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11話 お仕置きとゾンビ


「ジーナス!! なにボーっとしてるのよ!!」


 振り下ろされる拳が僕の顔面に叩きつけられる寸前で止まる。

 リエラティが魔法で何かをしたからじゃない。

 マルドーは掴んでいた僕の首を突き放すように手放す。

 着地に失敗した僕は尻もちをついた。


「このガキ……ナニモンだ?」


 マルドーは僕から何かを感じ取ったのか額から汗を流して一歩後退る。


〝うん。悪い人は倒さないと行けないよね。このおじさんは凄く悪い人なんだね。そんなにたくさん殺したんだ。死ぬのは怖いよね。僕も凄く怖かったんだ。凄く痛かったんだ。皆の大切な人をこのおじさんが殺しちゃったんだね。いいよ。僕が倒してあげる〟


「ちょ、ちょっと……ジーナス?」



 心配そうなリエラティの言葉は残念ながら僕には聞こえたかった。

 彼らの悲痛な叫びと恨み言が僕に訴えかけるんだ。だから僕はマルドーに取り憑く幽霊たちの言葉に答える。

 僕には見える。マルドーの真っ黒な魂が。凄く凄く汚れている魂だ。僕はそんな魂なんか大嫌いだ。


〝呪縛霊鎖〟


 死霊魔法が発動し霊体の鎖がジャラジャラとマルドーに絡みつく。


「ッ……な……にが……おき……た……んだ……」


 身動きが取れなくなりながらも必死に抵抗して何とか喋る。

 まだまだ僕の魔法が未熟なんだろ。抵抗が強すぎて魔法が解けそうになる。


〝リエラティ。お願い。このおじさんを動けないようにしてくれる?〟


「良いけど何をするの?」


〝悪い事をしたらお仕置きしないといけないんだよ。だからお仕置きするの〟


「……そう。分かったわ!」


 リエラティは何か言いたそうにしてるがグッとこらえて、普段通りの様子でが何かの魔法を発動した。マルドーは一瞬にしてピッタリと動かなくなる。


〝ありがとうリエラティ!〟


 僕は動けないマルドーの前に立って体に触れる。

 幽霊たちはそれを大人しく見守る。

 ルースいつの間にか居なくなっていた。


〝死ぬのがどれくらい怖くて苦しいかおじさんも経験してみるといいよ〟


 手から僕の魔力が流れてマルドーの体の中に侵食していく。

 僕の魔力はマルドーの魂を補足する。彼の魂からぐちゃぐちゃの恐怖を感じる。


〝魂抜き〟


 魂を僕の魔力で包み込み引っ張る。

 生きたまま魂を引き抜かれるってどういう感じなんだろう。それは凄く良くない事なのは伝わってくる。マルドーの魂から恐怖が凄く強くなったのを感じた。そしてもとに戻ろうと反発する。激しい反発に僕の魔力が解けないようにゆっくりと慎重に確実に引き抜いていく。


