5-㉘ 猫は歩くが進めない
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
スキルにより拡張された、広い広い胃の中。まぁ広いと言っても少し歩けば端まで辿り着けそうなんで、たぶんバスケットボールのコートサイズだろう。
足場はブヨブヨしているが、踏ん張りが効かない程じゃない。あと空間はしっかりと確保されていて、シワで狭い場所があったりなんてことも無い。本当にだだっ広い空間だ。
そんな空間にはたぶん消化が遅いからだろう、建物の石材の様な物が、建っていた形そのままに残されていた。その為、胃の中はさながら遺跡のようになっている。
そんな中を僕達は探索していた、お尻以外の出口を探す為だ。
お尻からは出たくない、わりと切実に。
「そもそもよく考えたら、胃を出ても小腸大腸と続くわけで、消化器官のオンパレードじゃん。僕は自分から消化されに行く趣味は持ち合わせてないんだよねー」
「女神様、そんな趣味を持ち合わせている人間は居ないと思います」
『とけたら、しんじゃう・・・』
「いや、決めつけは良くないよ。ワンチャン、食虫植物に入るのが好きな人居るかも知れないじゃん?」
「がふぅ・・・」
まぁ居るわけ無いのだが。
一般人には、その食虫植物の魔樹すら脅威なのだから!
さて、そんな下らないじゃれ合いはさて置き。僕はその辺で見つけた真っ直ぐな棒を片手に、ひとまず端に向かって歩いている。
時折飛んでくる寄生竜を蹴飛ばしつつ歩くこと30分、周囲に気を配りながら真っ直ぐ小腸方向に向かって歩いていた。
横穴があるとは思わないが、何かの切っ掛けはあるかも知れない。そんな期待を持っていたのだが、今のところそんな気配はない。
まぁ小腸への穴はだいぶ向こうだし、気長に歩こう。
「「「・・・・・・」」」
「・・・ねぇ、僕が言いたいこと分かる?」
「がう!」
『セレナも、おなじきもち』
「これは、流石に私でも気付きました」
この空間、可怪しいっ!
何が可怪しいって? なんでバスケットボールコート程度の広さの場所が、30分歩いても端に着かないのか。
僕達は、多少周囲を確認しながらだが、それでもまっすぐ小腸の穴に向かって歩いていた。30分歩いて着かないワケがない! 何なら10分で着くだろう、何だここっ!?
「えっ、《拡張空間》のスキルって無限に大きくなるの? ってか、そうだとしたらこの錯覚を起こしてるのは何なの?」
「わ、俺にもさっぱり。こういった事には疎くて・・・」
「が、がうっ・・・」
この謎空間に、ミミちゃんすら戸惑っていた。
それもその筈。空間の距離感が伸びているだけなら、視覚で中途半端に広く見せる必要が無いからだ。
小さなお弁当だと思ってたら実は三段重ねで「わー、大きい」と思った次の瞬間、それがコース料理の前菜だった事を知った気分だ。
えっ、重箱で見せた意味は? って言いたくなるでしょ? つまりはそういう感じ。
僕達が「えぇー・・・」と愚痴を零していると、一人(羽)黙っていたセレナが静かに飛び上がった。
「セレナ?」
『マーマ、少し待つ・・・《セイレーンの輪唱》ah〜〜♪』
何を思ったのか、セレナは突然スキルを使用する。
短い、1秒程のハミングを連続で3回。そして、それが終わるとそのまま黙ってしまう。
何をしているのか、10秒程じっとした後再び話し始める。
『マーマ、ここ変。音、返ってこない・・・壁無い?』
「壁が無い? でも見えてるよね・・・あの壁は幻とか?」
音が返ってこないと言っていた事から、たぶんセレナがしたのはソナーや反響定位と言った音の振動を使った空間把握だろう。
そんな事も出来るんだ、うちの娘凄い!
