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第1話 双子の姉妹

神様はとても気まぐれでした。

自然災害を引き起こしたり、隕石を落としたり。

そうやって生物の行く末を楽しんでいました。


しかしある時、『人間』という神様のお気に入り、知恵のあるものが神様の設定した命の長さに抗い始めました。

神様は最初は人間の成長を楽しんでいましたが徐々に腹が立ってきました。


そこで神様は『病気』を流行らせました。

神様の目論見通り、人間たちは病気によって数を減らし、人口の1/4が死亡しました。


しかし彼らは犠牲を払いながら病気に抗い、『薬』を開発して危機を乗り越えました。

神様は、上手くいかないことに腹が立つと同時に人間の対抗力に興味を持ちました。


神様は次に『病魔』を流行らせました。

それは妖怪や魔物として人間に襲いかかりましたが、またしても人間の抵抗、『陰陽師』や『退魔師』などの出現により退けられました。


ここまでくると神様は腹が立つより、楽しくなってきました。

そこで神様は気が付きました。

人間を滅ぼすのは、病気や病魔ではなく人間であると。


そして現在、神様は作り出しました。

人類を滅ぼす存在、『病人』を。


―――


「お兄ちゃん、いつまで寝てるの!早く起きてご飯食べないと学校遅刻しちゃうよ!」


ドンドンと扉を叩く音が聞こえ、俺、進藤カイリは目を覚ました。

眠気まなこを擦りながら目覚まし時計で時刻を確認する。


AM:7:00


7時半に支度をすれば間に合うからあと30分は眠れる。

二度寝の気持ちよさには中毒性があるのだから仕方がない。


俺は再び瞼をとじて夢の世界へ旅立とうとした―――が突然の落下攻撃に目を覚まさずにはいられなかった。


「お兄ちゃん、起きてってば!」


 ドンッ!


お腹に衝撃が走る。息が詰まりそうになりながら、慌てて目を開けると、俺の上にちょこんと座る少女がいた。


「……アイリ、お前な……」


俺の双子の妹、進藤アイリ。

俺と同じ中学3年生だ。

双子といっても二卵性双生児だから似てはいない。


肩までの黒髪をゆるく結び、大きな瞳をじっとこちらに向けている。

頬を少し膨らませているのは、明らかに俺に対する抗議の意思表示だ。


「もう、ご飯できてるんだから早く起きてよ!」


「……あと五分」


「ダメ!」


再びドンッとお腹に体重をかけられる。

俺は観念して上半身を起こした。


「わかったわかった……今行く」


「ちゃんと顔洗ってからね!」


アイリは満足そうに笑うと、部屋を飛び出していった。


俺は仕方なくベッドから降り、洗面所で顔を洗う。冷たい水が肌に触れ、ようやく意識がはっきりとしてきた。

髪を軽く整えながらリビングへ向かうと、テーブルには朝ごはんが並んでいた。


「おはよう、カイリ」


キッチンに立っていたのは母さんだった。

エプロン姿のまま、味噌汁の鍋をゆっくりとかき混ぜている。


「おはよう」


「ほら、席について。冷める前に食べなさい」


俺は椅子に腰を下ろし、テーブルを見渡す。

焼き鮭に卵焼き、サラダ、そして湯気を立てる味噌汁。

普段通りの朝ごはんだが、こういう普通の日常が一番ありがたい。


「いただきまーす!」


アイリが元気よく箸をとり、俺もそれに続く。


食事をしながら何気なくテレビのニュースを眺める。

キャスターが深刻そうな顔で何かを話している。


『本日未明、市内のとある商店街で不審な爆発が発生しました。現場には複数の病人が現れましたが、ホスピタルによって治療されました。』


「えっ、これって……」


アイリが驚いた声をあげる。

俺も画面をじっと見つめると、確かに見覚えのある場所が映っていた。


平凡な朝のはずだったのに、なんとなく嫌な予感が胸をよぎった。


「最近物騒だから気をつけなさいよ?何かあったらすぐ、ホスピタルを呼ぶのよ?」


「わかってるよ母さん」


俺とアイリは、身支度を済ませて学校へと向かった。


「お兄ちゃん、何かあったら私が守ってあげるね!」


アイリは胸を張りながら高らかに宣言した。


「アホか。すぐにホスピタルを呼んで逃げろ」


俺の正論に、アイリは不満げに頬をふくらませていた。

正論すぎて言い返せないのもアイリらしいな。

くだらない話をしていると、学校に到着した。


俺とアイリが通っているのは、医療を専門に扱う中学校だ。ここでは基礎的な医療と歴史を学ぶ。


俺とアイリはクラスが違うため下駄箱で別れた。

俺は教室へ入ると自分の席へと座り、二度寝を開始した。


チャイムがなり、授業が始まる。

俺は素早く目を覚まし、教科書を開いて準備をした。

一限目は世界史からだ。


「19xx年、世界に突然異能力者『病人』が現れました。彼らは、病気の力を扱い我々人類に牙を向きました。このままでは人類は滅んでいたでしょう。では、なぜ人類は滅ばなかったでしょうか?」


子供の頃からずっと聞かされてた話だ。

わからないやつなんていないだろう。


案の定クラスの優等生が手を挙げて、答えていた。


「それはホスピタルがいるからです!」


「そうです。ホスピタルは医者、看護師、コメディカルによって結成された組織、正義の能力者集団です。彼らの対等により、我々は病人の脅威に怯えなくてすむのです!」


先生は楽しげに歴史を語る。

しばらくしてチャイムがなり授業が終わった。


「みなさんも体調管理には気をつけて下さいね!病気になると、病人になるかもしれませんから」


先生はそう告げて、教室を後にした。

病気になると病人になるといわれている。


そのため、病気になったら『白い塔』と呼ばれる施設で治療に入るらしい。

俺の父親も小学生の頃に病気になり、白い塔に入院した。

それから一度も会えていない。


誰もその異常性を指摘しない現状に、俺は薄気味悪さを感じていた。


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