〝死ぬって怖いよね。苦しいよね。もうすぐ終わるからね〟


 プツンと肉体と魂の繋がりが切れてマルドーは死を迎える。

 でも死んたからって苦しみから開放される訳では無い。

 殺された人達は怨霊としてマルドーに縛られていたんだから。


〝やめろおおおおおおおおお!!〟


 僕の手のひらの中にある黒く穢れた魂が霊体の形を作り叫ぶ。


〝ねぇ見える? 聞こえる? 見えるよね? 聞こえるよね? おじさんに憑いている幽霊たちが見える? あの人達の声が聞こえるよね?〟


 僕の言葉を聞いて気が付くマルドー。

 リエラティが魔法を解除して倒れている自分の肉体の方を見て驚愕している。


〝な、んだ……あいつらは……〟


〝覚えてないの? おじさんが殺した人たちでしょ?〟


〝は……? 俺が殺した奴らだと……? 俺はあんな悍ましい化け物は殺してない! ふざけるな!〟


 大勢の怨霊が死んだときの姿で固まり蠢くそれを一つの化け物として見ているようだ。

 マルドーの言葉に怨霊たちはより禍々しくなる。

 確かにマルドーの言う通り化け物かもしれない。だけど化け物にしたのはマルドーだ。

 怨霊たちはマルドーの魂に手を伸ばす。霊体となったマルドーを掴みブチブチと引き裂いていく。


〝ぎゃあああああああああああああ!? や、やめろ!! 触るな!! 俺を引き裂くなあああああ!! ぎゃああああああああああああ!!〟


 相当な苦痛なのだろう、僕の手の中にある彼の魂が叫ぶ。

 酷く損壊していくマルドーの魂。


〝ァあアアアあ゛あ゛ぁい゛た゛い゛い゛い゛い゛い゛。ドこた゛ごコはァぁあアぁあ。お゛まえ゛はた゛レレた゛ァ〟


 ここがどこで僕が誰なのかも記憶が喪失するくらい壊れかけ、何を言っているのか聞き取りづらい。


〝これ以上は使えなくなっちゃうからだめ〟


 恨みを晴らすために復讐する怨霊たちを止める。

 怨霊たちは口々に不満を言うが素直に従った。


「使うってどうするの?」


 リエラティは気になったようで聞いてくる。


〝アンデッドを作ってみようと思って〟


 【死叙伝 地獄】でネクトマがアンデッドを作って操ってるのをみてずっと試してみたいと思っていた。

 今がちょうどいい機会だと思って作ってみることにする。


〝命魂律令〟


 死霊魔法を発動してマルドーの魂に命令を刻み込む。

 今の僕なら二つは刻めると思う。

 僕の命令が刻まれるが、このままでは肉体に魂を戻すても精神が壊れていてまともに動かないかもしれない。

 だからちゃんと命令を実行させるためにも治さないといけない。


〝魂癒回生〟


 この魔法は魂の損傷を修復する魔法。

 漂うマルドーの魂の残滓を集め、僕の魔力で補い修復する。

 これも僕の魔力の未熟さ故に完全に修復することは出来なかった。

 歪でところどころ引き裂かれたままだ。

 それでもアンデッドにするには問題ないとは思う。多分。


〝屍化術〟


 マルドーの魂をもとの肉体に戻っていく。魂は肉体に上手く定着していき安定している。自分の肉体だったから拒絶反応も無いみたいだ。

 魂を体に戻したけど蘇生したわけじゃない。

 一度死んだ肉体を生き返らせるにはもっと高度な死霊魔法じゃないと無理だとあの本には書いてあった。


〝起きて〟


 僕の呼びかけにマルドーは目を開ける。


「生き……返ったのか……?」


 自分の体を動かしおかしな所ないか確認して直ぐに気が付いたようだ。

 心臓が動いていないことに。


「ど、どういう事だ!? 俺の心臓が止まってる!! 痛みもなにも感じねぇ!! 生き返ったんじゃねぇのか!?」


〝おじさんはアンデッドのゾンビになったんだよ。だから僕の声が聞こえるでしょ? 幽霊が見えるでしょ? あの人達の声も聞こえるでしょ〟


 僕の言葉に気が付き狼狽える。


「うるせぇ!! うるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇ!!」


 怨霊たちの声に耳を塞ぐマルドー。

 だけど耳を塞いでも意味はない。彼らの声は魂で聞いているのだから。

 あっちへ行け、消えろと叫び怨霊を殴りつけるけど意味はない。

