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「陽だまり」こまりさんの憂鬱  作者: 双鶴


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9/10

8話

秋って、なんかこう…空気がすこしだけ澄んでて、風がすこしだけ冷たくて、陽だまりがすこしだけやさしくなる。

わたしは、秋がけっこう好き。

夏のあいだは、テラスが暑すぎて、床に寝るとおなかがじりじり焼けそうだったけど、秋になると、ちょうどいい。

ぽかぽかすぎず、ひんやりすぎず。

それって、猫にとっては“完璧な温度”なんだよ。


そして、秋といえば、毛づくろい。

わたしの毛は、三毛でふわふわしてて、季節によってちょっとずつ変わる。

秋になると、夏の毛が抜けて、冬の毛が生えてくる。

だから、毎日のお手入れが大事なの。

わたしは、テラスの角っこに座って、前足をぺろぺろ、耳の後ろをぺろぺろ、しっぽの先までていねいに。

それは、ただの習慣じゃなくて、ちょっとした儀式。

毛づくろいって、わたしにとっては“心の整理”みたいなものなの。


美希さんは、秋になると読書を始める。

ソファに座って、ブランケットをかけて、マグカップを持って、分厚い本を開く。

そのときの空気が、なんか好き。

紙の匂いと、紅茶の匂いと、インクの匂いがまざって、部屋がちょっとだけ“文学的”になる。

わたしは、毛づくろいをしながら、その匂いを吸い込む。

それって、ちょっとだけ知的な気分になるんだよね。


このあいだ、美希さんが「こまりさん、読書って好き?」って聞いてきた。

わたしは、答えなかった。

でも、たぶん、顔に出てたと思う。

読書って、ページをめくる音がいい。

静かで、やさしくて、ちょっとだけ切ない音。

それを聞きながら毛づくろいすると、なんかこう…自分が“詩”になった気がする。


美希さんの読んでる本は、たまに恋の話だったり、旅の話だったり、ちょっと怖い話だったりする。

わたしは、内容はわからないけど、ページをめくる速さで、だいたいの気分はわかる。

ゆっくりめくってるときは、しみじみしてるとき。

ぱらぱらってめくってるときは、ちょっと退屈してるとき。

そして、ページを閉じて、ため息をついたときは、たぶん、心が動いたとき。


わたしは、その気配を感じながら、そっと隣に座る。

毛づくろいを終えて、丸くなって、目を閉じる。

美希さんが、わたしの背中をなでてくれる。

その手のひらが、すこしだけ冷たくて、すこしだけあたたかい。

それって、秋の手ざわり。


秋って、静かだけど、いろんなことが動いてる季節だと思う。

風も、葉っぱも、毛も、心も。

わたしは、毛づくろいをしながら、それを感じてる。

美希さんは、読書をしながら、それを考えてる。

ふたりの時間が、静かに重なっていく。


今日も、テラスの陽だまりは、ちょっとだけ斜めで、ちょっとだけ長い。

わたしは、そこに丸くなって、毛づくろいを終えて、まどろむ。

美希さんは、ページをめくって、紅茶を飲んで、ため息をつく。

それが、秋の午後の風景。

それが、こまりさんの、ちょっとした文学的な時間。


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