5-⑬ 兎は従者を手に入れた
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
「さて、お仕置きも済んだし戻ろうか!」
空を見れば月の位置がまだ高い。少なくとも3時間くらいは寝れるだろうし、無理に起こしちゃったピアちゃんと肩にいるセレナがウトウトしている。
早くベットに連れて行ってあげないと。
「お姫様、術の効果が掛かっておらぬ者が居るようで御座る」
「あぁー、その人ね」
アトスの言葉に盗賊へ振り向けば、一人だけ、20歳くらいの青年が困惑顔のまま身動ぎしていた。
仲間の盗賊達の身に何が起こったのか分からず不安そうではあるが、特に苦しんでいる様子は無い。
「その人だけね、悪い糸が全く繋がってなかったんだよ。僕が今回対象にしたのは、裏で糸を引いている悪い人との繋がりだったから・・・たぶん新人さんか何かで、今回初参加だったんじゃない?」
僕はしゃがんで青年の顔を近くから観察する、その表情には険のようなものが見られなかった。
アメジストの様な紫色の瞳にも濁りがない、純粋な目をしている。
僕がずっと見つめていたからだろうか、彼は顔を赤くして背けた。
「おねーちゃん、近いのっ! 離れるのっ!」
「そうでありますっ! この者に姫様のご尊顔を拝する資格など無いのであります!」
「がうっ! がうっ!」
「僕の顔を見る資格って何っ⁉」
人の顔を危険物扱いしないでくれるかなっ!?
まぁ僕も男の顔をじっと見つめる趣味なんて無いから、言われなくても離れるよ。このままだと腐の華が咲いちゃうしね!
いや、僕は今とりあえず女の子なわけだし腐の華は咲かないのか? 男女なわけだし普通? でも僕、普通に女の子の方が好きだしな。でもそっちはそっちで百合の花が咲きそうだ。
・・・無駄な事考えるのは止そう。
益体も無い事を考えていると、その若い盗賊さんが話しかけてくる。
その口調は盗賊とは思えないほど丁寧で品があり、どこか教育を受けた跡を感じた。
「どうして私が盗賊になったばかりだとお分かりになられたのですか? お察しの通り、私は三日前に盗賊になり、今回が初仕事でした。・・・脅して盗るだけだと思っていたのです、お嬢様方を傷つける意図は無かったのです。申し訳御座いませんでした・・・」
「何だその闇バイトみたいな参加の仕方は・・・悪い糸がね貴方から殆ど見えなかった。在るには在ったんだけど、もの凄く細くて、糸の先が全部ここの盗賊さんだったからね。すぐに分かったよ」
ここの盗賊さん達以外と繋がりが無いってことは、取引現場とかに行ったことが無いって事。
糸が細いってことは繋がりが殆ど無いって事、たぶん殆ど会話したことも無いんだろうなって思った。
「糸? よく分りませんが・・・良かった。私は──誰も傷付けずに済んだのですね」
「・・・う~~ん」
「おねーちゃん、どうしたの?」
この人、このまま盗賊として引き渡しちゃっても良いのかな?
この・・・ザッコス盗賊団(?)は高額懸賞金もかかっている盗賊団らしくて、引き渡せば間違いなく縛り首だ。余程の理由でもない限り、鉱山奴隷にすらならないだろう。
だけどそれはザッコス盗賊団だからだ。団員だからという理由でこの盗賊さんにも同じ刑が処される、それは正しいのだろうか?
「僕は貴方を他の盗賊と同じ罪にするのは違う気がする。だから明日、貴方についてアルバートさんに相談しようと思う。とりあえず今晩は盗賊団に参加した罪として縛られておくこと! 分かった? 大人しくしておくんだよ?」
僕は彼の鼻先をちょんと突いて釘を刺した。
「は・・・はぃ、分かりました・・・」
「よろしい! 騎士さん、申し訳ないんですけど彼だけは乱暴に扱わないで貰えると嬉しいです」
「畏まりました、姫様のお望みのままに」
やることを済ませた僕達は、後の事を騎士さんに任せてベッドへ戻った。
先程の盗賊さんについては、どうなるか分からないが良い子なら伯爵邸の小間使いとかにして貰えないか相談してみようと思う。
悪い事をしていないのなら、せめて救いはあるべきだと思いながら僕は眠りに落ちていった。
◇
「・・・お前、良かったな。姫様に命を救われたぞ?」
「・・・はいっ、はいっ! ありがとう御座います・・・」
未遂に終わったとはいえ、盗賊家業に手を染めてしまったのは間違いない。
せめて犯罪に染まらず死ぬことが出来ることを幸運に思いながら、審判を待つ私の元に降り立ったのは──白銀の天使でした。
実際は白銀の髪をした兎人族だったのですが、天使と見紛う程の美しさです。
「彼女は何者なのですか? 皆様は先程から姫様と呼んでおられますが、どこかの王侯貴族様なのですか?」
彼女は何者なのだろう、王族だと言われても疑わない。そう思わせるだけの、尋常ならざる雰囲気を感じた。
彼女だけではない、連れていた──恐らく妹だろう──幼女もとても普通の貴族とは思えない。
側に控えている騎士と思わしき小柄の獣人達からも、圧倒的強者の雰囲気を感じた。
そう、とても普通の貴族とは・・・王族とも思えない。寧ろ、それ以上の──。
「あの方は、嘘偽りも無い本物の女神様だ。そして我らが住むシルクマリアを救ってくださった戦乙女でもあらせられる。シルクマリアの住民が愛してやまない幸運の兎さ!」
「女神様・・・」
私は、気付けば両手を胸の前で組み、祈りを捧げていました。
明日、私にどのような処罰が下されるか分かりません。ですが、どのような結果でも姿勢を正し受け入れようと思います。
でももし償う機会を頂けるのでしたら、命を賭してあの方にお仕えしよう。そう心に誓いました。
◇
翌朝、僕は朝食後に件の盗賊さんについてアルバートさんに相談した。
「紹介したい人がいる」と伝えたら「ほぉぉ〜〜う、是非会ってやろうじゃないかぁっ!」と言って対面の機会を設けてくれた、面倒をかけて申し訳ないと思う。
でもなんか、やたらキレかけてたけど何故だ?
