8話 市場に買い物
翌朝、日の出とてもに宿を出て朝市へと向かう。
生きていた頃は早朝の清々しさを感じてそれが好きだったんだけど、今はそれを肌で感じることが出来ないのが残念だ。
通りは人が疎らだったけど朝市の場所につくと多くの店が並び沢山の人の往来がある。
〝凄いなぁ~! いろんな野菜とかがたくさん売ってる!〟
見たこともない野菜もたくさんあり、どんな味んあんだろうと想像するだけども楽しい。
リエラティも新鮮な野菜たちによだれを垂らして見ている。
他にも焼き立てのパンが売られていたりお酒や肉のお店もあった。
「見て! あっちでスープ売ってるわよ! 行きましょう!」
僕のローブをグイグイ引っ張るリエラティ。
〝うわっ! そんなに引っ張らないでよ! 転んじゃうよ!〟
「これこれ落ち着かんか」
逸る気持ちのリエラティをなだめつつ僕達はスープを売っているお店に行く。
「いらっしゃい!」
恰幅の良いおばさんが元気よく挨拶をする。
「スープを一杯!」
リエラティが注文する。
「あらまぁ珍しいお客さんだね~。どうぞ一杯二ラドだよ」
僕達が暮らすフェルミナス王国の通貨はラド銅貨とセタ銀貨とマデラ魔法銀貨が使われている。
一ラドはパン一個の値段。
日雇い労働者が一日に稼ぐ賃金は五~七ラドだ。
一マデラ=十スタ、一スタ=二十ラドとなっている。
アストーが二ラドを支払いスープを一杯買ってもらって飲ませてもらっている。
顔をほころばせて美味しそうに飲むリエラティ。
そんなに美味しいのだろうかと気になる……。
「坊やはいいのかい?」
店主のおばさんが優しく聞いてくれるが慌てて首を横に振って答える。
リエラティが飲みきれなかった分はアストーが飲んで器を店主に返した。
「あ! あっちに焼き菓子が売ってるわ!! 行きましょう!!」
次の獲物を見てけて飛んでいこうとするリエラティ。
〝ま、待ってよ~!〟
僕は慌ててついていき、その後に「まったくしょうがないやつじゃ」と言ってアストーも来る。
あれこれと焼き菓子を注文してはアストーが支払う。
「ジーナスも欲しいものがあるじゃろう。買ってくるとよい」
そう言って五スタを差し出すアストー。
〝こんな大金良いの!? やったー!〟
「わしは自分の買い物を済ませてくるからリエラティと一緒に行くといい。リエラティ、ジーナスにたかるでないぞ」
「わ、分かってるわよ! 行きましょうジーナス! あっちに可愛い腕飾りがあったわ! 見に行きましょう!」
僕のローブの袖を引っ張るリエラティ。
〝行くから強く引っ張らないでよ~!〟
アストーはそんな僕達を優しく見守ってから人混みの中に消えていく。
僕とリエラティは鍛冶屋や服屋などを見て回る。
錬金術の素材屋で魔石が売られてるのを見つけた。
ゴブリンの小さな魔石やハイドウルフの魔石、オークやヴォーパルバニーなどいろんな種類がある。
「いらっしゃい。可愛らしい魔法使いさんだね。それに妖精を連れてるなんて珍しい」
お店の奥で本を読んでいた若い男の人が声をかけてくる。
どう対応したらいいかわたわたと戸惑っているとリエラティが答えた。
「ふふーん! ねぇこれはなんの魔石なの?」
他のものよりも一回り大きい魔石を指差すリエラティ。
「それはミノタウロスの魔石だよ。三年前に僕の友人がパガルス迷宮に行ってそこでミノタウロスを倒して手に入れて、僕に売ってくれたんだ」
「ふ~ん。その友達って冒険者なの?」
「そうだよ。紫水晶級で大人数のパーティーを仕切るリーダーをやってるんだ」
「へぇ! 凄いじゃない! 紫水晶級っていったら上級冒険者でしょ」
〝リエラティ、そのパガルス迷宮ってどこにあるか聞いてよ〟
リエラティに普通に話しかけるが僕の声が男の人に聞こえている様子はない。
やはり僕の声は普通の人には届かないみたいだ。
「パガルス迷宮ってどこにあるの?」
「この街を北に抜けて山を一つ越えた所にあるハーデンの街の近くにあるよ」
「そうなのね! 教えてくれてありがとう!」
塔がある森とは真反対の方向らしい。
行ってみたいけど遠出になってしまうからアストーに相談してみないと。
僕はミノタウロスの魔石を手に取り男の人の所に持っていく。
「これを買うのかい?」
コクリと頷く。
「四スタだよ」
〝うっ……やっぱり高い……〟
大きくて魔力がかなり豊富な魔石だから高くなるだろうとは思っていた。
だけど改めて値段を提示されてかなりの高額に思わず諦めようかと考えてしまう。
でも気になってしまってしょうがないから四スタを差し出す。
「確かに四スタだね。他にもなにか買っていくかい?」
大きな買い物をしたからもういらないとブンブンと首を振る。
「そっか。なにか欲しいものがあったら声をかけてね」
そう言って再び本を読み始める。
特に欲しいものも無いからお店を出ようとする。
「また来てね」
〝またのご来店を〟
男の人の声の後に別のおじさんの声が聞こえた。
それは男の人の後ろにいた顔がよく似たおじさんの霊だ。
多分、この男の人のお父さんかなんかだろう。穏やかに男の人を見守っている。
僕は男の人とそのおじさんの霊に一礼してお店を出た。