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4話 地獄の物語


 また夢中になって十何時間も没頭しリエラティの事を無視してしまって怒られてしまった。

 自分は物語を読むのが好きなんだと自覚してたんだけど、好奇心には抗えない。

 この続きはどうなるんだろうという1ページを捲るワクワクがたまらないんだ。

 そして【死叙伝 地獄】は凄く面白い。

 一度読み終わっているけどまた1ページから読む。


 地獄の第一階層 灰の庭園。

 ネクトマは冥界を抜けて灰の庭園に足を踏み入れる。

 灰の庭園は美しい花々が咲き乱れるが、触れた者の理性を吸い取る。愛欲に溺れた者の魂が迷い込み、永遠の幻覚を見せられながら生き続ける。

 欲望に溺れる幻覚を見るネクトマだが、死霊魔法を習得していた事で彷徨う魂に助けられて幻覚から覚める。

 彷徨う魂の助けを借りて最奥へと進み、灰の庭園を統べる王 灰の看取り手・グリアデルを倒す。

 彷徨う魂と契約し眷属として次の階層に進んだ。


 地獄の第二階層 凍哭(とうこく)の沼。

 氷と泥が混ざり合った地獄で、裏切った者は自分が裏切った相手の幻に追い詰められる。声は出ず、ただ冷たい手に引きずり込まれて沈む。

 かつて裏切り貶めてしまった友人が現れる。

 心の何処かで罪悪感に苛まれて謝ろうとしたこともあったがそれも忘れてしまっていた。

 そんな友人だった人が現れてはネクトマに恨みつらみを吐き、前に進ませまいと手足にしがみつく。

 呪詛のような言葉に苛まれて謝ろうとも声は出ず、掴まれた手足は死人のように凍えていく。

 段々と重くなっていく足取りに泥の中へとズブズブ沈んでいく。

 そんな時、契約した魂が手を差し伸べてネクトマを凍える泥から引っ張り上げた。

 閉ざされようとした心は再び開かれて前へ進む。

 最奥へとたどり着いたネクトマと魂は、沈んだ者の亡骸を呼び起こして凍哭の沼を統べる氷涙の王クランゼールを倒した。


 地獄の第三階層 棘砂の道。

 一歩進むたびに皮膚が裂ける砂漠。暴力をうちに秘め好む者はここで自分が与えた痛みを経験する。

 ネクトマが一歩進むと体のどこかが裂かれて血が滲む。

 痛みにのたうち叫び声を上げる。

 この傷はかつて自分が誰に与えたものなのか逐一呼び覚まされ、遠い過去の記憶も蘇る。

 自分の体が裂かれるたびにどれだけの人を傷付けたのか思い知らされる。

 そして、どれだけの傷つけた人を忘れていたのか思い知らされる。

 それと同時に自分の中に怒りの感情が湧き上がり、心が荒んでいく。

 過去の行いに後悔して爆発しそうになる感情を痛みに耐えながら必死に抑え込んだ。

 この怒りを王にぶつけるために。

 最奥へとたどり着いネクトマは彷徨う怨霊を支配して棘砂の道を統べる断罪の砂皇ラル=トゥム=ヴァールを攻撃した。


 地獄の第四階層 無音の都市

 音のない荒廃都市。ここは絶大な孤独に苛まれる。

 自分がどれだけの物事を無視してきたか思い出しては忘れていく。

 そして大事な記憶も零れ落ちるように少しずつ忘れていき、自分は誰なのか思い出せなくなる。

 狂いそうになって叫んでも声はどこにも届かず聞こえない。

 なぜここに居るのかも分からなくなっていき、自分という存在も薄れ、やがて消える。

 そんな時、何かに呼ばれるような声が聞こえた気がした。

 気のせいかもしれないその呼びかけに何度も無視をするがしつこく聞こえてくる。

 うるさい! 静かにしてくれ! 何度も呼ぶな! ネクトマとはなんだ! 違う……ネクトマは自分の名前だ。

 徐々に思い出されていく記憶。

 薄れていた存在は濃くなっていく。

 忘れていた。自分という存在を。

 顔を上げると心配そうに呼びかける相棒の魂が居た。

 互いの魂を交信させ名を呼び合い奥へと進む。

 無音の都市を統べる静寂の女王セスル・ヴィゴーリエを倒して次へと進んだ。


 地獄の第五階層 血の霧の海

 視界ゼロの血霧が広がる海。嘘をついた者たちは、自分の嘘が実体化して襲いかかってくる。

 自分がついた嘘なんて殆どが忘れていた。自分にとっては些細な嘘なんだから。

 だけど嘘をつかれた相手はそうじゃない。

