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「陽だまり」こまりさんの憂鬱  作者: 双鶴


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10/10

9話

朝、目が覚めたとき、なんかいつもと違う気がした。

空気が冷たくて、光が足りなくて、テラスの床が暗くて。

わたしは、そっと歩いていって、いつもの場所に丸くなろうとしたけど、そこには陽だまりがなかった。

雲が分厚くて、空が重くて、光が届いてこない。

それって、わたしにとっては、ちょっとした事件。


陽だまりって、ただの光じゃないんだよ。

それは、わたしの居場所であり、時間の目印であり、心のぬくもり。

それがないと、なんかこう…体がうまく丸くならない。

毛がふわっと立たないし、まどろみが深くならない。

わたしは、テラスの隅に座って、空を見上げた。

雲は、びっしり。鳥もいない。風も冷たい。


美希さんは、朝から静かだった。

コーヒーを淹れて、ソファに座って、スマホを見て、ため息をひとつ。

「今日は、晴れないかもね」って、ぽつりと言った。

わたしは、その声に反応して、そっと彼女の足元に近づいた。

陽だまりがない日は、わたしも、ちょっとだけ人恋しい。


美希さんは、わたしを見て、マグカップを置いて、ブランケットを広げてくれた。

「こまりさん、こっちおいで」って。

わたしは、ためらいながらも、ソファにぴょんって乗って、彼女の隣に丸くなった。

ブランケットの下は、すこしだけあたたかくて、すこしだけ安心する匂いがした。

それは、洗いたての布と、美希さんの肌の匂いと、コーヒーの残り香。

わたしは、目を閉じて、深く息を吸った。


陽だまりがない日って、さみしいけど、悪くない。

だって、わたしは、美希さんの隣にいる。

彼女の手が、わたしの背中をなでてくれる。

その手のひらは、光のかわり。

そのぬくもりは、陽だまりの記憶。


わたしは、思い出す。

春の陽だまり、夏の風、秋の読書、冬のこたつ。

その全部に、美希さんがいた。

その全部に、わたしがいた。

それって、たぶん、すごく特別なこと。


今日の空は、ずっと曇ってた。

でも、わたしの中には、陽だまりがあった。

それは、美希さんの声、手ざわり、気配。

それが、わたしを包んでくれる。

それが、こまりさんの、最後のまどろみ。


陽だまりが消えた日。

でも、わたしは、ちゃんと丸くなれた。

それって、たぶん、愛ってやつかもしれない。


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