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10話 簡単には終わらない



〝あのガキの住処はここの筈だぜ〟


 そこは見るからに手が加えられている壊れかけの空き家に見える家だ。

 生前住んでいた僕の家よりも少し狭そうだ……。

 とりあえず誰か居ないか呼びかけようとしたが僕は声が出せない。

 リエラティにお願いしようとしたらちょうどドアが開き、中からあの男の子が出てきた。

 そして僕達が居ることを想定してなかったのだろうビクッとして驚く男の子。


「ッ!? お、お前なんでここに居るんだよ!!」


 ぶつかった時は人懐っこそうな感じだったのに、今は戸惑いながらも僕達を睨みつけて語気を荒げる。


「あなたがジーナスのお金を盗ったんでしょ!! 早く返しなさい!!」


 リエラティも負けじと怒りを顕にしている。


「は、はぁ!? 俺が盗ったって証拠がどこにあるんだも!! 言いがかりはやめろ!!」


 彼の言うことは普通なら最もだろう。

 直ぐに取り押さえなかったのに証拠なんて何も無い。

 ただ状況から判断しただけになる。

 だけど僕達には一部始終を見ていた幽霊の男がいる。

 僕は幽霊の男の方を見る。


〝俺ぁ嘘なんかついてないからな。〟


 男の子は焦りからか額に汗を滲ませて酷く緊張した様子で周囲を気にしている。

 リエラティと男の子が言い争っている所に一人の男が近づいてきた。


「おいルース、これはどういう状況だ?」


「あ……えっと……アトさん……こ、これはその……」


 ルースと呼ばれた男の子は酷く怯えた様子で服の裾を握り俯いた。

 アトと呼ばれた男は威圧を俺達に向けて近寄ってくる。


「おい。聞いてんだろ。どういう状況だってよ。答えろ。てめぇらなにもんだ? あ?」


 ルースを見下して更に威圧を強め、俺達にも威嚇してくる。


〝ちょっとマジぃな〟


 嫌そうな顔をする幽霊の男。


〝どういう事?〟


〝こいつはおそらくこの辺を縄張りにしてる窃盗団の奴等だな。ガキが稼いできた金を回収してるんだろ。こういう所にはいくつも犯罪組織がある。そいつらは孤児やどっかから攫ったガキどもを使って犯罪させたりしてんだよ〟


 それを聞いて、目の前に怯えている子供が居て僕の心が凄くモヤモヤする。

 僕はあまりそういうのはよく分からないけど、なんとなく悪いことだと思う。


「ちょっと!! 急に現れてなんなのよ! 邪魔だからどっか行って!」


 リエラティはアトに物怖じすること無く言い返す。


「あぁ? なんで妖精がこんな所に居るんだ? そう言えば妖精は高く売れるって聞いたことがあるな……。大人しく捕まれ!」


 アトは素早くリエラティに手を伸ばす。

 それをひらひら悠々と避ける。


「安々と捕まるわけないでしょ? 馬鹿なの?」


「なんだとこの野郎!!」


「おい! なに騒いでんだ! ったくもたもたしやがって! ボスが待ってるんだ、さっさと回収して次行くぞ!」


 もう一人の男が近づいてくる。


「あ、兄貴! すんません! こいつ等が邪魔してきやがって。それよりも見てくださいよ! 妖精ですよ! 捕まえたら高く売れるんじゃないですか?」


「お、マジじゃねぇか。こんな所に妖精とは珍しいな。だけどてめぇじゃ捕まえるのは無理だ。高位の魔法使いか凄腕の狩人じゃないと捕まえられねぇ。諦めてガキの金を回収しろ」


