15話 憧れの人は今
僕の部屋に入りザルトゥーンはキョロキョロと見回す。
『中々立派な部屋ではないか』
「ふふん! 当たり前じゃない! なんてったってあのアストーの弟子なんだからね!」
僕の代わりにリエラティが誇らしげに胸を張る。そんな彼女を無視して本棚を見るザルトゥーン。
『死叙伝か。懐かしいな』
〝知ってるの!?〟
『うむ。ネクトマとは古い付き合いでな』
魔法の力で本を浮かせて表紙を開きパラパラとページを捲って読む。なんとも懐かしそうなザルトゥーン。
『これを読んで死霊魔法を学んだのか。良い選択だな。これは比較的まともな方だからな。何人か死霊魔法使いを見てきたがどいつもこいつも正気を失った狂ったやつばかりだったが、ネクトマは面白いやつだった』
「最後に会ったのはいつなの?」
『それを答える前に教えて欲しい。今は何年なのだ?』
「ロミア暦で答えるね。今年は二万九九五七年よ」
ロミア暦は大昔の各大陸の五賢者が集まって太陽と星の動きを観測して正確に計算して導き出した暦で、世界共通のものとされている。
ちなみに、その大陸の五賢者の一人はアストーである。
他にはエルルト創生暦、エルスドラゴ暦があり、エルルト創生暦は最も古く長命な種族であるエルフ独自の暦で、エルスドラゴ暦は太古の昔に世界を統べた十二の竜が時を回していたという竜族に伝わる古代信仰に基づく暦だ。
『ほう。我が死んでから三〇〇年は経ったのか。であるならばネクトマと最後に会ったのは約一一〇〇年前になるな』
〝そ、そんな昔なんだ……〟
『人間にとっては遥かなる時に感じるだろうが、我やそこな妖精姫、エルフのような特殊な存在は長大な命を有する。故に時の感じ方は違うだろう。我らにとってはついこの前のように感じるな』
〝そうなんだ……!! 凄いね!! ネクトマはどんな人だったの?〟
『凄まじい奴だった。死を司る我をしても奴の力には及ばん。星々の試練を経てこの世界に帰還したあやつは死を纏う半神となっていた。幾億の死霊を従え、死の力を全能に備えていた。そんなやつがこの世界に舞い戻ったのだ。敏感だった奴らは戦慄していた。我もその一人だ』
ザルトゥーンの語る憧れの人の話に聞き入る。もし僕が人の姿だったら目を輝かせていたと思う。
もっともっと聞きたいという気持ちが溢れる。
リエラティも僕の頭の上で楽しそうに聞いていた。
『この世界に戻ってきた瞬間から最強格の一人となったあやつは大いに注目されていた。その力を奮えば一つの大陸は容易に呑み込まれると恐れられ、実際にあやつを怒らせた国々は圧倒的な死の力に滅んでいる。人々からは畏怖され、いつしか死の魔神と呼ばれるようになった』
〝凄いなぁ……!!〟
「そんな凄い人は今どうしてるのかしら。簡単に死ぬような人じゃなさそうだけど。それにそんな力を持っていたなら死を超越してるだろうし封印とかされてない限りは存在してるわよね?」
リエラティの疑問は最もだ。そんな凄い人が誰かに殺されたりするとは考え難い。どこかでひっそりと暮らしているのだろうか。もしそうならいつか会ってみたいと僕は思った。
『今は地獄に居るはずだ。必死の思いでこの世界に戻ってきたのに、死の魔神と呼ばれて世界の的だとか神敵だとかで四六時中襲われるのは面倒くさいと言って憤慨していた』
「アハハハハハ!! なるほどね~!! 不本意ながら世界の脅威になってしまったわけね! それなら地獄の方が安全かもしれないわね~」
愉快そうに笑うリエラティ。
〝地獄に居るなら会えないね……。残念……〟
『暴喰書界なら何か知っているんじゃないか? 今度聞いてみたらどうだ?』
「確かに! アストーならこの世界の事はなんでも知ってると思うし地獄の行き方も知ってるんじゃないかしら!」
〝うん! 今度師匠に聞いてみる! ねぇねぇザルトゥーン。一つ聞いても良い?〟
『なんだ?』
気になっていたことを聞いてみた。
〝ザルトゥーンはどうして死んだの?〟