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2話 初めての死霊魔法


 大きな扉をリエラティが魔法で開けて蔵書庫に入る。

 ここは特に立ち入りを禁止されていない。

 中は物凄く広く、見上げるほどに高い本棚が沢山あって、膨大な本がある。


「ちょっと待ってて!」


 リエラティはそういうと、ヒラヒラと飛んでいく。

 僕はキョロキョロと周囲を見ながら待っていると、何冊かの本を浮かばせながらリエラティが戻ってきた。


「先ずはこの本から読んで勉強するのが良いかも!」


〝その本は?〟


「魔法の入門書よ! 部屋に戻って読んてみましょう!」


〝うん!〟


 2人で部屋に戻り、机に座って早速1冊手にとって見る。


〝……〟


「どう?」


〝僕……字が読めないんだった……〟


 ずっと畑仕事を手伝ってきて、字を教わったことがない。

 本が読めないことに今更ながら思い出してガックリと頭を垂れる。


「それならそうと早く言いなさいよ! 字は私が教えてあげる!」


 リエラティはそう言って得意げに小さな胸を叩く。


 文字を習い始めてから数ヶ月。

 一通り読み書きが出来るようになった。

 魔法入門書も一人で読めるようになり、魔法の勉強が始まった。

 魔法使いになるには、まず魔力を感じないといけないらしい。


〝う~ん……。魔力ってなんだろう〟


 魔力を感じると言ってもよくわからない。


「ジーナスは胸のあたりに魔石があるから、そこに集中してみて!」


〝うん、やってみる〟


 スケルトンになった時に生成されたのだろう、胸にある灰色の小さな魔石のあたりに手を当てて集中してみる。

 魔石から僅かな脈動と力みたいなのを感じる。

 これが魔力なんだろうか。


〝なんとなく……分かったかも〟


「じゃあそれを動かすイメージしてみて!」


〝うん〟


 再び胸のところに手を当てて、魔石から感じる力を動かすイメージをする。

 いくら試してみても出来ない。

 何日、何十日とやってみても、一向に動かせる気配がない。


〝僕、魔法の才能が無いのかな……〟


「諦めちゃだめよ!! ほらもう一度やってみましょう!!」


〝う、うん……〟


 それからさらに数日して、ようやく少しだけ魔力を動かせるようになった。

 ほんの僅かな魔力が手に集まる。


〝やったああああああ!! 出来たよリエラティ!!〟


「おめでとうジーナス!! それじゃあ次のステップに行きましょう!!」


〝うん!〟


 次は属性変化だ。

 魔力を属性に変える。

 水の魔法を発動する場合には水の属性へと変化させなきゃいけない。

 その前に、自分がどの属性を得意としているのか調べる必要があると入門書に書いてあった。

 属性の調べ方は、水晶に手を置いて、自分の魔力を水晶に触れさせること。


「ちょっと待ってて! 水晶持ってくるわね!」


 リエラティは部屋を出ていく。

 暫くして、透明な水晶を空中に浮かばせて戻ってきた。


「アストーに貰ってきたわよ!」


 水晶を机に置く。


〝ありがとうリエラティ!〟


 僕は早速、水晶に手を置いて魔力を手に込める。

 水晶は僕の魔力を吸収し、中心部が仄かに黒く霞む。


〝これは何属性?〟


 リエラティに聞く。


「お主は闇属性じゃな。まあスケルトンならそうじゃろう」


 背後から声がして、振り返るとお爺さんが居た。


「何やら魔法を勉強してるようじゃな。闇属性ならこれが丁度いいじゃろう」


 お爺さんの手のひらにおどろおどろしい分厚い魔導書が現れて浮かび上がる。

 リエラティがその魔導書の周りを飛び、凝視している。


「これって死霊魔法じゃない。いいの?」


「闇属性なら丁度いいじゃろう。それに、スケルトンならこの魔法とも相性がいい」


「それもそうね!!」


 僕はその魔導書を受け取る。


〝ありがとうございます!〟


「うむ。魔法で自由に遊んでみるといい」


 お爺さんはそう言って僕の頭を撫でると、フッと消えてしまった。

 魔導書の表紙には赤黒い何かで【死叙伝 冥門】と書いてある。

 表紙をめくり、1ページ目を読む。


〝……〟


 内容は難しそうな魔法の事ではなく、物語になっているようだ。

 主人公のネクトマという人が森で巻きを拾っている時に巨大な門に出くわす所から書かれている。

 ネクトマは好奇心からその門を通り抜ける。景色は森の中から一変して仄暗い霧に包まれた荒廃した世界に変わった。

 怖気(おぞけ)を感じて戻ろうと後ろを振り返ると門は消えていた。

 ネクトマはそこで生気を感じられない存在に襲われて、恐れ慄き逃げ惑い、暗い霧の中にほんの少しだけ見える明かりを発見してそこを必死に走る。

 それは小さな小屋で、明かりは小屋の窓からだった。自分以外に人が居ると安堵したネクトマは戸を叩くと中から黒いマントで全身を覆う人が出てくる。

 その人はネクトマを小屋の中に入れて椅子に座らせてくれる。ネクトマはここは何処なのかと尋ねると、冥界だと答えた。自分が冥界に居ることに驚愕し、自分が死んてしまったのかと酷く取り乱したが、その人はネクトマはまだ死んでいないと答える。

