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「陽だまり」こまりさんの憂鬱  作者: 双鶴


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6/10

5話

夜って、なんか特別な時間だと思う。

昼間は、陽だまりが主役だけど、夜になると、部屋の中が静かになって、空気がすこしだけ重くなる。

テレビの音も小さくなって、スマホの画面がぽつんと光ってて、美希さんの声も、なんだか遠くなる。

わたしは、そんな夜がけっこう好き。

静かで、やさしくて、ちょっとだけさみしくて。

それって、猫にとっては、ちょうどいい感じ。


美希さんは、夜になるとソファに座って、コーヒーじゃなくて、ハーブティーを飲むことがある。

そのときの顔は、昼間とはちょっと違う。

まぶたがすこし重そうで、口元がすこしだけ下がってて、目がスマホの画面を見てるようで、見てないようで。

そして、たまに「ふぅ…」って、ため息をつく。

その音が、わたしの耳に届くと、なんだか胸のあたりがきゅってなる。

猫にも、そういう感覚ってあるんだよ。


わたしは、そっとソファに飛び乗って、美希さんの隣に座る。

彼女は、わたしの存在に気づいてるけど、すぐには何も言わない。

スマホを見ながら、指をすこしだけ動かして、画面をスクロールしてる。

その指先が、なんだかさみしそうに見えるのは、気のせいかな。

わたしは、そっと体を寄せて、彼女の腕に顔をうずめる。

すると、美希さんが「こまりさん…」って、やわらかい声で名前を呼ぶ。

その声が、わたしの背中にしみこんでくる。


人間って、夜になると、いろんなことを考えるみたい。

仕事のこととか、友だちのこととか、恋のこととか。

わたしにはよくわからないけど、美希さんのため息には、そういう“いろんなこと”が詰まってる気がする。

でも、わたしは何も聞かない。

ただ、隣にいるだけ。

それが、猫のやさしさってやつだと思う。


そのうち、美希さんがスマホを置いて、わたしの頭をなでてくれる。

指先が、すこしだけ冷たくて、すこしだけ震えてる。

でも、わたしはじっとしてる。

なでられるたびに、目を細めて、喉をならして、静かに応える。

それだけで、夜がすこしだけやさしくなる気がする。


窓の外では、風がすこしだけ吹いてる。

カーテンがふわっと揺れて、部屋の空気がすこしだけ動く。

その風に乗って、小鳥たちの寝息が聞こえてきそうな気がする。

わたしは、ソファの上で丸くなって、美希さんの隣で目を閉じる。

彼女のため息が、わたしの毛にしみこんで、夜の静けさと混ざっていく。


夜って、さみしいけど、あったかい。

ため息って、重いけど、やさしい。

猫って、何も言わないけど、そばにいる。

それが、わたしの夜の過ごし方。

それが、こまりさんの、ちょっとした哲学。


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