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第5話 感動の再会?

相変わらず、この病室には何もない。


白くて、どこか冷たいベッドと机と簡素な棚。

壁には時計すらない。

無機質な空間に、俺の存在だけが浮いていた。


昨日はリハビリ――いや、“訓練”と呼んだ方が正確だろう。

過剰な負荷の中で体を動かし、気づけばそのまま眠ってしまっていた。


筋肉痛と倦怠感が体に残る。

まるで全身が鉛に変わったかのようだった。


だが、そんなことを言っている場合ではない。

俺は意を決してベッドから立ち上がると、ゆっくりと部屋の扉へ近づいた。


試しに取っ手を回すが、開かない。


ガチャガチャと数回ひねる。

力任せに引っ張ってみても、びくともしない。

どうやら電子ロックがかかっているようだ。

完全に、外から施錠されている。


「……くそっ」


鍵を壊そうと試みるも、材質は異常なほど頑丈だった。

何度か試したそのとき、無情にも警報が鳴り響いた。


甲高い電子音が部屋中にこだまする。


数秒後、白衣の看護師たちが一斉に扉の向こうから現れた。


扉が音を立てて開き、彼女たちがずらりと部屋に入ってくる。


「どうされましたか?」


「いや、ちょっと外に出ようかと」


俺は努めて平静を装う。

だが、看護師たちの雰囲気が昨日と違っていた。


白衣の下――目を凝らすと、その腰には不自然な膨らみがあった。

俺からは見えないようにしていたが、明らかに“武装”していた。


それが何なのか、すぐに思い出す。

学校の映像教材で見たことのある武器だ。


ホスピタルの汎用性装備――“注射針”。


細く、鋭く、そして刺すためだけに設計された剣。

フェンシングのような形状をしており、斬るためではなく、ただ一点を貫くために作られている。

細いものもあれば、骨ごと砕きそうな極太のものまであるという。


俺は思わず一歩下がった。

挑発すれば、実力行使されかねない。

ここは従うしかない。


「ドクターから外出の許可は出ていません。リハビリの時間まで、もう少しお待ちください」


淡々とした口調だった。

だがその目には、一切の感情がない。


やはり、この施設はおかしい。


俺は心の中で確信する。


リハビリと称された戦闘訓練。

病室の外からかけられる鍵。看護師が武装しているという異常。


白い塔――この場所は、単なる医療施設ではない。


記憶を辿る。

父さんがここに送られたきり、帰ってこなかった。そして、白い塔は“治療”の名のもとに、選別や強化を行う場所だという話も聞いた。


本当に治療を目的としているのなら、なぜ脱出を封じる? 


なぜ戦闘訓練が必要なのか?


ここに入った者は――もう、元の世界には戻れない。


父さんも、きっと……。


死んだのか。


それとも、もっと恐ろしい“何か”にされたのか。


考えるだけで背筋が凍る。


……なら、ここから脱出するしかない。


いつ? 今すぐだ。


武装しているということは何かトラブルが発生しているのかもしれない。


なら、その混乱に紛れるしかない。


再び扉へ近づく。


今度はより力強く、ガチャガチャと音を立てて開閉を試みる。


拳で扉を叩き、肩をぶつけ、叫びそうになるのを堪えながら、突破口を探した。


だが、やはり扉は開かない。


「くそっ……俺は、このまま一生ここから出られないのか……」


弱音が思わず口をついて出た。


その瞬間だった。


「突き破るから離れて!」


扉の向こうから声――女の子の声が聞こえた。


「えっ……!?」


とっさに俺は扉から離れる。次の瞬間――


ドカーン!!


凄まじい爆発音。

衝撃とともに扉が吹き飛び、金属が弾け飛んだ。

熱風とともに白い煙が立ち込める。


「ゴホッ、ゴホゴホッ……!」


視界が真っ白になる。

目を細めながら前を見ると、煙の中に人影が立っていた。


黒いスニーキングスーツに身を包み、顔には仮面。


「……誰だ?」


俺が身構えると、その人物は仮面の奥から優しい声を響かせた。


「やっと会えたね、お兄ちゃん!」


「なっ……!」


懐かしい声音。聞き覚えのある優しさと、屈託のない明るさを持った声。


「お兄ちゃん?……お前、もしかして……アイリ……なのか!?」


名前を口にした瞬間、その人物はゆっくりと仮面を外した。


そこには――あの頃の面影を残しながらも、少し成長した少女の顔があった。


「うん! アイリだよ、お兄ちゃん!」


……信じられない。


目の前の少女は確かにアイリに似ている。


だが、背は俺とほぼ同じくらいにまで伸びていたし、胸元も明らかに成長していた。


「いやいやいや、ありえないだろ! アイリはそんなに背高くないし……っていうか、兄としてあまり言いたくないけど、胸もそんなに無いはずだ!」


我ながら酷いことを言ってる自覚はあったが、どうしても現実味がなかった。


アイリ――俺の妹は、中学生の小柄な女の子だった。

明るくて、元気で、ちょっとお調子者で、それが、こんな姿になるなんて。


「はぁ~……お兄ちゃんさぁ、せっかくの再会なんだからさ、もっと感動してよ。あと、私だって成長期なんだから背も胸も成長するに決まってるでしょ!」


アイリは呆れたように言い返した。

その表情も、口調も、まさしくアイリだった。


「成長するのはわかる。でも……昨日の今日でそんな急成長するわけ…」


そこまで言って、アイリの表情が曇った。


そして、静かに言った。


「……いい? 落ち着いて聞いてね、お兄ちゃん。あの時から……もう2年経過してるんだよ」


「……え?」


思考が、止まった。


2年……? 


たった数日だと思っていた時間が―――まさかの2年間?


「ど、どういうことだよ……」


混乱の中、俺は立ち尽くした。

アイリの瞳は、真っ直ぐに俺を見つめていた。


次の瞬間、施設の奥から再び爆発音が響いた。

非常ベルがけたたましく鳴り始める。


白い塔の中で、確実に何かが起きている。


そしてそれは、俺の運命を――いや、世界の真実をも大きく変えていく始まりだった。


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