたときは、たぶん、心が動いたとき。
わたしは、その気配を感じながら、そっと隣に座る。
毛づくろいを終えて、丸くなって、目を閉じる。
美希さんが、わたしの背中をなでてくれる。
その手のひらが、すこしだけ冷たくて、すこしだけあたたかい。
それって、秋の手ざわり。
秋って、静かだけど、いろんなことが動いてる季節だと思う。
風も、葉っぱも、毛も、心も。
わたしは、毛づくろいをしながら、それを感じてる。
美希さんは、読書をしながら、それを考えてる。
ふたりの時間が、静かに重なっていく。
今日も、テラスの陽だまりは、ちょっとだけ斜めで、ちょっとだけ長い。
わたしは、そこに丸くなって、毛づくろいを終えて、まどろむ。
美希さんは、ページをめくって、紅茶を飲んで、ため息をつく。
それが、秋の午後の風景。
それが、こまりさんの、ちょっとした文学的な時間。