 ネクトマは偶然冥界の門を見てしまい、通ってしまった招かれざる存在だと知る。元いた場所に帰りたいというネクトマにその人は無理だと答えた。その人は冥門の番人で亡者を地獄に導く役割しか与えられていないと話した……と書かれている。

 僕はこの物語についつい夢中になってっしまった。

 ネクトマは冥門の番人から冥界と地獄での生き方を教わり、そして生き抜くために死霊魔法を習得したと書いてある。

 死霊魔法については内容が事細かに記されていた。

 長い年月を冥門の番人の小屋で過ごして死霊魔法の基礎を極めたネクマトはようやく冥界を抜けて地獄へと足を踏み入れた。

 ここで物語は終わり背表紙をパタリと閉じる。


「読み終わった?」


 僕の目の間をひらひらと飛ぶリエラティは聞く。


〝うん! 凄く面白かったよ!〟


「そうみたいね! 私が何度も呼びかけたのに無視するくらい面白かったみたいね!」


 ぷんぷんと頬を膨らませて少しいじける。

 本当に夢中になって呼びかけに気が付かなかった。


〝ご、ごめんなさい……〟


 謝る僕にしょうがないわねと腕を組みお姉さんぶるリエラティ。


「死霊魔法の事は何かに分かった?」


〝うん。死霊魔法の基礎について色々書いてあったよ〟


「それならその基礎に沿ってやってみましょう!」


〝うん!〟


 ネクマトが最初に学んだのは死の理解を深め生と死の観念を強く持つこと。

 それについては書かれていたらなんとなくだけど分かる。

 生きていた時は考えもしなかった、死んだ今だから考えられる生きるとはどういう事なのか。

 僕は今、骨となって存在しているけど行きていると言えるだろうか。

 言えない。

 息をすることを出来ない。

 鼓動を感じる事も出来ない。

 風を感じる事も匂いを感じる事も味を感じる事も出来ない。

 ぬくもりを感じる事も涙を流す事も出来ない。

 死んている僕は生きているときに出来ていたことのほとんどが出来ないんだ。

 これが……死んでいるということだ。

 でも、僕は感情はある。

 喜ぶことも悲しむ事も怒ることも出来る。

 ただ灰色の世界に佇むだけの僕じゃない。

 僕は僕として存在出来ることに感謝しなきゃいけない。

 それに、死んだ事によって出来るようになった事もある。

 生きている時には見えなかったものが見えるようになった。

 感じるようになった。

 それが死霊魔法を行う上で最も大事な事だと本には書いてあった。

 次にネクマトが学んだのは死魂の霊火という死霊魔法。

 魂を捕まえて青白い炎を纏わせ周りを照らす魔法。

 この明かりは現実の世界では特に意味はなく冥界を覆う暗い霧を照らして周りを見えるようにする。

 だけど死魂の霊火には熱を奪い精神を蝕む効果もある。

 先ずはふよふよと漂う魂を一柱掴む。

 その魂に自分の魔力を流す。

 特に抵抗されるような感覚は無く僕の魔力が魂を侵食していく。

 魂に僕の魔力が淀み無く交わるとその魂の情報が読み取れた。

 この魂は死んでからかなりの年月が過ぎてるようで、自意識がほとんど無かった。

 そのせいか読み取れる情報はほぼ何もなかった。

 僕は手のひらにある魂に本に書かれていた死霊文字を刻む。

 死霊文字が刻まれた瞬間、魂は青白く燃え盛る。

 魂は不可視のままだけど青白い火は可視化されて周囲の熱を奪う。


「ちゃんと出来たわね! 凄いじゃない!」


 僕の手のひらの上にある青白い火の周りを飛びながら感心して褒めてくれるリエラティ。

 それが凄く嬉しかった。


〝この魔法は精神を蝕むって書いてあったけど蝕むってなに?〟


「少しずつ悪くするって意味よ!」


〝そうなの!? リエラティは大丈夫!?〟


 悪くすると教えてもらい慌てて魔法を辞める。


「ふふん! 私は妖精だから魔法耐性は高いのよ!」


 自慢げに僕の周りを飛ぶリエラティ。

 大丈夫だということでホッと胸をなでおろす。


「もう分かってると思うけど、魔法を発動するにはそれに起因した文字を覚えるのが大丈夫よ! だから魔法使い達は最初に魔法文字を覚えるの。 高位の魔法になるほど魔法文字は複雑になっていくし、特殊な魔法にはそれぞれ特殊な魔法文字が存在する。だからしっかり勉強して覚えるのよ!」


〝うん! 分かった!〟


 初めての魔法を成功させてもっと頑張るぞと意気込み復習した。



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