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「陽だまり」こまりさんの憂鬱  作者: 双鶴


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2/10

1話

春って、なんかふわふわしてて、いいよね。

空気がやわらかくて、風がすこしだけ甘くて、テラスの床がぽかぽかしてて。

わたしは、春がけっこう好き。冬のあいだは、陽だまりがちょっとしかなかったけど、春になると、テラスの角っこまで光が届くようになるの。

そこに丸くなって寝ると、もう、ぜんぶどうでもよくなる。世界がふわ〜って溶けて、わたしもふわ〜ってなる。

それが、春の陽だまり。


でもね、飼い主の美希さんは、春がちょっと苦手みたい。

朝から「へっくしょん!」って、すごい音を出すの。びっくりして、わたし、毛が逆立ったもん。

「こまりさん、ごめんね〜」って言うけど、くしゃみって、あんなに爆発みたいな音、必要?

しかも、連続でくるの。「へっくしょん!へっくしょん!へっ…」って、もうリズム芸みたい。

わたしは、テラスの端っこに避難して、そっと耳をたたんでみる。

春って、静かな季節じゃなかったっけ?


美希さんは、くしゃみのあとに鼻をぐすぐすさせながら、マスクを外して、コーヒーを飲んでた。

そのマグカップ、昨日も使ってたやつだよね?ちょっとだけ、口紅のあとが残ってる。

コーヒーのにおいが、ふわっと部屋に広がって、わたしの鼻にも届いてくる。

ちょっとだけ苦くて、ちょっとだけ大人っぽいにおい。

わたしは飲めないけど、あの香りはけっこう好き。なんか、落ち着くんだよね。


「花粉、つらいなぁ…」って美希さんがつぶやいてるけど、わたしにはよくわかんない。

花粉って、見えないし、においもしないし、わたしにはぜんぜん関係ないみたい。

でも、美希さんがつらそうだと、ちょっとだけ心配になる。

だから、わたしはそっと近づいて、彼女の足元に丸くなってみる。

すると、美希さんが「こまりさん、あったかいね」って言って、わたしの背中をなでてくれる。

うん、あったかいよ。春だもん。わたしの毛も、春仕様でふわふわなんだよ。


それにしても、人間って、春になると忙しそう。

くしゃみしたり、鼻かんだり、マスク探したり、スケジュール帳に何か書き込んだり。

わたしは、ただ陽だまりに寝てるだけなのに。

でもね、たまに思うの。

わたしがこうして静かに寝てることで、美希さんがちょっとだけ落ち着いてくれたらいいなって。

くしゃみのあとに、ふぅって息を吐いて、わたしを見て笑ってくれたら、それだけで春は完璧。


今日の陽だまりは、ちょっとだけ長くて、ちょっとだけやさしい。

小鳥たちも、いつもより長くテラスにいてくれた。

チュンチュンって鳴いて、テラスの手すりにとまって、わたしと目が合った。

「おはよう」って言ったような気がしたけど、たぶん気のせい。

でも、春って、そういう気のせいがいっぱいある季節だと思う。


美希さんは、くしゃみをしながらも、コーヒーを飲みながら、わたしの写真を撮ってた。

「春のこまりさん、かわいいなぁ」って言ってたけど、わたしは知ってる。

春のかわいさは、陽だまりのせい。わたしじゃなくて、光の魔法。

でもまあ、ちょっとくらいは、わたしのせいでもいいかな。

だって、春の陽だまりには、わたしがいるんだもん。

それって、けっこう特別なことじゃない?


春の朝は、くしゃみとコーヒーと、わたしの丸まりでできている。

それが、美希さんの一日を、ちょっとだけやさしくしてくれるなら、わたしは今日も、陽だまりの中で、静かに丸くなる。

世界がふわ〜って溶けていく音を聞きながら。

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