 冷静に判断する男。


「はい! ルース! さっさと金を出せ! 殺すぞ!」


「は、はいっ!! ごめんなさいっ!!」


 涙をポロポロとこぼし怯えながら革の小袋を取り出す。

 それは僕が師匠から渡されたお金を入れる小袋だ。

 その小袋を素早く掴み取るリエラティ。


「これはジーナスのお金よ! 返してもらうわよ!」


「あ、か、返して……! それが無いと……」


 必死に手を伸ばすルース。


「どけっ!!」


 アトはルースを突き飛ばしてリエラティの持つ小袋を奪おうとするが、捕まるはずがない。

 突き飛ばされたルースは家の壁に激しく体を打ちつけて気絶した。

 僕の所に戻ってきて差し出すリエラティ。


「中身確認してみて!」


〝うん〟


 小袋を開けて中を見ると一スタが入っていた。

 お金が無事でホッとする。


〝ちゃんとあるよ!〟


「それなら帰りましょう!」


「それを大人しく渡せガキ!」


 アトは隠し持っていたナイフを取り出して僕に突きつける。


「帰す分けねぇだろ。痛い目見たくなければそれ渡してついてこい。」


 男が退路を塞ぐように立ち挟み撃ちのような状況になる。


「いっちょ前に杖なんか持ちやがって魔法使いごっこか? あ? 僕は魔法が使えますってか? こんな所に来て馬鹿なガキだな」


 ジリジリと距離を詰めてくる二人。


〝呪縛霊鎖〟


 死霊魔法を発動すると男達の体に霊体の鎖が巻き付く。


「「ッ!?」」


 ピクリとも動かなくなる二人。


〝おおおおお!? 何だそれ!! すげぇじゃねーか!!〟


 幽霊である男は霊体の鎖が見えているようで興奮している。

 僕はそれを無視して男の横を通り過ぎようとした時、生前の僕のお父さんと同じぐらいの年に見える男の幽霊が現れて通せんぼするように手を広げる。


〝ま、待ってください! どうか俺の息子を……ルースを助けてください!〟


 必死に懇願する。

 そして他の幽霊たちもワラワラと現れ、それぞれが口々に息子を娘を助けてと懇願する。

 一斉に喋るから凄くうるさい。


〝う、うるさーい!!〟


 僕が怒鳴ると幽霊たちは押し黙る。

 最初に声をかけてきたルースの父親の幽霊が深く頭を下げた。


〝どうか……どうか息子を助けてください……〟


 どうしたらいいのか分からず困惑する。


「なんで助けなきゃいけないのよ! お金取られたんだからね!」


 フンッと腕を組んでそっぽを向き未だに怒っているリエラティ。


〝まぁまぁ、話を聞いてあげましょうよ旦那ぁ! もしここで帰っちまうとあのガキはどうなるかわかんねぇぜ。あのゴロツキどもはメンツが潰されたとか言ってぶっ殺しちまうかもしれねぇぜ〟


