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「陽だまり」こまりさんの憂鬱  作者: 双鶴


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4/10

3話

わたしには、どうしても抗えない音がある。

それはね、「カリカリの袋の音」。

あの、シャラシャラっていう、ちょっと乾いた、ちょっと期待に満ちた音。

あれが聞こえると、わたしの耳はぴくって動いて、目がぱちって開いて、体が勝手に立ち上がっちゃうの。

どんなに眠くても、どんなに陽だまりが気持ちよくても、あの音には勝てない。

それが、猫の本能ってやつなのかもしれない。


朝のテラスでまどろんでいると、キッチンのほうから、あの音が聞こえてくる。

「シャラ…シャラ…」って、ちょっと控えめに。

美希さんは、わたしがすぐに反応するのを知ってるから、わざとゆっくり袋を開けるの。

それって、ちょっと意地悪じゃない?

でも、わたしは負けない。すぐに立ち上がって、テラスからぴょんって降りて、キッチンの入り口に座る。

じーっと見つめる。無言の圧。

すると、美希さんが「こまりさん、早いね〜」って笑う。

うん、早いよ。だって、カリカリの音がしたんだもん。


エサの時間って、なんか特別。

わたしにとっては、1日の中でいちばん“確かなこと”って感じ。

陽だまりは、雲が出たら消えちゃうし、小鳥たちは気まぐれだし、美希さんはたまに寝坊するけど、カリカリの時間だけは、だいたい守られてる。

それって、すごく安心するんだよね。

ごはんのある暮らしって、いいなぁって思う。


でもね、たまに“違う音”がすることがあるの。

それは、缶詰のフタを開ける「プシュッ」って音。

あれが聞こえると、わたしのテンションは一気に跳ね上がる。

「今日はスペシャルデーか!?」って、心の中で叫びながら、美希さんの足元にすりすりする。

すると、美希さんが「今日はツナ入りだよ〜」って言って、ちょっとだけ多めに盛ってくれる。

ツナ入りって、なんかこう…香りが深いの。鼻の奥まで届いて、わたしのしっぽが勝手にふりふりしちゃう。


でも、スペシャルデーは毎日じゃない。

だから、わたしは“音”に敏感になる。

袋の音、缶の音、スプーンが器に当たる音。

それぞれに意味があって、それぞれに期待がある。

わたしは、音で暮らしてる。音でごはんを感じてる。

それって、ちょっと詩的じゃない?


あ、そうそう。このあいだ、美希さんが新しいエサを買ってきたの。

「こまりさん、これ口コミで評判よかったんだって」って言いながら、袋を開けてくれたんだけど、においがちょっと…うーん、微妙。

わたし、ひとくち食べて、そっと顔をそむけた。

すると、美希さんが「え〜、こまりさん、グルメすぎない?」って言って、ちょっとだけしょんぼりしてた。

でもね、わたしにも好みってあるの。

カリカリは、カリッとしてて、香ばしくて、ちょっとだけ魚っぽいのが好き。

それが、わたしのこだわり。


今日の朝は、いつものカリカリだった。

袋の音がして、わたしがぴょんって跳ねて、キッチンに向かって、じーっと見つめて。

美希さんが「はい、どうぞ」って言って、器を置いてくれて。

わたしは、カリカリをひと粒ずつ、じっくり味わって食べた。

そのあと、テラスに戻って、陽だまりの中で丸くなった。

おなかが満たされて、光があったかくて、風がすこしだけ甘くて。

それって、たぶん、世界でいちばん幸せな時間。


エサの時間って、ただのごはんじゃない。

それは、わたしと美希さんの“約束”であり、“魔法”であり、“音楽”みたいなもの。

今日も、シャラシャラって音が聞こえたら、わたしはすぐに立ち上がる。

それが、わたしの暮らし。

それが、こまりさんの、ちょっとした魔法の時間。


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