5-㉑ 兎と強欲の花
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
「前にも言ったが、変なものをすぐに作るなっ! 作ったら必ず言えっ!」
「変なものだなんて失礼なっ! ただの超凄い魔道具ですよっ!」
「余計に質が悪いわっ!」
現在、例の糸伝話の件で僕は説教を食らっている。
しかし今回は、というか今までもだが特に迷惑をかけているわけでは無いので、説教される謂れが無い。
だがアルバートさん的にはアウトらしい、解せぬ。
「お前の作るものは、何処でどんな影響を及ぼすか見当もつかない。だから使う前にっ、可能ならば作る前に報告しろっ! そうしなければ、庇ってやることも出来んだろうがっ!!」
「えー・・・そんな大事にはならないってぇ」
「さっきのそれは、真っ先に戦争に使われると思うが?」
「すみませんでしたっ!」
アルバートさんの言葉に、僕は即謝罪する。
この世界の人は、僕が思っているよりも戦が大好きらしい。
「とにかく、お前が攫われでもしたら大変だ。可能な限り、事前に教えてくれ」
「分かった」
心配してくれていることに代わりはないので、もう少し自重しようと思う。
ただ僕の辞書に『自重』という字があるかは、定かではないが。
「それで、二種類あるようだが形以外の違いはあるのか?」
「そもそも話せる距離が違いますね、『念話のミサンガ』の方は街の端から端までが限界でした。『ヤマビコ糸伝話』の方は、現在進行形で確認中ですね」
「とりあえず、ここからシルクマリアまでは届くわけか。かなりの距離だな、どうやって声が届いてるんだ?」
「たぶん空気の振動じゃないかと」
「振動? 揺れるという事か? 空気が揺れるとはどういう意味だ?」
「そこからか・・・」
この世界は魔法という概念があるせいか、科学はあまり進歩していないようだ。
一応このあと説明してみたのだが、ちゃんと理解して貰えたかは不明。
糸電話の方は兎も角として、実はミサンガの方はガルドさんやアルバートさん達に初めから配るつもりでいた。
というのも、王都についたら僕達は一度解散になるからだ。
今回の依頼では行き帰りの護衛だけ予約が入っていて、ガルドさん達には滞在期間中別の依頼を受ける許可が出ている。
完全別行動になるので、電話の無いこの世界では不在の人間に対して置手紙くらいしか連絡手段がない。ガルドさん達も一日で終わる仕事しか受けないだろうとは思うが、連絡の行き違いがあると何日も帰るのが遅くなるのだ。
「何があるか分からないでしょ? だから今回の依頼中だけでも渡しておこうかと思って! この見た目からじゃ魔道具だなんて思わないし、ガルドさん達なら信用できるし!」
「まぁ確かに、すぐに連絡がつくのはありがたいが・・・」
「物は試しで良いんじゃないかしらぁ、どのみち一つだけじゃ使えないんでしょう?」
「うん、対になってないと使えないよ」
話し合いの結果「他に人に使えないならば問題は起きないだろう」という事になり、ガルドさん達とアルバートさん達に一つづつ渡しておくことになった。
◇
翌日、またこれまで通り進んでいるとガルドさん達が馬車を止めた。
「あれ? ガルドさん、どうしたの?」
「あぁ、アレを見つけてな。焼き払う許可を領主様に貰おうと思ってな」
「アレ?」
ガルドさんが指さす先を見ると、そこにはラフレシアのような一メートルほどの花が咲いていた。
色はかなりヤバめだが、ラフレシアのような臭さは無い。まぁラフレシアを嗅いだこと無いけど。
「あれ何なの?」
「大きなお花がいっぱいなの!」
「ギアの花だな、あの辺にある植物全部そうだ」
「全部っ⁉」
僕の目の前には雑木林と呼んでいい程の木々が広がっている、あれ全てがギアと呼ばれる植物らしい。
だがどう見ても種類の違う植物もある。僕はそれ程植物に詳しいわけでは無いがクヌギや松の違い程度は分かる、だがそれら含めてギアらしい。
ガルドさんがアルバートさんを連れて戻ってきた、ギアを焼き払う間小休止にするらしい。
「ギアって何なの?」
「あぁ、ユウは知らないのか。ギアはな、別名『強欲の花』と呼ばれている植物だ。植物に寄生して、その一帯にある水や植物、土の栄養なんかを全て吸い尽くす植物でな、王国法で見つけ次第焼き払う事が義務付けられている」
「うへぇ、厄介そうだね」
寄生植物だから、違う見た目の物でもギアと呼ぶらしい。
「だいぶ育ってるように見えるんだけど、そんなに成長が早い植物なの?」
「いや、育つのは遅めの植物だ。それに寄生出来てもそのまま枯れることもある。たぶんだが此処を通った者が義務を怠ったのだろう」
燃やす手段を持っていないときもあるので、スルーする人も多いらしい。
燃やすまでの間、僕はギアの花を観察する。
見た目は本当にただの花、ただデカイ。紫色の花弁が珍しいといえば珍しいくらい。
花の根元が太いので、ナイフで切って採取してみた。特に樹液のようなものが出るでもなく簡単に採れた。
「糸にすると、面白いのが出来たりしないかな?」
「気になったら、何でも糸にしてみるの!」
ピアちゃんの勧めもあり、ギアの花を糸に変換。そこから魔道具にしてみた。
【強欲の編布】
ギアの花から作られた編み布。布表面にある物全てを吸い込む力がある。
ごみの処理にうってつけだね!
