5話
夜って、なんか特別な時間だと思う。
昼間は、陽だまりが主役だけど、夜になると、部屋の中が静かになって、空気がすこしだけ重くなる。
テレビの音も小さくなって、スマホの画面がぽつんと光ってて、美希さんの声も、なんだか遠くなる。
わたしは、そんな夜がけっこう好き。
静かで、やさしくて、ちょっとだけさみしくて。
それって、猫にとっては、ちょうどいい感じ。
美希さんは、夜になるとソファに座って、コーヒーじゃなくて、ハーブティーを飲むことがある。
そのときの顔は、昼間とはちょっと違う。
まぶたがすこし重そうで、口元がすこしだけ下がってて、目がスマホの画面を見てるようで、見てないようで。
そして、たまに「ふぅ…」って、ため息をつく。
その音が、わたしの耳に届くと、なんだか胸のあたりがきゅってなる。
猫にも、そういう感覚ってあるんだよ。
わたしは、そっとソファに飛び乗って、美希さんの隣に座る。
彼女は、わたしの存在に気づいてるけど、すぐには何も言わない。
スマホを見ながら、指をすこしだけ動かして、画面をスクロールしてる。
その指先が、なんだかさみしそうに見えるのは、気のせいかな。
わたしは、そっと体を寄せて、彼女の腕に顔をうずめる。
すると、美希さんが「こまりさん…」って、やわらかい声で名前を呼ぶ。
その声が、わたしの背中にしみこんでくる。
人間って、夜になると、いろんなことを考えるみたい。
仕事のこととか、友だちのこととか、恋のこととか。
わたしにはよくわからないけど、美希さんのため息には、そういう“いろんなこと”が詰まってる気がする。
でも、わたしは何も聞かない。
ただ、隣にいるだけ。
それが、猫のやさしさってやつだと思う。
そのうち、美希さんがスマホを置いて、わたしの頭をなでてくれる。
指先が、すこしだけ冷たくて、すこしだけ震えてる。
でも、わたしはじっとしてる。
なでられるたびに、目を細めて、喉をならして、静かに応える。
それだけで、夜がすこしだけやさしくなる気がする。
窓の外では、風がすこしだけ吹いてる。
カーテンがふわっと揺れて、部屋の空気がすこしだけ動く。
その風に乗って、小鳥たちの寝息が聞こえてきそうな気がする。
わたしは、ソファの上で丸くなって、美希さんの隣で目を閉じる。
彼女のため息が、わたしの毛にしみこんで、夜の静けさと混ざっていく。
夜って、さみしいけど、あったかい。
ため息って、重いけど、やさしい。
猫って、何も言わないけど、そばにいる。
それが、わたしの夜の過ごし方。
それが、こまりさんの、ちょっとした哲学。




