5-㉗ 妹兎の成長と沼竜捕獲大作戦
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
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地球の鰐は水生生物である。
その体長5m程の生物は肺呼吸にも関わらず一時間もの間息継ぎなしで潜水することが出来き、息継ぎの際も目と鼻のみを水面に出し、気配を殺し切る。
全身が強固な鱗に覆われていて、水中を時速約30km、陸上を時速約50kmで移動する。
またその最大の武器である大顎の咬筋力は3tを超える。
まるで子供が考えた最強生物をそのまま形にしたかのような存在であり、それがあり得ないほど巨大化したのが沼竜である。
地球の鰐ですらそれなのだ、15mを超える沼竜はもはや人間が対抗出来る存在では無い。
狙われたが最後、大人しく腹に収まるのを待つのみ──と、思うだろう。
しかし鰐は文面から想像するほど強い生物では無い。
リアムテラに下りて今日までの間、ピリアリートは大好きな姉から一時も離れず様々な知識・考え方を学んでいた。
特に就寝する前に家族で行っている読み聞かせで、ユウは異世界の雑学を様々語っており、ピリアリートは姉のそんな雑学も一字一句覚えていた。
そう、鰐には弱点が多いことも当然知っていた。
「皆、音が一直線に向かってくるの! 準備なの!」
「一応了解したが、ホントに大丈夫なんだろうなっ! お前さんが怪我して、後で嬢ちゃんに蹴られるのは御免だぜぇ!?」
「大丈夫なのっ、信じるの!」
ピリアリートの耳は真っ直ぐ自分の方へ向かってくる水音を捉えていた、そして少し前で音が止まり一層深く潜る。
「さんっ、にっ、いちっ、にげるのーーっ!」
ピリアリートの言葉に囮役が一斉にその場から四方へバラけ逃げる──次の瞬間、先程まで立っていた場所を大顎がトラバサミの様に襲いかかる。
──ガチンッ!!
沼竜がこの瞬間何を考えていたかは分からないが、まさか空を切るとは思わなかったのだろう。歯の噛み合わさる激しい音が響いた。
このタイミングを見計らっていたのはポルトスとガルド。ポルトスは沼竜が口を閉じた瞬間、ガルドが掴まる編みロープを振り回し投げ縄の様に投げた。
「おっさんっ、行くぜぇぇぇっっっ!!!!!!」
「俺はおっさんじゃねぇぇぇぇぇ!!!!!」
ガルドは沼竜に向かって飛ぶ。そして空中で姿勢を変えることで、振り子のように沼竜の口先を支点にしてぐるぐると回転し始めた。
ユウがこの光景を見ればきっと空中ブランコ、もしくはジップラインを連想したであろう動きを見せるガルド、その顔色は少し青かった。
「ぐっ・・・おえっ、気分が・・・」
「おじさん、もう少し頑張るの!」
「おっさん、気合い入れろっ!」
「もう少し耐えて下され、ガルド殿! 『リフレッシュ』」
この場で最年長(見た目)で最も過酷な働きを見せるガルドを労ってくれるのは、残念ながらアラミスだけであった。
ガルドの心情はさておき、彼の働きによりユウ特製の編みロープが沼竜の口の先端で五重に巻かれた状態となった。
編みロープは何重にも鎖編みを重ねて編まれている『神様のレシピ本』製であり、当然簡単に千切れる様なものではない。
しかし直径3cmの太さを持つそれも沼竜に対しては糸のように見え、あまりにも頼りない。
ましてや押さえているのは人間、この程度で口を封じる事など出来はしない──と、考えるだろう。しかし事実は異なった。
「Guuuuuuuu!!!!!!」
「ピアの嬢ちゃんが言ったとおりだなっ、ビックリするほど軽ぃっ!」
「さすがピア様だぜっ!」
「フフン! おねーちゃんに教えてもらったの!」
皆の予想に反し、沼竜の大顎はたった二人の力によって簡単に封じられていた。
意外だが鰐は顎を開ける力が非常に弱い。
地球の鰐は3tを超える顎の力を持っているが、それは噛む事に特化しており、大人が片手で押さえると顎を開けることが出来なくなる。
