6話
雨って、ずーっと降ってると、なんかこう…世界がぬるま湯みたいになるよね。
わたしは、梅雨がちょっと苦手。
だって、テラスに出られないんだもん。
陽だまりも消えちゃうし、床が冷たいし、風も湿っぽいし。
それに、雨の音って、ずーっと「しとしとしとしと」って鳴ってて、耳の奥に入り込んでくる。
まどろもうとしても、なんかこう…うまく沈めないの。
でも、梅雨には梅雨の楽しみもある。
それはね、窓辺の観察。
わたしは、リビングの窓の下にあるクッションに丸くなって、外をじーっと見るの。
雨粒が窓にぴたぴた当たって、流れて、線になって、また消えていく。
それを見てると、なんかこう…時間がとろけていく感じがする。
雨粒って、ひとつひとつ、ちがう動きをするんだよ。
速いやつ、ゆっくりなやつ、途中で止まるやつ、仲間と合流するやつ。
それって、ちょっと人生っぽいよね。
って、わたしが言うのも変だけど。
美希さんは、梅雨になると髪がふわふわになる。
「湿気でまとまらない〜」って言いながら、鏡の前でくしを動かしてる。
その姿が、なんかこう…ちょっとだけおもしろい。
わたしは、クッションの上からじーっと見てる。
すると、美希さんが「こまりさん、笑ってるでしょ」って言う。
うん、笑ってるかも。ちょっとだけね。
雨の日って、美希さんも静かになる。
コーヒーじゃなくて、紅茶を飲んでることが多い。
本を読んだり、スマホで音楽を流したり、窓の外をぼんやり見たり。
その時間が、わたしはけっこう好き。
人間が静かになると、部屋の空気もやさしくなる。
わたしは、その空気の中で、そっと丸くなる。
まどろみって、静けさの中にあるんだと思う。
このあいだなんて、美希さんが「こまりさん、雨って好き?」って聞いてきた。
わたしは、答えなかった。
でも、たぶん、顔に出てたと思う。
雨は、ちょっとだけさみしいけど、ちょっとだけ落ち着く。
陽だまりがないぶん、窓辺の世界が広がる。
それって、悪くない。
小鳥たちは、雨の日は来ない。
テラスはしんとしてて、葉っぱが濡れてて、風がすこしだけ冷たい。
でも、窓の外には、傘をさした人たちが歩いてる。
その姿を見てると、「みんな、がんばってるなぁ」って思う。
わたしは、がんばらないけどね。
猫って、がんばらない生きものだから。
今日も、雨が降ってる。
窓辺のクッションに丸くなって、雨粒の動きを見ながら、ちょっとだけ哲学する。
「雨粒って、どこから来て、どこへ行くんだろう」
「わたしって、なんで丸くなると落ち着くんだろう」
「美希さんの髪は、いつになったらまとまるんだろう」
そんなことを考えてるうちに、目がとろんとしてくる。
梅雨って、まどろみの季節。
陽だまりはないけど、窓辺の哲学がある。
それが、こまりさんの、雨の日の過ごし方。




