5-⑪ 兎の居ぬ間の緊急会議
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
アルバートさんから貴族のドロドロしたお話を拝聴し終えた所で、僕達は野営の準備をすることにした。
時間的には17時頃。季節的に夏の終わり辺りのようで、まだ空は明るい。だがすぐに暗くなってしまうので、野営の準備は明るいうちから始めるものらしい。
晩ご飯はCランチ、お腹に優しいシチューをメインとしたグラタンやシーザーサラダ等のミルク&ベジタブル。
そしてこんなものも持ってきました!
「こっちはお好みでどうぞっ!」
──ドンッ!
僕はワインセラーを取り出した。
「うぉおおおおおおっ!!」
「お前は・・・本当に、まったく・・・・・・」
呆れ顔のアルバートさんと騎士たちの歓喜の声、僕は目論見通りのリアクションを得られて大満足!
「ユウ・・・」
「何ですか、アルバートさん?」
「説教だ」
「なんでぇっ!?」
それから、事前に言えとか、次の事も考えろとか、ネチネチと怒られた。
だけど僕は見ていた、ワインを出した瞬間アルバートさんの口元が緩んだ事を!
「素直になれば良いのに・・・」
そう言ったら更に怒られた。口は災いのもと。
◇
食事を終えた僕は、後片付けをメイドさん達にお願いしてテント設営にやってきた。
テントとはあのテントである。
護衛の関係上、騎士とガルドさん達はヤドカリテントで休む事が出来ないので、外で普通のテントを張っている。
皆ヤドカリテントの性能を知っているだけに、何か申し訳ない気持ちになったが「気にしないで欲しい」と言ってくれた・・・クレアさん以外は。
「ユ、ユウぢゃー―んっ!! お姉さん、一人で寝たくないよぉおおっ!!」
「ガルドさんとマルクスさんが居るじゃないですか」
「いやーーっ!! あんなおっさんより、ちっちゃくて可愛くて柔らかくていい匂いがして柔らかくていい匂いがする女の子が良いよぉおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
この人言いたい放題だな、どんだけ必死なんだよ。
僕が若干呆れていると、クレアさんの背後に熊のような人影が・・・。
──ガシッ!
「ユウぢゃー・・・えっ?」
「お前・・・好き放題言いやがって・・・」
──ギリギリ
「ぎゃーー、頭が割れるぅ!?」
「じゃあな、嬢ちゃん。コイツは持って帰るから安心してくれ」
「う、うん。おやすみぃー・・・」
クレアさんは頭を鷲掴みにされて、連行されて行った。惜しい人を亡くしたな・・・(死んでない)。
それにしても、このテントは本当にすごい。
同じ現代日本の同じ部屋でも、ここまでリラックス出来るものだろうか? そう思うほど、このテントにいるだけで体が休まるのだ。
「リラックスとかデトックスの効果があるんだろうか?」
空気がキレイだし、室温も一定。騒音は勿論無いし、かと言って寂しさは微塵も感じない。
付属の家具は全て日本仕様のものだし、エネルギー切れはない。布団だって、干してないのに常にフッカフカの羽毛布団だ。
「もしかしたら、紡ちゃんはこっちに来て、このテントで過ごしたほうが体にいいのでは? 少なくともあの親の近くに居るより良いはず・・・」
我が最愛のもう一人の妹、紡ちゃん。
あの子は体が弱いので、僕のように異世界に飛ばされたらどうしようかと心配していたが、僕と一緒ならやっていけそうだ。
少なくとも、紡ちゃん一人きりにしないで済む。
「まぁそもそも兄妹揃って異世界転移なんて、どんな確率だよって話だな」
宝くじ一等の方が、まだ当たるだろう。
「紡ちゃん、こっちに来るの? ピアも会ってみたいの!」
「うーん、流石にないと思うけどね。もし来たら、ピアちゃんも仲良くしてくれると嬉しいな!」
「任せるのっ! ピアの方がお姉ちゃんなの? それとも妹?」
ピアちゃんが「んー?」と首を傾げる。
確かにどっちだろうか? 年齢的にはピアちゃんの方がお姉さんだろう、というかおばあちゃん? いや止めよう、争いが起きそうだ。
アルテミスさん曰く、地球では5年程経っているらしいから、紡ちゃんも背が伸びているはずだ。
となると・・・えっ、どっちだ?