というわけで、ミミちゃんに組み上がり済みのテント(テーブル&椅子セット済み)を出して貰い、話し合いの準備を行った。
ミミちゃんは物を丸呑みできるのでこういった裏技も出来るが、準備中アルバートさんが白目を剥いていた。
いい加減慣れても良いんじゃない? ほら、マルセナさんは気にせずお茶してるよ?
そんなこんなしていると盗賊さんが騎士さんに連れて来られた、一応まだ盗賊扱いなのでロープで縛られたままだ。
「お前がユウの言っていた奴か・・・まずは名前を聞こう」
「はい、アンサス・ヘリオトロープと言います。御目通りの機会を頂き、有難うございます」
アルバートさんは盗賊さんの顔を見るなり「あ゙ぁん!?」とメンチを切っていた、だから何でそんなに喧嘩腰なんだこの人?
盗賊さん改めアンサスさんは片膝をつき、胸に手を当てて恭しくアルバートさんに挨拶をした。
やっぱりこの人、元々良いとこの出じゃないかなと思う。
・・・って、あれ? 家名がある!
「・・・ヘリオトロープ? 貴殿、騎士トラノオ・ヘリオトロープ殿の縁の者か?」
「はい、トラノオは私の祖父になります」
その言葉を聞いたアルバートさんは沈痛な面持ちになる。
何かあるんだろうか?
「トラノオさんって誰? アルバートさんの知り合い?」
「あぁ、王国ではそれなりに名の通った騎士だ。かなりの実力者でな、当時の王宮騎士団長すら認める腕前だったそうだ。戦場での腕前が認められて、ヘリオトロープの名と北方の村を領地に与えられたのだが・・・魔獣災害でな、戦死なされたと聞いている」
「はい。祖父は一人でも多くの村人を逃がす為に、病魔に蝕まれた体で戦い抜きました。最後まで見届ける事は出来ませんでしたが、騎士道を貫き通した強い背中はこの目に焼き付いております」
余程、立派な人だったんだろう。アルバートさんがこんな表情するのを初めて見た。
「惜しい人を亡くされたな、トラノオ殿の武勇は俺も聞いている。幼心に憧れたものだ」
「かのスピンドル伯爵様にその様に言って戴けて、祖父も誇らしいでしょう」
立派な祖父か・・・僕はそういった場面に遭遇したことがないから「家族が災害に遭って悲しい」以上の思いが想像できないけど、実際体験するとどんな気持ちになるんだろう?
亡くなって悲しい? 志を突き通せて誇らしい? いや、一緒に戦えなかった事が悔しいと思うかも知れない。
その時どんな思いが過ったのか、それはアンサスさんにしか分からないだろう。きっと僕が想像するような単純さではない筈だ。
アニマル’s達は騎士として気持ちが分かるのか、アルバートさんと同じ表情をしていた。
「貴殿の身の上は分かった。トラノオ殿は立派な方であった・・・だが貴殿は貴殿だ。公正な処罰を下す」
「はい、覚悟は出来ております。今はただ、犯罪に手を染めず刑に服せる事を幸運に思い、女神様に感謝しております」
そう言って、アンサスさんは俯き首を差し出した。
「良い覚悟だ、ならば伏して受け入れよ」
「ちょっ、アルバートさんっ!?」
剣を抜くアルバートさん。
えっ、切っちゃうの!? 切っちゃうのっ!?
待って欲しい、アンサスさんは確かに盗賊になったけどまだ悪いことはしてないし、良心の呵責も持っていたんだよ!? だからもうちょっと考えてよっ!!
しかし僕がアルバートさんに言葉をかけるより早く、彼の剣がアンサスさんに振り下ろされた。
「──っ!! ・・・ぇっ?」
それは誰の声だったか、振り下ろされたアルバートさんの剣は、伏せたアンサスさんの手の縄を切っていた。
「俺は貴殿の事はよく知らん。だがトラノオ殿を語る時の目と、ユウの言葉を信じる。まずは見習いとして一行に加われ。色々と、本当に色々とこの旅は常識外だから覚悟しておけよ」
そう言ってアルバートさんは剣を収めた。
「良かったぁぁ! ありがとう、アルバートさん。僕のお願いを聞いてくれて!」
抱きついてお礼を言う僕の頭を、アルバートさんは何も言わず優しく撫でてくれるのだった。
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