4話
よく言われるんだけどね、「猫って魚が好きなんでしょ?」って。
うーん、どうかなぁ。わたしは、そんなに好きじゃない。
っていうか、魚って、においが強すぎるし、骨がいっぱいあるし、なんかこう…落ち着かないの。
ツナ缶はまあまあ好きだけど、それは“ツナ缶”だからであって、“魚”とはちょっと違うと思うんだよね。
それに、わたしは三毛猫。ちょっと気品があるっていうか、なんでもかんでも食べるわけじゃないの。
ネズミ?いやいやいや、絶対ムリ。
あんなちっちゃくて、ちょろちょろしてて、目がきょろきょろしてるやつ、見てるだけで疲れる。
たまにテレビで「猫とネズミの追いかけっこ」みたいなのが流れてるけど、あれってほんと?
わたしは、ネズミなんて見たことないし、見たとしても、たぶん逃げると思う。
だって、わたしの暮らしは、陽だまりとカリカリでできてるんだもん。
ネズミを追いかけるなんて、そんなアクティブなこと、わたしの哲学に反するよ。
鳥もね、食べないよ。
テラスに来る小鳥たち、わたし、けっこう好きなんだ。
チュンチュンって鳴いて、手すりにとまって、風に吹かれてる姿を見ると、なんかこう…詩的っていうか、絵になるっていうか。
わたしは、彼らを眺めるのが好き。
たまに、ちょっとだけ手を伸ばしてみるけど、それは“遊び”であって、“狩り”じゃない。
だって、わたしは三毛猫。ちょっと文化的な猫なの。
美希さんも、わたしの好みをよくわかってくれてる。
このあいだなんて、「こまりさん、サーモン味はあんまり好きじゃないんだよね」って言って、チキン味に変えてくれた。
うん、チキン味は好き。ほどよく香ばしくて、カリッとしてて、口の中でほろっと崩れる感じがいい。
でも、チキンって“鳥”だよね?
うーん…それはそれ、これはこれ。
生きてる鳥と、加工されたチキンは、ちょっと違うの。
わたしの中では、ちゃんと線が引かれてるから。
それにね、わたしは“食べる”ってことに、ちょっとした美学を持ってるの。
おなかがすいたからって、がつがつ食べるのは、ちょっと違う。
まず、においをかいで、器のまわりを一周して、ひと粒ずつ、じっくり味わう。
それが、こまり流。
美希さんは「こまりさん、食べるの遅いね〜」って言うけど、わたしは“食事”をしてるの。
“エサ”じゃなくて、“食事”。
そこ、大事。
だからね、「猫って魚が好き」「ネズミを追いかける」「鳥を食べる」っていうのは、ぜんぶステレオタイプ。
わたしは、魚もネズミも鳥も、食べない。
カリカリと、たまにツナ缶。それが、わたしの世界。
それでじゅうぶん。
それが、こまりさんの、ちょっとした誇り。
今日も、テラスでまどろみながら、小鳥たちを眺めてる。
彼らは、わたしの“ごはん”じゃなくて、“風景”。
ネズミは、テレビの中だけの存在。
魚は…まあ、ツナ缶だけは、ちょっとだけ好き。
でも、それは“ツナ缶”だから。
わたしの食の哲学は、けっこう深いんだよ。