「まぁ会ったときに決めたら良いんじゃないかな?」
「そうするのっ!」
それからピアちゃんは僕のお腹に顔を埋めて「えへへっ」と無邪気に笑った。
うん、可愛い。お姉ちゃんは満足です!
◇
場面は変わって、ヤドカリテントのスピンドル夫妻に割り当てられた部屋。
現在その部屋にてスピンドル家緊急会議が行われていた。
ちなみに、何故「家族会議」ではなく「スピンドル家会議」なのかというと、「家族会議(ユウ達含む)」「スピンドル家会議(ユウ達除く)」だからである。
だんだん外堀を埋められていくユウちゃんの未来や如何に!
さて冗談はさておき、その会議において何が話し合われていたかというと、言わずもがなユウ達の事である。
ユウ自身の事もそうだが、特出すべきはこのテントを含むアイテムの数々である。
大きさ・量を無制限に収納できる時間停止機能付きのアイテム袋(生物)、神界の住居とこの世を繋げるテント、触れているだけで体を癒すクッション。
たった半日、出発してからたったの半日でこれである。
勿論、不満などある筈が無い。
長距離移動をするうえで挙げられる様々な問題点をたった一人で解決し、更に質をワンランク引き上げる。
出される食べ物は短時間で準備され、温かく、また料理そのものも信じられない程に美味い。しかもそれを全員が満足いくまで食べられる。
移動中、体の汚れなど気にしていられない。
だからこそ途中の村などに寄るのだが、このテントには風呂が準備されている、しかも浴槽いっぱいの湯である。
水は潤沢で飲水どころか身を清めるのだって全くも問題ない、花の香りがする石鹸も付いている。
癒やしのクッションと、テントとは別に出された暖かな寝具のお陰で、護衛の状態は常に万全でやる気に満ちている。
士気を上げるための酒も、あろう事かワインセラーごと持ってきている。
更に移動中、あの可愛らしい耳で全方数百メートルに渡って監視を行い、奇襲を阻止するどころか事前に潰す。
そのお陰で馬車は一度たりとも止まったことがない。
他にも話をすれば枚挙に暇がない、どこから指摘していけば良いのか分からなくなってきたアルバートは、眉間にシワを寄せて手で顔を覆うのだった。
「・・・俺は説教するのが疲れてきた」
「悪気が無いのは分かってるんだけれどねぇ、やり過ぎちゃうのよね。ほら、あの子お調子者だし!」
「しかも特に問題がありませんので、注意のしようがないですね」
「困るのは今ではなく今後ですものね、お兄様!」
そう彼等がユウを注意するのは、彼女が自分達の知らぬ所でやらかしてしまいそうだからである。
最悪、助けられないことだってある。それだけは阻止せねばならないのだ。
「う〜〜ん、何とかジークと結婚してくれないかしら?」
「・・・それは難しいです。姉様は僕の事を、お、弟か・・・子供としか・・・見て下さいません・・・うぅ」
「お兄様、気を落とさないで下さいましっ。少なくとも、誰よりもお兄様がリードしている筈ですのっ!」
エリザベートはそう兄を励ますが、そもそもユウと親しい独身男性はガルド、マルクス、ドラニクス、ジークの四人しか居ないうえに、その中で唯一年若いジークに興味が沸かないということは、ユウは枯れ専に近い年上趣味の可能性が考えられた。
まぁ元男のユウに男に興味を持てというのも無理な話なのだが、それを知らないジークは励ましの言葉に更に落ち込むもであった。
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最後まで読んで下さり、ありがとう御座いました!
また次の更新も宜しくお願い致しますm(_ _)m




