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第2踊 襲撃者

退屈な学校が終わり、アイリと一緒に帰路に着く。


俺たち兄妹は学校で腫れ物のように扱われている。


なぜかって?


俺たちの父親が病気になり白い塔に治療に行ったからだ。

あの兄妹もいつか病気になるから近づくな。


大人は気にしないが、子供社会のような狭いコミュニティでは嘘や噂だけでそういう対象になってしまう。


俺とアイリは最初はかなり戸惑ったが、今となってはもう気にもとめない。

なにより、大好きな父親をバカにしてる奴らとつるむつもりなんて微塵もなかった。


家までアイリとくだらない話をしながら帰った。

家に着くと、玄関が開きっぱなしだった。


「もうお母さんったら、玄関開けっぱなしだし!」


アイリが文句を垂れながらも、我先にとリビングへと向かっていく。

俺もそれに続いてリビングへ向かう。


リビングに足を踏み入れた瞬間、全身が凍りついた。


床に倒れた母さん。血の匂いが鼻を刺す。


「母さん!」


俺は駆け寄ろうとしたが、その前に立ちはだかる男がいた。

全身を白い防護服で覆われていて、顔はマスクとゴーグルで隠されている。


「君たちがカイリくんとアイリちゃんだね」


低く、無機質な声。

まるで感情がない機械のような口調だった。


「……母さんに何をした!」


叫びながら睨みつけるが、男は微動だにしない。


「君たちのお母さんが病気になってしまってね、白い塔に連れて行くところなんだ。君たちも来てくれないかな?」


母さんが病気? そんなはずはない。

今朝まで普通に過ごしていたのに。


「嘘だ……母さんは元気だった!」


「感染は突然現れることもあるんだ。君たちの安全のためにも、すぐに移送しないと」


男は静かにそう告げた。


俺は混乱した。

けれど、床に倒れた母さんの顔を見た瞬間、すぐに思考が切り替わる。


母さんの呼吸は浅く、顔色は異様に白い。

唇にはうっすらと紫がかっていた。


「……お兄ちゃん……どうしよう……」


アイリの震える声。


「母さんを……助けてくれるんだな?」


俺は男を睨みつけながら問いかける。


「もちろん。治療が必要だからね。さあ、急ごう」


信じていいのか分からない。けれど、今は他に選択肢がない。


俺たちは男に促され、家の外へ出た。


そこには白い救急車が停まっていた。

車体には「白い塔 医療機関」と書かれている。


俺とアイリは、意を決してその車に乗り込んだ。


——数分後。


車内は異様に静かだった。

救急車特有のサイレンも鳴らない。

ただ、エンジンの低い振動音だけが響いている。


母さんは担架に乗せられ、無言のまま横たわっている。顔には酸素マスクがつけられ、時折小さく息をする音だけが聞こえた。


「お兄ちゃん……大丈夫、だよね……?」


アイリが俺の袖をぎゅっと握る。


「……ああ」


不安を押し殺して答えた。


だが、そのとき——。


——ガンッ!!


突然、車体が大きく揺れた。


「な、何!?」


運転席のほうで怒声が飛び交う。


「クソッ! 襲撃だ!」


「防護班! 迎撃準備!」


「なぜヤツの接近に気が付かなかった?!」


「至急応援を呼べ!!」


バカァン!爆発したような音が響いたかと思うと、車体が横転するほどの衝撃が襲う。


「うわぁぁ!!」


俺はとっさにアイリを抱きしめようと手を伸ばす。

次の瞬間、鈍い痛みが胸を、全身を貫いた。


視界がぐらりと揺れる。

俺は機材の下敷きになっていた。


車のバックドアがまるで締め付けられるように変形していき、粉々になった。


「少々無茶をした、すまない」


車内にトレンチコートを着た男が入ってきた。

彼は吹き飛ばされ、血だらけで横たわる母さんの元へ近づくと手を取り、少しだけ会話をしていた。


「すまない。私の到着が遅れてしまったばかりに」


話終わると男は俺の方に視線を向けた。


「君を助けるのは、今の状況では難しいかもしれない」


謎の男はそう呟きながら近くにいたアイリを抱き抱える。


「お兄ちゃん!お兄ちゃんも助けて!」


アイリが俺を呼んでいる声が聞こえた。


「悪いが今は時間が無くて君の妹しか連れて行けない。必ず君も迎えに行くから」


そう言い残すと、背中しか見えない何者かがアイリを抱き抱えて連れていった。


俺は意識が暗闇に沈んでいった。


最後に母さんに守られる夢を見た。


―――


「先生、まさかヤツが直々に現れるとは…」


紺色のスクラブを着た男が現場の指揮をとり、怪我人を収容しながら先生と呼ぶ男に話しかける。


「無理やり突破してきたようだな。片割れだけ連れていかれたか。もう少し早く到着出来れば一戦交えてみたかったものだ」


先生と呼ばれる男は、白衣を身にまとい、医者のように見える。

男は、横たわる少年を見た。

少年の体には守るように強固なバリアに包まれていた。


「危害を加えるものを弾く力……母親のものか。厄介だな。解除には時間がかかりそうだ」


そういいつつもどこか愉快そうな響きがあった。


「この子が本物なら、神にも悪魔にもなり得るだろう」


「悪魔になったらどうします?」


スクラブを着た男は笑いながら先生に問う。


先生と呼ばれる男は不敵に笑った。


「そんときは、治療するだけだ」


―――



深海からゆっくり浮上していくように、意識レベルが上がっていく。


目を覚ますと、そこは見知らぬ天井だった。

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