出来上がったのは二メートル四方の編み布。編布と書いて『あんぎん』と読むらしい、初めて知った。
敷く分にはただの編み布だけど、魔力を流すことで布の上に置いてある物を吸い込んでしまうらしい。ちなみに吸い込んだものがどこに行くかは分からず、吸い込むものは指定できるみたい。
「便利だけど、チートって言うほどの物じゃない・・・かな?」
「何でも吸い込むって十分すごいと思うの」
「・・・あっ、確かに! 何かいつも凄いのばっかり出来るから、感覚がバグってくるよね」
ミミちゃん、ヤドカリテント、糸伝話等々凄いのばっかり並んでるから、今更吸い込むくらい・・・って思うけど十分ぶっ壊れ性能だ。
でも説明欄にあるように、ごみ処理位にしか使えない気もする。まぁ追々使い道は思いつくだろう。
そうこうしているとガルドさん達の準備が終わった様で、ギアを燃やし始めた。
そこそこ大きな規模なので動物など居ないのか心配になったが、ガルドさん曰く動物達もギアに寄生される危険性が分かっているのか、ギアの広がった地帯には寄り付かないらしい。
「えっ、ギアって動物にも寄生するの⁉ 僕今、普通に触っちゃったんだけど⁉」
「するぞ、あぁだが滅多には育たないけどな。弱ってると食われちまうらしい」
「恐ろしい・・・」
「怖いの・・・」
異世界の植物コワイ。
◇
ギアを燃やして「はい終わりっ」というわけにもいかず、当然火が消えるまで見ておく必要があるらしい。
まぁ、後ろから来た人に山火事だと思われたら大変なので納得。ただ、そうなると手持無沙汰になる。
特にやることもないので、僕はアンサスの訓練風景を見ている事にした。
「善いか、魔法とは摩訶不思議な現象などでは御座らん。全ては世界の理に沿って発生する現象で御座る」
「はい、アトス先生」
「魔力は誰もが持ちうる力に御座る、ただ特性がある故まずは己のそれを理解するのが大切に御座る」
本日の訓練はアトスによる魔術訓練、彼は座学と実践を並行して進めるタイプらしい。
近くにアラミスも居たので、アンサスの状況について聞いてみる事にした。
「アラミス、訓練の状況はどお? 今日で一週間目くらいだよね、まぁそれくらいじゃ何も変わらないと思うけど」
「いえ、姫様。あの者、吾の想像以上に才に恵まれておるようです」
アラミスは悔しいような羨ましいような表情でアンサスを見ている。
実に表情豊かな鳥さんである。
「魔術、剣術共にこの一週間で基礎を終了しております。以前、アルバート殿から聞いた彼の祖父トラノオ殿は余程素晴らしい方だったのでしょう、あの者はその血をしっかりと継いでおります」
「マジかぁ、天才ってやつだな」
「アンサス君すごいの」
アラミスと話しながら向ける視線の先で、アンサスは難なく魔法を発動させていた。
その様子にアトスもびっくりしている、この分だとアンサスの望みを現実味をおびてくる。
「ただ、これは吾の気のせいやも知れませんが、あやつは何か焦っているようにも見えまする」
「焦ってる?」
「はい、以前あの者は姫様にお付きするべく強くなると言っておりましたが、どうもそれとは別の理由で急いておるように見受けられまする」
「そっかぁ、うーん・・・」
こういう話は繊細なものであることが多い、果たして僕がずけずけと聞いても良いものなのだろうか?
きっとそれはアンサスの根幹に当たるものなのだろう、また機を見て聞いてみようかと思う僕だった。
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最後まで読んで下さり、ありがとう御座いました!
また次の更新も宜しくお願い致しますm(_ _)m