従って、沼竜といえど鍛え抜かれた冒険者であるガルドと剛腕のポルトス相手では当然の結果と言えた。
そして沼竜は暴れる、当然だ。
沼竜は口を縛るロープに不快感を表し、首を左右に振り回す。力が弱いのは顎の開ける力であり、基本的には体格に見合った力を持っている。
ましてや四足歩行の生き物は首の骨格と筋力が発達しており、非常に力が強い。いくら力自慢の二人でもすぐに引き摺られる、そこでピアは第二の策をとった。
「クレアちゃん、てーっ!」
「いっくよぉ! 『五連・炸裂矢』!!」
拘束のタイミングで沼竜の頭部側へ回っていたクレアは、器用に五本の紅い矢を番え、そして射た。
弓の名手であるクレアにより射られた矢は五本ともそれぞれの曲線を描き、同じポイントに同時に中る。
衝突し高い金属音を鳴らす鏃、そして火花が散った次の瞬間──目を焼くような閃光と鼓膜を叩く爆音が響く。
「2つめも成功なの!」
爆風に土煙が舞う。
全員塞がれた視界の中、何が起きても行動できるよう身構える──しかし何も起こらない。
沼竜の鳴き声すら聞こえない、ただ土煙だけが濛々と漂う。
炸裂矢は飛距離を犠牲に攻撃力を高めたクレアお手製の矢であり、同時射撃ができる彼女にしか使えない。火力はそのデメリットに見合うものであるが、しかし硬い外皮を持つ沼竜に高い効果があるようには思えない。
5秒・・・10秒・・・その間、編みロープが引っ張られる事すらない。
次第に土煙が晴れる、その先にあったのは──目を開けたまま微動だにしない沼竜だった。
「えっ、どうなってるの?」
「こいつぁ、何やってんだ? 呆けてんのか?」
「今竜さんは、びっくりして硬直してるの!」
沼竜は今、自身に何が起こっているのか分からず思考停止に陥っていた。
これは生物全てにおいて共通する事だが、頭に強い衝撃を受けると脳震盪が起きる。だがワニの場合この反応が顕著で、少しの間思考停止する。
理由は分かっておらず、一説ではワニは脳が小さくまた頭の構造上衝撃が伝わりやすい為そういった行動をとるらしい。
気絶しているわけでも脳震盪を起こしているわけではない、本当に「えっ、なに?」と思考停止しているだけである。
ちなみにこれはユウが昔見た動物ビックリ映像からの知識であり、真偽のほどは定かではない。
「最後の仕上げなの! マルクス君、アトス、やっちゃうの!」
「任せて下さい。闇と水の精霊よ、今ここに遠き冥界の扉を開き給え──『ニブルヘイム』!」
「合点招致に御座る! 水門の守り手たる蛟竜よ、祖が力をここに顕現せり──『氷獄の檻』」
アトスの魔法が沼竜を氷でできた鳥籠に閉じ込め、マルクスがその周辺に氷の花を咲かせる。
絵本の世界を思わせる幻想的な風景だがその実態は命をも凍らせる氷の世界、沼竜の周囲にあった草木は一瞬で凍り付き、次々と砕けて塵になっていった。
それですら沼竜の表面を白くさせる程度の影響しか与えなかったが、効果は別の所に現れた。
「・・・目を閉じてるけど、眠ったのかしら?」
「分かんねぇが、全く動かなくなったな」
「ピアさん、これは何が起っているのですか? 寒くて動かないという事なのでしょうか」
「ワニさんはね、『へんおんどーぶつ』なのよ!」
そう、鰐は爬虫類で『変温動物』である。
変温動物は周囲の気温に強く影響される、つまり温度が下がれば下がるほどその変化は顕著に表れる。
「Ga!?・・・Gu・・・gaaa・・・」
沼竜の動きが緩慢になっていく。
重なった二つの魔法の影響は沼竜に留まらず、周囲の草木を白く染める。
凍りついた樹木が自重によりキシキシと音を鳴らし、氷の大地と化した沼は沼流の動きにより割れては氷るを繰り返す。
そして雪化粧に覆われた沼竜は──ついにその動きを止めた。
「竜さん、捕獲完了なの!」
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