 案内してくれた幽霊が言うとルースの父親が同意するように強く頷く。


〝だからよぉ、こいつらぶっ殺して死体隠しちまおうぜ〟


 ケケケと笑う。


〝う、う~ん……〟


 僕はお金が取り戻せたし早く師匠を見てけて帰りたいんだけど、ルースが殺されちゃうのもなんだかモヤモヤする。


〝グズグズしてると他のやつが来ちまうぜぇ〟


「そんなのほっといて行きましょ!!」


〝そ、そんな!! どうか息子を助けてください! お願いします!〟


 父親の幽霊に呼応して他の幽霊も騒ぎ出す。


〝もうっ!! うるさーい!! どうにかすれば良いんでしょ!!〟


 僕はアトに近づき胸に手を当てる。

 アトは動けないまま得体のしれたい恐怖に怯え冷や汗を流している。


〝え~っと……確か【死叙伝 地獄】には……〟


 書いてあった内容を思い出して魔法を発動する。


〝蝕魂〟


 僕の手から魔力が放たれてアトの魂に触れる。

 生きたまま魂を触られるというのはどういう感覚か分からないけど、身動き一つ出来ない状態で呼吸が粗くなる。

 魂が僕の魔力を拒絶しているのか付け入る隙はないが、魔力をどんどん送り包み込む。

 生きたまま無理やり魂を操ろうとすると相当な拒絶反応があるみたいで、顔が真っ赤になり血が目や耳、鼻から垂れてくる。

 全方位した魔力で無理やり魂を侵食するとプツンと何かが切れる感覚がしてアトの魂が体から抜けて死んでしまった。


〝あ……〟


「殺したの?」


〝う、ううん……魂を操って記憶を消そうと思ったんだけどだめだったみたい。あの本には出来るって書いてあったんだけど……やり方がだめだったのかな?〟


「う~ん、きっと難しい魔法だから精密で繊細な魔力コントロールが必要だったりするんじゃない?」


〝そうなのかなぁ。もっと魔法の練習をしないとだね! それじゃあこの人どうしよう〟


 もう一人の男の方に向く。

 男は僕の魔法から抜け出そうと必死に体を強張らせている。


〝こいつもやっちまいましょうぜ旦那!〟


「う、うぅ~ん……」


 気絶していたルースが意識を取り戻して起き上がる。

 アトが目や鼻、耳から血を流して倒れているのを目の当たりにする。


「ッ!? ど、どうなって……!? お前が何かしたのか!?」


 僕を問い詰めるルース。僕は素直に頷いた。


「な、なんて事してくれたんだよ!? これじゃあ俺も殺される!! どうしよう!!」


 酷く取り乱す。彼にとっては最悪の状況だろう。

 どんどんと面倒になっていく事態に早く帰りたくなった。


〝もう手遅れだぜ~〟


 幽霊の男が言う。


「他はとっくに回収終わらせて帰ってきてるっつうのによぉ、ここはおせぇから様子を見に来たら……おい……これはどういう状況だ?」


 大きな裂傷痕があるスキンヘッドで強面の大柄な男が現れた。

 かなり凄みと迫力がある。

 大男の登場にルースはガチガチと歯を鳴らして震え怯てえ、ルースの父親の幽霊はルースを守るように彼のそばに行く。

 周りに居る幽霊達は大男に怨嗟の眼差しを向け口々に罵る。

 そして大男の周りには老若男女無数の幽霊が取り憑いていて強い怨念を感じる。 


「そいつ死んでんのか?」


 アトを指さして僕に聞いてくる。


「死んでんだろ? おい。どう落とし前つけるんだよコラ。あぁ?ガキぃ」


 取り憑いている霊たちの恨み言がうるさくて、大男の言葉なんか聞き取れない。


〝殺した……〟〝殺された……〟〝死ね……〟〝呪ってやる……〟〝俺の親父を〟〝息子を……〟〝娘を……〟〝妻を……〟〝恋人を……〟


〝こいつに殺されたあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!〟


 声が重なり悍ましい。


〝許さない……〟〝ユるさナい……〟〝ユルサナイ……〟


〝あぁあぁあぁあぁあぁあぁあ!! 死ねマルドー!! 死ねえぇえぇえぇえぇえぇえぇ〟


 幽霊達はマルドーと呼ぶその大男の首を絞め必死に締める。


〝ボスぅぅううぅ~、俺殺されちゃいましたぁああぁ~。ボスぅウぅううぅう~。こいつにににににぃいいいい殺されたたたたたあああああ〟


 僕の手にあるアトの魂が霊体になって呼びかける。僕のせいでおかしくなっているのか言葉が変だ。

 そしてアトの言葉は当然届かない。

 この魂は要らないから手放すと、マルドーに歩み寄り取り憑く霊達の中に埋もれていく。


「おい聞いてんのか? 大人の話はちゃんと聞かなきゃだめだろうがぁ!!」


 霊達に気を取られて、いつの間にか近づいていたマルドーが僕の首を片手で掴み持ち上げて、もう片方の手を振り上げた。



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