5-⑳ 兎は報連相をミスる
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
「ぐぅぐぅぐぅ・・・ぅう~~ん・・・重ぃ〜、くすぐったぃ〜、暑ぃ〜・・・」
もぅ何なんだ・・・気持ちよく寝てたのに邪魔しないで欲しい。
目をしょぼしょぼさせながら開いて、真っ先に視界に飛び込んできたのは「モフ毛」。
右を見たら「茶色のモフ毛」、左を見れば「キジトラのモフ毛」、上を見たら「ツンツンしたモフ毛」、イッツァ・モフワールド。
言わずもがな、毛皮達である・・・めっちゃ暑い。
次に下を見る、胸の上にバカでかい真っ白の毛玉が乗っている・・・重いんだけど、アラミス何キロあんの? よく飛べるね。
上体を起こしたらコロコロと転がっていった。
最後に、僕の眠りを妨げた原因が服の中に──ピアちゃんだ。
服の中で、僕の生乳に頬擦りしている。髪の毛がくすぐったい。
この子、じゃれつき具合が日に日にハードになるんだけど何で? その内取り返しのつかない事にならんだろうか?
(えっ、もしかして貞操の危機?)
一瞬、嫌な予感にぶるっと震えたが、ピアちゃんだし大丈夫だろうと考えるのを止めた。
枕より少し上を見れば、ミミちゃんとセレナがお行儀よく眠っている。
・・・いや、よく見るとセレナがミミちゃんに食べられそうになっている、たぶん寝ぼけているのだろう。夢の中でハンバーグでも食べてるのかもしれない。
すぐにヨダレだらけのセレナを救出し、ベットから降りて伸びをした。
「ぅわっ、めっちゃ汗かいてるっ!?」
寝巻きのワンピースが肌にピッタリ張り付いている。脱いでみたら、搾れそうなくらい汗でびっしょりだった。
アニマル’sも暑いが、ピアちゃんも体温が高いので抱き締めて寝ていると毎朝汗だくだ。
「汗掻くのはイヤなんだけど・・・みんな可愛いからなぁ。仕方ないなっ、うん!」
愛する家族の為ならば、多少の困りごとは許容するのが僕である。
柔軟を続けていると、首から肩にかけて凝りを感じた。
「う~~ん、胸が重い・・・また大きくなっちゃったかも。マジで邪魔なんだけどっ!」
男だったとき、胸には男の夢と希望とロマンが詰まっていると思っていたのだが、現実は脂肪と重力への反骨心が詰まっていることに気付いた。
まぁこれが欲しいと思う女性も居るみたいなので口には出さないでおこう。
余計な事を言うと、無駄な血と涙が流れそうだ。
──コンコン
「いっちにー、さんしっ」と体を解していると、ノックの音がして声が掛けられた。
「姉様、お目覚めでしょうか? ジークです」
「アンサスもおります」
「あぁ、二人か。おはよう、まだみんな寝てるけど、入っても良いよ」
「失礼します、朝早くから申し訳ありませんが父上が──っ⁉ すっ、すみませんでしたっ!! 後にしますっ!!」
ジークが慌てて何処かへ行ってしまった、何なんだろう?
「はて?」と首を傾げた時に気が付いた。
──そういえば僕、今パンイチだった。
「おはよう御座います、ユウお嬢様。少々刺激が強過ぎますので、こちらを羽織って頂けますか?」
困り顔でアンサスが僕に差し出したのは、先程まで彼が着ていた上着。
僕が羽織れば太腿まで丈がある、アンサス意外と体大きいね。
「おはよう、アンサス! ジークは慌ててたけどアンサスさんは平気なんだね?」
ジークと違いその場に残ったアンサスさん。
まぁ「驚けっ!」と言うわけじゃないけど、ジークとリアクションが違い過ぎて拍子抜けだなぁ。
「いえ、全然平気じゃないです。平気では御座いませんよ? ただ私が恥ずかしがると、お嬢様に恥をかかせてしまいますので・・・すごく我慢しています」
そう言いながら僕に着せた上着のボタンを留めていくアンサス。
よく見たら目線は逸らして、耳は真っ赤だった。
確かにちょっと恥ずかしくなってきた・・・。
「ご、ごめんね、アンサス・・・次から、もうちょっと気を付ける・・・気を付けます・・・」
「その様にして戴けると・・・その、助かります」
ヤバいっ、僕いま絶対顔真っ赤だっ!! 顔熱いっ!!