まぁ、もうちょっと早くやって欲しかったなぁと思いつつ、セレナのお陰でこれ以上の移動は意味が無いことが判明した。そしてもう一つ。
「この空間、《拡張空間》のせいだけじゃ無いかもね。別の何かが影響してるかも」
「別の何かですか・・・例えば先程から見える寄生竜の影響などでしょうか?」
「いや、寄生竜にはそんなスキル無かった。だから違うと思う」
僕はこの世界に来て、ただ毎日編んだり、妹達とイチャイチャしたりしていた訳じゃない。ちゃんとこの世界の勉強だってしていた。
だから字だって書けるようになったし、周辺の街や国の名前だって覚えた、そしてスキルについてもある程度知識を持っている。
スキルには大きく分けてパッシブスキルとマニュアルスキルに分かれる。
パッシブスキルは、言ってしまえば単純なプログラムだというのが僕のイメージだ。つまり起動、効果、停止がはっきりしていて、複雑な対応が出来ない。
魔法で言えば詠唱があって『起動』、そこから魔力を取り込んで『効果』、魔力を使い切って終了だ。つまり何が言いたいかというと、僕たちのアクションに合わせて空間が伸び縮みするのはパッシブスキルの範疇を超えている。
つまり、残る可能性は──。
「マニュアルスキルを持った何者か、もしくは『知恵ある神話級魔導具かな」
「が、がうっ!?」
「ア、アーティファクト!?」
『おー』
アーティファクトと言っても様々だが、僕が作ったものの中にはミミちゃんや起き上がり小法師の様な意思を持っている子も居る。無くはない話だ。
生き物だった場合は《神様のレシピ本》の様に応用が効く、もしくは人の範疇を超えたマニュアルスキル、またはリッチの様な多種多様な魔法が使える者だろう。
ただこっちは、竜の胃の中で何してるの? って感じなので、可能性は薄い。
「し、しかし、その様な伝説級の代物が存在するのですか?」
「いや、ここに居るし」
僕は腰のミミちゃんをポンポンと優しく叩く、ミミちゃんも心なしドヤ顔だ。
それを聞いた商人さんは目を剥いて驚いている、最近こういったリアクションが無かったので懐かしい気持ちになった。
『ミミ姉、いっしょ』
「は、ははは・・・流石、女神様です・・・」
おい、何で引くんだよ。失礼なおっちゃんだ。
さて、目的を胃の端から変な物体、もしくは変な生き物に変更し探索再開である。
「ねぇセレナ、変な魔力を持ったものを探したり出来ない?」
『やって、みる』
出来るのか、ホントにうちの娘凄いな。
わがままは言わないし、お寝坊だけど性格は良い、甘えてくるのも堪らなく可愛い、最高です!
『すぅ~──《ディーヴァの旋律》la〜♪』
セレナって息吸うんだなぁとか思っていると、新しい歌が聞こえて・・・こない?
いや、耳を澄ますと聴こえてくるような、直接身体に届くような、そんな唄声が響いた。
うねうねとした波が、ゆったりと身体を揺さぶる。もしかすると、これは魔力波だろうか? 恐らく空気の振動に声ではなく魔力をのせて放っているのだろう。つまり、揺れているのは身体ではなく僕の魔力ってわけだ。
「う〜〜ん・・・船酔いする程ではないけど、揺り籠のような気持ち良さも無いね。ちょっともぞもぞする」
「がう?」
「ミミちゃんは特に何も感じないんだ? ミミちゃんの身体ってどうなってるんだろうね?」
これだけ一緒に居てもミミちゃんの謎が一向に減らない、寧ろ進化している。君は一体何になるんだい?
「女神様は、ミミ様と暮らされて長いのですか?」
「いんやぁ、出会ったのは一年前くらいかなぁ。ミミックなんて初めて見たからビックリしたけど、今では本当の妹だと思ってるよ! 凄く仲良しだもんね、ミミちゃん!」
「がうっ、がうっ、きゅーん♪」
「あぁ、実に素晴らしい・・・」
ミミちゃんが手をペロペロ舐めて甘えてくるので、お腹(?)をわしわしと撫でると嬉しそうにしてくれる。
そして僕達がじゃれている一方で商人さんは何か思うことがあるのか、ぶつぶつと独り言を呟いていた。
商人だし商機でも見つけたのかも知れない、後で教えてもらおう。
『マーマ、あった』
「ホントにっ!? どの辺?」
『あっち。石、下』
セレナが示すのは左斜め前の方、だいたい10mくらい先らしい。意外と近い・・・と、思った日が僕にもありました。
すぐ着くと思った、10mなんて1分も要らないから。でも、歩けど歩けど進まない。そう、ここは距離感がバグった空間なのを忘れていた。
結局目的地に到着したのは体感1時間後だった。
「ぜぃ・・・ぜぃ・・・到着したぞっ、おらぁっ!!」
「ひぃ、ひぃ、俺も・・・運動不足みたい、です・・・」
目的地に瓦礫があったこともあり、一応歩けば進むことが確認できた。良かった、これで進んでなかったら心が折れてた。
到着したその場所は、金銀財宝があった場所の様に石畳が残っている場所だった。
セレナは石の下と言っていたが何処だろう?
『マーマ、ここ、こわす』
セレナがちょいちょいと羽で指す。
僕は彼女が指す少し迫り上がった石床を指示通り蹴り壊す、するとそこから出てきたのは──。
「・・・扉?」
床が扉になっていた。
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最後まで読んで下さり、ありがとう御座いました!
また次の更新も宜しくお願い致しますm(_ _)m




