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9話 幽霊の男


「良い買い物したわね!」


〝うん!〟


 大金を使って買った魔石を大事に抱える。

 今の手持ちのお金は一スタ残っているけど他に欲しいものは見当たらなかった。


 アストーを探しながらぶらぶらしていると向こうから走ってきた僕よりも少し年上くらいに見える男の子とぶつかった。


〝うわっ!〟


「わ、悪い! 前を見てなかった。立てるか?」


 転んで覆いかぶさるように倒れてきた男の子は起き上がり僕に手を差し伸べる。

 その手を握ると力強く引っ張って起き上がらせてくれる。


「ちょっと~! 大丈夫?」


 心配そうに僕の周りを飛ぶリエラティ。


〝うん。僕は大丈夫だよ〟


「すげ~! そいつって妖精だろ!? 俺初めて見た! っと、俺は急いてるんだった! それじゃあな!」


 男の子はリエラティに驚きつつも目を輝かせたかと思うと、ハッとして(せわ)しなく走り去っていった。

 人混みの中自分も気をつけなきゃと考える。

 買った魔石はしっかりと胸に抱いていたから無事だ。

 もし落としてどこか欠けてでもしていたらと思うとホッとする。


「お金は大丈夫なの?」


〝お金? こっちの袋に入れてるけど。……あれ?〟


 アストーに貰ったお金を入れる小さな革袋が見当たらない。

 確かにローブの内側に縫い付けられているポケットに入れてたんだけど……無くなっている。


〝ど、どんうしよう! 大事なお金落としちゃった! 師匠から貰ったお金……〟


 涙は出ないけど泣きそうな気持ちで周りを探す。

 リエラティも屋台の隙間など探してくれた。そんな時。


〝おい坊主。そんな所探したって見つからねぇぞ〟


 見窄らしい男の幽霊が話しかけてくる。


〝どうして見つからないって分かるの?〟


〝お前はどこにもお金を落としてないからな。さっきのガキがぶつかった時に抜き取ってるの見たぞ〟


〝ほ、ほんと!? 倒れた僕を起こしてくれたのに……。嘘じゃない?〟


〝嘘じゃないさ。なんてったって俺もこの街でスリをしてたからな! まぁしくじってこのザマだけどよ〟


 ケケケと笑う男の幽霊は首を見せてくる。

 首には紐で括られたような後がくっきりと残っていた。


「しくじったってなにしたのよ」


 僕達の会話に加わるリエラティ。


〝抜き取ったのが教会関係者でなぁ、バレないだろうと高をくくってたらあっさりバレちまったってわけだ! 一発でこれだ!〟


 おちゃらけながら絞首刑のジェスチャーをする男の幽霊。

 うわぁとドンびくリエラティ。

 僕はそんな事よりも取られたお金だ。


〝どうやってお金取り戻したらいいんだろう……。今から探しても見つからないよ……〟


 弱気になってがっくりと肩を落とす。


〝ちなみにいくら盗られたんだ?〟


〝一スタ……〟


〝そりゃまずいな。スリをするのはあぶれた下層民かよそから流れ着いた最下層民だ。そんなやつが一スタなんて持ってるわけがねぇ。それをガキが持ってるってのが普通に考えてありえねぇんだ。だから盗んだものに違いねぇって事でバレちまって捕まったらよくてむち打ち、悪くて手首の切り落とし、最悪俺みたいになっちまう。それかブラックマーケットでカモられて終わりだな〟


 得意げに話してカカカと笑う。


〝ど、どうしよう……〟


〝来いよ。あのガキなら知ってる〟


「だったらはじめから案内しなさいよっ!!」


 幽霊の男に怒るリエラティ。

 僕は取り返せるかもと少しだけホッとする。


〝わりぃわりぃ! 俺ぁ無駄話が好きでな、喋りすぎるのが悪い癖でな。こっちだ〟


 幽霊の男は人々をすり抜けて、僕とリエラティは人混みを避けながらついていく。

 その間も幽霊の男は案内しながら無駄話は続く。


〝俺ぁよ、これでもスリの腕には自身があるんだ。護衛付きの商人からも抜き取ったことがあるんだぜ。あれは最高だったなぁ~。大金が手に入ってよ、その後は仲間たちとドブ酒をしこたま飲んだ。ドブ酒ってのはブラックマーケットで売られているクソ不味い酒なんだけどよ、ま、俺達みたいな最下層は贅沢言ってられねぇ。酔えればいいってもんだ。美味い酒も売ってるがそんなのを買っちまうのは二流だな。俺達は大金を盗んできましたって言いふらしてるようなもんだぜ。そういう酒を飲めるのはもっとやべぇことやってる奴等だ。そういう奴等は雰囲気がちげぇ。お、あれ見てみろよ。あいつ今から抜き取るぜ〟


 指さして言う。

 その方向に視線を向けると装飾品を吟味している男が居て、その男のすぐ近くを見窄らしい男がさっと通り抜ける。


「見えた?」


〝えっと……一瞬だったけど、すれ違いざまに小さなナイフでベルトに括られてた小袋の紐を切って取った〟


〝その通り! 目がいいな。ああやって他のことに集中しているやつは狙いやすい。こういう人が多い所で警戒心の強いやつは靴に隠したりちゃんっと警戒して金の入った袋を警戒して手で守ってたりする。無警戒に腰にぶら下げてるやつは俺達にとっちゃカモだ〟


〝僕はちゃんと取られないようにローブの内側に縫われてるポケットに入れてたよ?〟


〝まぁしっかりしてるやつは狙いにくいが、お前の持ってるそれ〟


 幽霊の男は僕が抱えるミノタウロスの魔石を指差す。


〝そんなの買えるのは金持ちとかだ。それをお前みたいなガキが持ってるってことはまだ金を持ってる可能性が高いと目をつける。それから観察をする。そんでどこにお金が隠されてるのか目星をつける。しっかり隠して安心してても無意識にそこを気にかけたりするからちょっとした仕草も見逃さないようにすれば割と分かったりするぜ。それでぶつかってお前に覆いかぶさった時にさっと中に手を入れて抜き取ったってわけだ。直ぐに起き上がって手を差し出したのは意識をそらすためだな。一瞬でも金を心配させないために自分に意識を向けさせる。お前がそれでも警戒して金を意識してたら手を引っ込めて起き上がる隙に逃げる。人混みを縫うように走っていけばすぐにに失うさ。金から意識を外して差し出した手を取ってくれれば起き上がらせて無邪気な子供を演じて逃げる。ぶつかっただけで悪意がなかったって思わせて悠々と逃げられる〟


〝な、なるほど……。〟


「なんて狡賢い! 見つけたらとっちめてやるんだから!」


 憤慨するリエラティはブンブンと拳を振り回す。


〝俺達みたいな底辺が生きて食っていくための知恵ってやつだ! 凄いだろ!〟


 幽霊の男は自慢げに笑った。

 それからもスリのいろんな手口を得意げに説明しながら通りを抜けて小道に入り、そこから裏路地に入っていく。

 裏路地を進むにつれて怪しげな雰囲気はどんどん濃くなる。


「ねぇまだなの?」


〝もうすぐそこだぜ〟



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