12話 魔石の吸収と召喚
塔に帰ってきた翌日、早速購入したミノタウロスの魔石を吸収を始めた。
ボーリング玉やエダムチーズ位の大きさで、濃い紫色をしている。
この魔石には莫大な魔力が秘められているのを感じる。
ゴブリンの魔石とかなら一瞬で吸収しても問題ないけど、これほどの物を一気に吸収しようもの僕の魔石が弾けるのは間違いないだろう。二度目の死を迎えてしまう。
さぁこの魔石を吸収するのにいったいどれくらいかかるだろうか。
机に置かれているミノタウロスの魔石に両手を当てて自分の魔石が耐えられるように少しずつ吸収していく。
ミノタウロスの魔石を不休で吸収し始めて約三十日。三十日だ三十日。
まさかこんなにもかかるとは思いもしなかった。
もうすぐで魔石の魔力は枯渇する。魔石の色もほぼ透明となり、変わらないのは大きさだけだ。
〝これで……終わりだ!〟
全ての魔力が吸収されたミノタウロスの魔石はサラサラと砂粒に崩れていき空間に溶けて消失していく。
「やっと終わったわね!」
〝うん……凄く時間かかったけど見て〟
僕の胸の魔石を指差す。
いろんな魔石を吸収しても濃い灰色だったのが濃い赤紫色になっている。
以前とは比べ物にもならない莫大な魔力だ。これなら魂のないアンデッドを数十体は操れるだろうし、数百の魂と契約しても問題ないくらいには急成長したと言える。
「終わったようじゃな。力を試したいとウズウズしているようじゃな」
〝師匠!〟
すぐにバレてしまった。こんな凄い魔力を手に入れて試してみたくてすぐにでも塔の外に出て魔物を狩りに行きたいくらいだ。
アストーが杖で床を小さく小突くと景色が一変する。
広大な平原の階層。前に試験で訪れてホブゴブリンを倒した所だ。
アストーが杖を前に傾けるとオーガが現れる。
二メートルを優に超え、筋骨隆々の巨体。まだアストーの制御で意識は無いけど憤怒しているような顔つきで、全体から強烈な気配を発している。その迫力に圧倒してしまう。
「ちょ、ちょっとオーガじゃない!! 大丈夫なの!?」
心配そうにするリエラティ。
「あやつの魔力量なら十分に倒せるはずじゃ。あとはあやつの技量次第じゃな。しっかりと死霊魔法を勉強していたなら対処出来るはずじゃ」
「本当に大丈夫かしら……」
「準備はよいな?」
〝は、はい!〟
返事をするとアストーは制御を解除する。オーガはゆっくりと目を開けると目の前に居る僕を排除すべき敵と即座に認識した。
「グルアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
強烈な咆哮をして一瞬で間合いを詰めると拳を叩きつける。
爆発したかのように地面が弾けて土が舞う。
圧倒的な瞬発力、驚異的な腕力だ。
僕は間一髪で避けて死霊魔法を発動する。
〝呪縛霊鎖〟
霊体の鎖がオーガに絡みつく。ピタリと止まるオーガ。
通用したとホッとした。すぐに魂を抜き取ろうと手を伸ばした時に僕の肋に拳が叩き込まれる。ボキボキと肋骨は折れて吹き飛ばされた。
「ジーナス!!」
リエラティは僕を助けようとするがアストーそれを制する。
「ねぇ早くオーガを止めて!! ジーナスが死んじゃうわ!! お願い!!」
目に大粒の涙をためて懇願する。だけどアストーは何もしない。険しい表情でただ見つめる。
たぐり飛ばされた時、僕は妙に冷静だった。この一撃で魔石が砕かれて死んだかもしれないと一瞬考えたけど、それよりも戦いの最中にホッとした自分が馬鹿だったと強く思う。
僕は過信してただ。自分の力に自惚れていだんだ。
だから圧倒的な格上相手になんとかなると舐めてた。危機感を持たなかった。
オーガは確実に僕を殺そうと接近してくるのが見えた。自分の体を治す時間なんて無い。起き上がる時間もない。
この一瞬であいつを倒さないと僕は死んじゃう。
もう死にたくない。今の僕の魔力ならあの魔法を使えるかもしれない。