 嘘をつかれたことで傷ついた人はたくさんいる。

 些細な嘘から重大な嘘が実体化して襲ってくる。

『嘘つき』『お前は嘘つきだ』『認めろお前が卑劣な嘘つき野郎だと』

 些細な嘘はネクトマを罵り、大きな嘘は苛烈に攻撃してきて血の海の中に引きずり込もうとしてくる。

 もう会うことの出来ない親兄弟、親しい友人たちの顔で罵られ引きずり込まれようとするのは辛く苦しい。

 過去の不誠実だった自分を恨むしかない。

「すまない」「申し訳ない」「ごめんなさい」

 どんなに謝っても嘘達は許してくれない。

 使役する亡霊達に助けられてなんとか塔に辿り着き、最上階に居た血の霧の海を統べる王 紅霧の巫女ヴァルネリアを倒して次の地獄へと向かう。


 地獄の第六階層 炎冠の宮殿。

 燃え盛る王宮に幽閉され、自分が王だと錯覚させられながら、反逆の幻に殺され続ける。

 玉座に座るネクトマはこれまで共に進んできた亡者達の裏切りにあい何百何千と殺され続ける。これが幻だと知らずに。

 信じるものはもう何も無い。最初は困惑し必死に止めようとしたけど殺される。

 亡者達はあの手この手でネクトマを拷問し殺し続けた。

『孤高であれ。有象無象の塵芥を消し去れ。反逆者を殺せ』

 いつしかこんな声が聞こえてくるようになってきた。

 もう何度目になるだろう。

 扉を突き破り玉座になだれ込んてくるかつての相棒たち。

 怨嗟の声で罵り武器を向ける。

 全てを諦め無に帰そうと亡者達に手を翳すネクトマは、うちに秘める莫大な魔力を開放する。

 これまで試練を乗り越えてきたことで得てきた力だ。

 玉座の間を圧迫する魔力は爆発するように拡散した次の瞬間、バキンとガラスが砕け散る音がしたと思うと景色がガラガラと崩れていく。

 意識が覚醒するとそこは大きな洞窟の中。

 周りには使役する亡者達が静かに佇む。

 一瞬体が強張るが全ては幻だと自覚するネクトマは亡者達を連れて洞窟の奥へと向かった。

 洞窟の奥は大空洞となっていて、その奥に巨体の漆黒の竜が佇んでいる。

 その竜が第六階層を統べる焔王マグナ=ヴォルケだと分かり、ネクトマ達は一斉に戦い激闘の末、打ち倒した。


 地獄の第七階層 虚無の心臓

 全ての感情と記憶を剥ぎ取られ、ただ存在だけが残る空白。ここに落ちた魂は、輪廻からも切り離されて消滅するまで存在し続け世界の「底」となる。

 音も暗闇もなく、空間は黒にすら染まらない。無限の静寂があたりを包み込み、時間すら溶けて曖昧になる。

 ここに来た者は自身の最も深い恐怖や空虚さと向き合わされる。ここにいると、自我が崩れ、何が自分だったのかさえ分からなくなる。

 酷く悍ましく精神を蝕む鳴き声のような鼓動が響き、それのみが救いであり唯一の道標となる。

 全ての感情と記憶を剥奪されたネクトマはただ存在として彷徨い有象無象のように消滅する運命かと思えた。

 たけど他の有象無象と違う事が一つあった。

 己の魂にこれまで契約し共にしてきた魂との繋がりがあった。

 消失したかに思えた自我がそれらの繋がりによって僅かに残される。

 僅かな自我は膨大な時間をかけて再構築され、記憶を取り戻した時、ネクトマという存在が超越した。

 そんなネクトマのもとに一筋の光が差し込み超常の存在と邂逅する。

 それはネクトマに問いかける。

 さらなる試練を乗り越えて生きてきた世界に戻るか、死の天使となって永遠に使者を導くか。

 ネクトマは答えた。

 もう会えないと思っていた家族に会いたいと、愛する人に会いたいと。

 超常の存在は深淵の先で待っていると言うと一筋の光は消えた。


〝ふぅ~……〟


 背表紙を閉じて膨大な物語を読み終えた疲労感と満足感に一息つく。

 いろんな地獄があって罰だったり戒めが自分も気をつけないといけないと考える。

 それぞれの地獄の王との戦いでは【死叙伝 冥門】には無かった新しい死霊魔法が沢山書いてあって発見や学びがあったし、死霊たちと一緒に戦ってるのも凄く良かった。

 僕はネクトマに強い憧れを抱き、彼のような凄い死霊魔法使いになると決めた。





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