4‐⑪ 猫と偽神と捕らわれの少女
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
スクナがこちらを見ている。
だが、特に何かをするでもなく、ただこちらに顔を向けるだけであった。
僕もスクナを見る、そして目が合った。
スクナの表情は怒っているようにも、何かを耐えているようにも、ただ無表情なようにも見える。
だが、その瞳が気になった。
(・・・泣いてる?)
涙が流れているわけでは無い。
眉や目が悲しみを表しているわけでも無い。
ただ、その瞳が──助けを求めている気がした。
そう感じるだけなのか、それとも僕に何かを言っているのか。
そう思った瞬間、視界が暗転し──僕は先程までとは違う場所に立っていた。
ネバネバした糸のようなものが四方八方に伸びた、生き物の体内を思わせる洞窟。
肉壁には血管が走り、どくんどくんと脈を打っている。
あちらこちらにはお札のようなものが貼られ、肉壁には何やら魔法文字のようなものが書かれ蛍光を放っていた。
(何だここ? 気持ち悪いし、息苦しい・・・)
これは触れちゃいけない物、何となくそう感じた。
洞窟内には瘴気のような悪臭が漂っていた。
一本道。続く道の先は暗く、見通すことは出来ない。だが。
(奥に、誰かが居る気がする・・・)
誰かに呼ばれている、僕は導かれるように奥へと歩みを進めた。
辿り着いた場所はこれまでよりも少し球状に広くなった場所、まるで祠の様だった。
ここには今まで以上に粘糸やお札や文字が張り巡らされていて、奥には幼い女の子が絡め捕られていた。
(女の子っ⁉ 何でこんな所にっ、とにかく出してあげないとっ!!)
女の子は5歳前後だろうか、とても幼い容姿をしていて瞳に力はない。
そして僕に気付いていないのか反応はなく、ただ何もない天井を見上げていた
女の子は歌っていた。
──粘糸に首を絞められながら。
女の子は泣いていた。
──涙を携えて悲しそうに。
女の子は耐えていた。
──痛みを、苦しみを顔に浮かべながら。
彼女は不意にこちらに顔を向ける。
そして血の混じった声で訴えていた。
『────、────・・・・・・』
(何っ⁉ 何て言ってるのっ⁉)
僕は彼女に手を伸ばすも届かず、再び視界が暗転する──気が付いたら僕は元の場所に立っていた。
「幻覚? いやでも確かに何かを訴えられた気がする」
何が起こったのか分からないし、よく覚えていない。スクナもこちらを見ていない。
でも、何故かスクナの神気からは声が聞こえる。
悲しい、苦しい、痛い──あの子がそう言っている。
殺して欲しいと泣いている。
──僕はいつの間にか涙を流していた。
小さな女の子が泣いている、それが堪らなく悲しかった。
僕だって助けてあげたい、代わってあげたい。
そんな場所から出してあげたい、よく頑張ったねって撫でてあげたい。
もう大丈夫だよって抱き締めてあげたい、偉かったねって誉めてあげたい。
助ける方法があるなら何だってやってみせる、僕で払えるものなら何だって払う。
──でも何も思い付かない。
僕は役立たずだ。
悲しくて、悔しくて、涙が溢れる。
そんな僕の耳に、愛しい妹達の声が聞こえた。
「おねーちゃんっ、呑まれちゃダメなのっ!」
「がぅ!」
気が付いたら、ピアちゃんが僕の両頬を手で掴んで僕の瞳を覗き込んでいた。
「おねーちゃん、ピア達は弱いの。弱い神様なの。だから心を覗かれると呑まれてしまうの」
ピアちゃんに指摘されてハッとした、どうやらあの子の感情に意識が持っていかれかけていたらしい。
でも未だ悲しみで涙が出てくる。
「おねーちゃん、どうして動かないの? おねーちゃんらしくないの」
そう言われて、僕は二人を抱き締めた。
僕だって動きたい、いつもみたいに気持ちの赴くままに行動したい。
でも思い付かない、思い付かないんだ、あの子を助ける方法が思い付かないっ。
僕は情けない姿を見せたくなくて、抱き締めることで叫びたい気持ちをぐっと堪えた。
だがそれでも彼女達には伝わってしまったのか、僕の頭や背を優しく撫でてくれる。
そしてゆっくりと語りかけてきた。
「落ち着いて考えるの、きっとあるはずなの。大丈夫、出来るの。だっておねーちゃんは、凄いから」
「僕は凄くなんてない、今だってどうしたらあの子を助けられるのか分からなくて蹲ってる。ピアちゃん達が居なきゃ泣いてるかもしれない」
僕は無能だ、地球に居た頃から本当に大切な事に手が届かない。
「ピアはそんな風に思わないの、やっぱりおねーちゃんは凄いの」
そんなこと無い、僕は何も出来なくて蹲っているだけ。
僕は君に尊敬してもらえるような姉じゃない──凄いって言って貰う資格はない。
「あんなに大きいのと戦わなくちゃいけないのに、あんなに強いのと戦わなくちゃいけないのに、おねーちゃんは倒さないで助ける方法を考えてるの」
倒すなんて出来るわけがない、あの子は何も悪い事なんてしてない。
ずっと痛い、苦しいって叫んでいる、殺して欲しいって、あの子は泣いている。
なのに倒すなんて、そんなひどい事──僕には出来ない。
「それに”助ける方法が分からない”って泣いてるけど、”助ける方法がない”って絶対に言わないの」
諦めるなんて出来るわけがない。
だってあの子は──僕に「お願い、助けて」って言ったからっ!
「でも僕は酷い奴だ、今だってエリザベスさんやギルマスさんが命懸けで足止めしてくれているのに、出来るかも分からないものを探し続けている」
「大丈夫、おねーちゃんなら大丈夫なの。おねーちゃんは凄いの。おねーちゃんなら出来るの」
僕を見詰めるピアちゃんの瞳に疑いの影は一切なく、ただキラキラと輝いていた。
「だっておねーちゃんは、ピア達の大好きで自慢のおねーちゃんだからっ!」
「がうっ♪」
二人は僕には出来ると、そう信じてくれている。
僕だってその信頼に応えたい。でもまだ、方法が見つからない。
魂を救い上げる糸なんて想像もつかない。
僕には糸を作って編む力しか無い、その糸すら無いなら僕に何ができる・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・?
指先に微かな何かの感触があり顔を上げる。
目を凝らすと、僕の猫の手の先には小さな小さな『蜘蛛』がいた。
よくこの戦場で生きていたなと思う、虫に神気は影響しないのだろうか?
指先から、つぅーーと細く輝く糸を伸ばし、ゆっくりと降りていく子蜘蛛。
その様子を見ていた時──何かが記憶を掠めた。
──あった。
ある。一つだけ、方法があったっ!!
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