〝僕を助けて……冥霊召喚〟
死霊魔法を発動した瞬間、僕の魔力の殆どが消費される。急激に魔力が減ったことで意識が朦朧とする。だけどはっきりと聞こえた。空間に亀裂が生じてそこから底冷えするような冷たい空気、膨大な死の気配が漏れ出て空間を侵食しようとしている。亡者の声が無数に聞こえてくる。その亀裂から鎧を着た騎士のような出で立ちの若い男が現れる。その男は胸を貫かれたような跡があり、他にも大小さまざまな傷が目立つ。激戦を戦った騎士のようだ。空間の亀裂は閉じてい消える。
〝呼び声に答えて馳せ参じた。命に従い敵を排除する〟
騎士の男は剣を構えるとオーガと対峙する。まったく怯えた様子はなく、堂々たる佇まいは勇猛な騎士と伺える。
「グルアアアアアアアアアアアアアア!!」
現れた亡者の騎士に襲いかかるオーガ。
鋭い爪で切り裂こうとするが剣で受け止め火花が散る。
騎士の男は反撃してオーガの腕を切る。大きな裂傷が出来たオーガは痛みに叫ぶ。
力は圧倒的にオーガの方が上だが、騎士の男の技量と経験が有利に働きオーガを追い詰めていく。
多少の攻撃を受けても亡者故に痛みはなく、即座に反撃して受けた以上の傷をオーガに負わせた。
無数の打撃と剣撃がぶつかり合い時間は過ぎていく。
圧倒的な力とスタミナを有していたオーガは動きが鈍り、力も弱まっていった。対して騎士の男は亡者だから疲れを知らない。
数十分の戦いの末、遂に勝敗は決する。
多くの血を流し疲れ果てたオーガが片膝を付き、騎士の男が一瞬にして首を刎ねる。
〝命は果たした〟
そう言うと煙るのように消えた。
少しして僅かにだけど魔力が回復した僕は意識が戻る。
〝僕は何を……〟
どうして僕は倒れてるんだろうと考えたが、すぐさま思い出してガバっと起き上がる。
周りは激しい戦いが行われていたのか荒れ果て、首を切られたオーガが倒れている。
「ジーナス!! 気がついたのね!! 大丈夫!?」
リエラティは心配そうに僕の周りを飛ぶ。
〝僕は大丈夫だけど……これはどういう事?〟
「おぬしが召喚した亡者がオーガを倒したのじゃ」
〝そうだ!! 僕は冥霊召喚したんだった!! どこにいるの……?〟
辺りを見回してもそれらしいのは居ない。
「もう冥界に帰っておる」
「凄い戦いだったんだから!」
〝そっかぁ……〟
お礼を言いたかったけど帰っちゃったのなら仕方ない。
そして自分の体をみて反省しないといけないと改めて思った。
「何がいけなかった自分で分かっておるな?」
〝うん……〟
「ならよい。その事を忘れるでないぞ。どんな時でも慢心せず侮らない事じゃ。同じ過ちを繰り返せば弱いものにも足元をすくわれるぞ」
〝はい……。気をつけます〟
「うむ」
アストーは僕に杖を振るう。すると砕けた肋骨が逆再生するかのように治っていく。
「冥霊召喚をしてオーガを倒したのもおぬしの実力じゃ。オーガの魔石はおぬしにやろう」
〝ほんと!? ありがとうございます師匠!!〟
「良かったわね!」
〝うん!!〟
アストーはオーガの死体を燃やし、残った魔石を僕に渡してくれる。ミノタウロスのより少し大きい。
「エンネアから貰った魔石はどうする? 今吸収するか? それともオーガの魔石を吸収してからにするか?」
〝う~ん……、エンネアさんから貰った魔石を吸収する!〟
「分かった」
アストーは虚空から死怨竜の魔石を取り出す。ミノタウロスやオーガの魔石よりも遥かに大きい。
それに真っ黒で物凄く禍々しく邪悪で猛々しい魔力が漏れ出ている。
魂を揺さぶられるような感覚に包まれる。
不快さはなく、むしろ心地良い。
「ではわしは行くぞ。くれぐれも無理をするでないぞ」
〝はい!!〟
「リエラティ、あとは頼んだのじゃ」
「任せて!」
アストーは転移して居なくなる。
「早速吸収してみる?」
〝うん!〟
僕の身長が一二〇センチメートルくらいで、胸下くらいの大きさの岩のような魔石に手を伸ばす。