 はたから見ればおかしくなったようにしか見えないだろう。


〝静かにして〟


 僕の言葉に暴言を吐いて暴れていたマルドーが逆らう素振りも見せずピタッと止まる。そして緊張し恐れている。


〝僕の命令は二つ。一つ、僕やリエラティの事は絶対に誰にも喋らないこと。二つ、悪い仲間を皆やっつけること。出来るよね?〟


「……はい。分かりました」


 かなり不服そうだけど魂に刻まれた命令には逆らえない様子だ。


〝それじゃあ行っていいよ。ばいばい〟


「あの……一つお願いが……」


〝なに?〟


「……この化け物をどうにか出来ませんか?」


 気が狂ってしまいそうだと取り憑く怨霊をどうにかして欲しいと懇願してくる。僕は怨霊の方を見る。


〝やだ。その人たちとちゃんと仲直りしてね!〟


「そ、そんな!! 何でもしますからお願いします!! 稼いだ金を全部渡しますんで!!」


〝やだ!! 要らない!! もうどっか行ってよ!!〟


「しつこいわよ!! 自業自得じゃない!! 自分でどうにかしなさい!!」


 必死にすがり懇願してくるけど僕が一切聞く耳を持たないと察してから、酷く落ち込んで立ち去った。

 やっと静かになった。


〝さてと……。残るはこの人だね〟


 未だ霊体の鎖で動けなくなっているアトの兄貴分の男。

 一部始終を見られているから放っておくわけにもいかない。


〝こいつもアンデッドにしちまいましょう!〟


 案内してくれた男の幽霊が提案する。


〝もう魔力が足りないから出来ないよ〟


〝だったらぶっ殺しちゃいましょう! その方が手っ取り早い! それにこいつもあの男の下で相当悪さしてるだろうし〟


「そうねぇ~! さっさと片付けて行きましょう!」


〝は~い〟


 その男の前に立ち胸に手を当てる。男は目で何かを訴えてるようにも見えるけどよくわからない。

 魂抜きを発動して男の魂を抜き取り死に至らしめる。


〝ひぃいいいい!!〟


 酷く怯えていて僕の手から逃げ出そうと必死だ。手放すと一目散にどこかに消える。

 さて残ったのは二つの死体と無数の幽霊だ。

 幽霊に関しては僕がマルドーを懲らしめたのを見て妙にスッキリと晴れやかな表情になっている。

 これ以上僕に干渉してくる様子もないし放っておく。

 だけど問題は死体だ。


〝これどうしよう……〟


 悩んでいたその時。


「こんな所におったか。そこで何をしておる?」


 アストーがフッと現れる。

 死体があるのを見られているから言い訳は出来ないと考えんて、僕とリエラティはこれまでの事を正直に話した。


「まったく……市場に居ないと思ったらそういう事か。たかが一スタでこうなるとはな」


〝ごめんなさい……〟


「ごめんなさい……」


「ふむ。話は帰ってからにしよう」


 そう言って杖を振るうアストー。二つの死体は燃え盛り一瞬にして灰となる。


「未熟な弟子が世話になった」


 僕のそばにいる案内してくれた幽霊の男に礼を言うアストー。

 

〝あ、いや……へへへ……それじゃあ自分はこのへんで……。旦那、いろいろ楽しかったぜ! またどこかで会いましょう!〟


 アストーの厳かな雰囲気、威厳に萎縮してひゅーんとどっかに行ってしまった。


「では帰るぞ二人とも」


「は~い!」


〝はいっ!〟


 塔に戻ったあと怒られたのは言うまでもない。





 アストー、リエラティ、ジーナスが帰ったあとに事件は起きた。

 発狂したマルドーが強盗団の仲間を襲撃したのである。

 彼の仲間は異様な力で捻じり切られて殺されていた。

 マルドーは仲間を皆殺しに留まらず、他の犯罪者にまで手を出し一夜にして大勢の人が死んだ。

 その街で暗躍し多くの犯罪を仕切っていた組織は事態を重く見てマルドーの首に懸賞金をかける。

 暗殺者達が殺しに殺されそうになるも返り討ちにする。

 そして組織にまで牙を剥くマルドー。

 組織の総戦力にてマルドーは打倒された。大打撃を受けた組織は事件の真相究明に身を乗り出すのだった。




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