5-㉖ 猫は途方に暮れる
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
とりあえずお腹の中から出る、それだけの事・・・それだけの事? まぁそれだけの事なのだが、いくつか問題があった。
まず最初の問題は『酸素』、食道と小腸への道はあるが基本的にここは密閉空間。いつまで酸素が続くか分かったもんじゃない。
次に『食料』、たとえ息が出来てもご飯と水が無いと衰弱して死んでしまう。
他にも胃酸とか色々あるが、一番厄介なのが『寄生竜』だ。これは予想だけど、沼竜の《エナジードレイン》の対象は現在寄生竜になっている。でももし僕が寄生竜を倒しまくったら?
それで沼竜が栄養失調になってくれるなら良いけど、もし対象が僕達になったら? 僕は兎も角、商人さんの命が危ない。
つまり僕達は次々と襲い掛かってくる寄生竜を極力倒さないようにしながら、ここを脱出しなければならない。
「面倒臭い、そしてここも臭い・・・」
「がうぅ・・・」
ミミちゃんもその面倒さを理解してくれたのか、二人揃って溜息しか出なかった。
悶々としていても仕方ないので、解決できるところからやっていこうと思う。
まずはミミちゃんに食べ物がどのくらいあるのか確認して貰った所、数週間は大丈夫らしかった。
そういえば旅の食料の殆どはミミちゃんの中に入れて貰っていた。飲み水もいっぱいあるし、最悪ミミちゃんレーザーの水を飲むことも出来る。プロブレム・ソルビング!
次に空気だけど、これはミミちゃんが解決してくれた。
「がうがう!」
「えっ、なに・・・あれ? これって『正常の起き上がり小法師』じゃん? 使うの?」
「がう!」
ミミちゃんに言われるがまま人形を転がす、すると驚いたことにあの死にそうな臭さが無くなり、若干あった息苦しさも解消された。どうやらこのアーティファクトには『空気』と名の付くものなら、全てを解決する能力が備わっているらしい。
たぶん毒ガスやら空気感染する病気にも効果を発揮するんだろう・・・チート過ぎない?
そして気のせいか、僕よりもミミちゃんの方がアーティファクトを理解している気がする。ウチの妹は天才だったっ!! ミミちゃんもあの状況でいつの間に馬車から持ってきていたのか、実にちゃっかりした子である。
「これは・・・、女神様ありがとう御座います! その人形の効果ですか? 素晴らしいですね、それも商品化をされるのですか?」
「いやぁ、これはダメでしょ?」
「危険性の無いものなので売っても問題無いように思いますが・・・、これがあれば助かる仕事も多いと思います。是非またご検討ください」
「確かに間違って使う事もない道具だし・・・アルバートさんに聞いてみようかな」
まぁ商品化したくても、僕しか作れないんだけどね!
商魂たくましい商人さんとの会話もそこそこに、僕は他にも問題が無いか確認していった。
胃酸で体が溶かされないか心配だったが、消化を寄生竜に頼りきりなのか服や体が溶かされるような心配は無さそうだった。これでエッチな薄い本みたいな展開は回避されるだろう、というかこんなに胃酸が少なくて沼竜は胃もたれしないのだろうか?
そういえば人間も、サナダムシに寄生されると消化不良とか肥満とかの症状が起き辛いと聞いたことがある。そう考えると共生ってのはメリットの大きい現象なのかもしれない、まぁサナダムシは時々お尻から出てくるらしいが・・・おぉう、ゾワっとした!
やっぱり女の子として、お尻から虫はナッシングだな・・・いや僕は男だけど、男の子的にもナッシングでしょ? えっ、自分のお尻から虫が出てきて嬉しい人居る? 居ないよね?
さて、馬鹿な事考えていないで次の行動に移ろうと思う。
こうしている間にも実は寄生竜が僕達に向かって、矢のように飛んできているのだ。それを倒してしまわないよう蹴り飛ばしているが、見た目がアレっぽいだけに蹴る度に僕と商人さんはキュッと内股になる。
付いていないのに痛みを感じるのかって? こういうのは男の子の本能みたいなものなので、逃れようがないのだ。
「一寸法師みたいに中からダメージを与えてみようか──『換装』」
僕のウサミミはぴょこんとした三角のネコミミに、手足の毛皮は短くしなやかで赤い虎模様の付いたものに生え変わる。
「この格好もスクナ戦以来だね。うん、こっちの方が動きやすい」
『マーマ、ねこ。かわいい』
「ありがとう、セレナも可愛いよ!」
赤猫装備は白兎と違い攻撃に特化している、まぁスキル的にアサシンっぽいけどね。
特に攻撃スキル『爪研ぎ』は引っ掻いた箇所を丸々削り取るというヤバい攻撃力を持っている、つまり今回な場合において有効なスキルだと思うのだが、果たして・・・。
僕は近くの肉壁に対し、爪を立てた。
「まぁものは試しだ、いくよっ──『爪研ぎ』!!」
ザシュッ──バチンッ!!
「えっ⁉」
「がうっ⁉」
なんと爪が肉壁に刺さった瞬間、爪が弾かれてしまった。
硬いものに当たったわけでは無く、何かバリアに弾かれた様な感じだった。もしかすると爪研ぎは空間魔法的な作用があって、空間魔法同士は不干渉だったりするのかもしれない。そう考えると今の現象も納得だ、まぁ脱出方法が無くなったという事実は残るが・・・。
僕は唯一出入りの出来そうな、食道と小腸へ繋がる穴を見る。
そこは物が出入りする時だけ開く仕組みなのか、現在は袋の口を縛ったように閉ざされていた。つまり、穴が開けられないと分かった今、僕達は完全に閉じ込められたという事になる。
「困ったなぁ・・・とりあえずこの空間を隅々まで歩いてみようか、何かあるかも」
消化されずに残っている瓦礫に何か隠れていることを期待しよう。
僕達は飛んでくる寄生竜を殴り飛ばしつつ、胃の中を探索する事にした。
◇
ユウが内股になったりお尻をおさえたりしていた頃、外ではピア先導のもと沼竜拘束作戦が立てられていた。
「水を泳いでる音が、ピア達の周りをぐるぐる回ってるの! たぶん人がいっぱい居るから、出てくる場所を考えてるんだと思うの!」
「餌を選んでるってか? 舐めやがって・・・」
「マルクス君とアトスは木の上で待つの、ガルドおじさんとポルトスはおねーちゃんが作った編みロープ持って準備なの! ピアとダルにゃんとアラミスは囮なの!」
妹狂いのユウが居れば絶対に却下する作戦ではあるが、実際の所変身したピアの身体能力はガルド達よりも高い。
パワーこそガルドが勝つが、俊敏性と反応速度においては通常の獣人を遥かに凌駕する力を持っている。よって地面から沼竜が出てきた瞬間に回避をする場合、俊敏性に富んだピア、ダンタルニャン、アラミスが適役であった。
ちなみに余談であるが、ピアは『ダンタルニャン』の発音が苦手なので、よく『ダルにゃん』と呼んでいる。
「嬢ちゃん、長ったらしいから俺の事も短く呼んでいいぜ」
「分かったの、『おじさん』!」
「何で名前を削った⁉」
子供にとって30台はおじさんなのだ、ガルド哀れ。
これも余談だが、ピアの方がガルドの10倍年上だったりする。
「さぁ、竜さんが出てきたら捕まえちゃうのっ!」
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最後まで読んで下さり、ありがとう御座いました!
また次の更新も宜しくお願い致しますm(_ _)m