「それと、お坊ちゃまはまだお若いので・・・あまり誂わないで戴けると助かります」
そう言ってアンサスは眉を下げて、困ったように笑う。
アンサスも顔が真っ赤だった。
◇
朝食も終え、再びガタゴトと道を行く七日目。
不思議な事にカブトムシ以降ウルフ数体と会ったのみで、それ以外の変化はなかった。
もしかすると、この辺りの弱い魔物がカブトムシに追いやられたせいで、最初の頃会敵が多かったのかもしれない。
もしそうだとすると、きっと当分暇なんだろう。
編み物をしていられるならいざ知らず、ずっと音だけを聞いて馬車に揺られるのは辛い。
アルバートさんに聞いた話だと、王都までの道程は片道約二週間。ガルドさんはこの前、順調に進んでるって言ってたけど今どのくらい進んでるのかな? アルバートさんに聞いてみる事にした。
僕は屋根から貴族馬車に飛び移った。
「アルバートさん、今どのくらい進んでる感じですか?」
「ユウのお陰で順調だぞ。やはり事前に敵を察知できるのは大きいな、常に先手がうてるだけで戦い方が大きく変わるからな」
「本当にねぇ。勿論それだけじゃなくて、騎士やメイド達に疲労が殆ど無いし、馬だって常に元気。感謝してもし切れないわぁ」
「いえ、今回王都行くのは他人事じゃないですし、僕の事で誰かが苦労していると気になりますしね!」
「良い子ねぇ~」
マルセナさんによしよしと撫でられる、それだけで普段の旅がどれだけ大変なのかが伺える。
「あと、例のカブトムシのせいで、弱い魔物がシルクマリア側に追いやられたんじゃないかって思ってるんです」
「あぁ、その可能性は高いな。だが、シルクマリアの冒険者は他の街よりも強い。それにドラニクス殿やエリザベス様が居る、大丈夫だろう」
やはりカブトムシのせいだったらしい、守備は大丈夫だと思うけど街に被害が出ていないか気になるな。
「アルバートさん、ちょっと気になるんでエリザベスさんに様子を聞いてみますね!」
僕はミミちゃんに出して貰った杭──『ヤマビコ糸伝話』を・・・何か刺す物がないだろうか?
「アルバートさん、何か手頃なサイズの柔らかめな物ありませんか?」
「シナズミの実がバッグにあるが・・・ちょっと待て、お前は何をする気だ?」
「ありがとう、借りますね」
僕はアルバートさんの手にあるシナズミの実にヤマビコ糸伝話の先端を突き刺した。
──ブシュッ
「もしもし、エリザベスさーん! 聞こえますかー?」
「いやだから、何をするのか言ってくれ。というか食べ物で遊ぶんじゃない」
《あん? あぁ、ユウさね。聞こえてるよ、それより『もしもし』って何だい?》
「果物から声が聞こえるっっっっ!?!?!?」
「その声っ、エリザベス様ですかっっ⁉ えっ、どうしてぇ⁉」
ヤマビコ糸伝話に魔力を流すと、向こう側からエリザベスさんの声が聞こえた。
その落ち着いている様子から、特に問題は起こっていないだろうことが感じられる。
「出発してすぐ魔物が沢山出てきたから、シルクマリアは大丈夫かなって思って!」
《あぁ、特に問題ないさね。ドラ坊が少し忙しそうだったが、街中に変化は無さそうだよ》
「ありがとう。出来るだけ早く戻るから、それまでお願いしますね!」
《あぁ、任せときな。アンタも怪我せず帰ってくるんだよ》
魔力を切ると、エリザベスさんの声は聞こえなくなった。
予想通りシルクマリアに混乱は起こっていないようなので、このまま王都に向かっても大丈夫だろう。
そう思いシナズミの実から顔を上げると──アルバートさんとマルセナさんが、口を開けてこちらを見ていた。
「あれ? 二人共どうしたの?」
「ユ、ユウ・・・それは何だ?」
「な、何で、果物からエリザベス様の声がするのぉ?」
・・・あれ? 二人共これの事、知らなかったのだろうか?
言ったような気がするが・・・もしくは、子供達が言っているものだと思っていた。
「エリザベートかジークが話してると思ったんだけど・・・」
「流石に、勝手に話したりしませんの」
「僕も姉様が、御自分でお伝えになるものと思っていました」
伝えていませんでした、てへっ♪
アルバートさんに、めっちゃ怒られました。
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