4-⑩ 猫と助っ人と希望の光
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
ごめんなさい、もの凄く長いです
『両面宿儺』それは日本書紀に登場する神。
二面四腕を持つ鬼神で、身の丈は六メートルとも六十メートルとも言われている。
正直六と六十は全く違うのでどっちだよと言いたいところだが、とりあえず目の前の神は十メートル以上ある。
邪教の男はこの神を『偽神』と呼んでいた、そして微妙に『リョウメンスクナ』のイントネーションが違う。だから僕が知っているものとは違うのかも知れない。
・・・まぁ僕も名前しか知らんのだが。
これが本物か偽物か、それはこの際どっちでも良い。問題なのはこれが神気を帯びた神であること。
それもかなり禍々しい神気だ。
「うぅ、凄い神気だ。まるで泥の中に居るみたい・・・」
「食われたのは神か、精霊か。凄く苦しんでいるね・・・可哀想にっ」
エリザベスさんが唇を噛む。
スライムに食われるほど弱っているなんて、一体何をされたのか。
目の前の神からは、吐き気を催す程の恨みと悲しみが伝わってくる。
僕達が神の対処方法を話し合っていると、背後が騒がしくなってきた。どうやらアルバートさん達が戻ってきたらしい。
「ユウッ、そのデカいオーガは何だっ!?」
「うぉっ、何だありゃっ!? ユウッ、大丈夫かっ!!」
「くっ、何と禍々しい・・・近付けません・・・」
「ユウちゃんっ、早くお姉さんの所まで来てっ!! 危ないわよっ!!」
ガルドさん達も居る、だが神気に当てられて今いる位置以上には近付けないらしい。
神気に慣れているマルクスさんですらあの状態、皆きっと立っているのも辛いはずだ。
リョウメンスクナ──スクナからはかなり強い神気が放たれている、こんなにも濃い神気を浴びたら人によっては体調不良どころか命に関わるかもしれない。
「皆っ、街やスラムの人達が神気に当てられて体調を崩すかも知れないっ。近付けない人は住民の避難をお願いっ!!」
「お前もガルド達と避難しろっ、ここは俺達で何とかするっ!!」
「近付けないと対処も出来ないでしょっ! エリザベスさんも居るから大丈夫っ。行って、お願い!」
アルバートさんはあくまで誰かを守る姿勢を崩さない、だが今回は相手が悪すぎる。
神気に当てられても動ける人間は限られるし、あんなにデカい相手だとビンタでも食らっただけでも死んでしまう。
「・・・分かった、住民を避難させたら戻って来る。絶対に無理するなよっ!」
「前向きに検討しますっ!」
「何だその返事はっ!?」
アルバートさんは皆を連れて避難誘導に向かった為、此処に居るのは僕とエリザベスさんとスクナ、そして邪教の男だ。
スクナを見る、五階建てのビルを見上げている気分だ。倒すのは勿論、足止めすら出来るか・・・。
「相談は終わりましたかっ!! さぁ蹂躙の始まりですよぉぉぉ!!!!!! やりなさいっ、リョウメンスクナッ!!」
『オオォォオォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!』
スクナが足を持ち上げる。
恐らくこの神にとって何気ない小さな一歩だったのだろう、ただそれだけの事が僕達にとって災害に等しい光景だった。
「あの足のサイズだけで、エリザベスさんの身長くらいあるんじゃないっ!?」
「ネズミがっ、ベヒモスに楯突くようなもんだね──っ!! 落ちてくるよっ!!」
足を下ろす、ただそれだけの事が隕石の衝突を思わせる。
大地が軋み、空気から悲鳴が上がる、そして・・・。
──ゴゴゴゴゴ・・・ドオォォォンッ!!
落下と共に起きる地震と暴風。吹き荒れる風に僕達は数メートル後方へ飛ばされた。
一方、足元に居た男はというと。
「ははっははははっ、素晴らしいっ!! 素晴らしいでsグベッ!?!?」
「えっ、アイツ踏み潰されたんだけどっ!?」
「全然制御出来てやし無いじゃないかっ」
何事も無かったかのように踏み潰された男、本当に何だったのか。ただの馬鹿だったとしか思えない。
あんまり見たくないが、ぱっと見た感じ生きているとは思えない。というか生きていたら人間じゃない。
(スライム好きみたいだし、ワンチャン生きてたりして・・・)
それはそれで何か嫌なので、僕は男から視線を外した。
「どうせ死ぬなら、持って帰って欲しかったなぁ」
「アタシ等でどうにかするしか無いね」
この神はまだ一歩歩いただけなのだ、なのにこの状況。
僕のイメージする神はピアちゃんやテラ様だったので、こんなにも理不尽な強さを持っている奴が居るなんて思いもしなかった。
アルテミス様? あれはマルセナ枠でしょ?
「役割分担だっ! ユウ、アタシが気を引くから何か手段を考えなっ!!」
「何かって、何っ!?」
ここにも理不尽の権化が居た。
(何かって何を考えりゃいいのさっ、しかもおとりが彼女一人じゃ危険過ぎる・・・誰かもう一人カバー出来る人が居ればっ。でも神気の中を動ける人なんて・・・)
無い希望を探す僕。その願いが届いたのか僕の後方から一人、誰かがスクナに向かって駆けていった。
「『龍皇拳』!!」
「ギルマスさんっ!?」
膝を殴られたスクナは半歩下がった、しかし特に痛がっている様子はない。
「むっ、足を消し飛ばすつもりで殴ったのだが、あの程度とは・・・やはり鈍っているな」
「ギルマスさんっ、ここに居ても大丈夫っ!? 気分悪くない!?」
ギルマスさんはこの空間が平気なのだろうか? 僕の問いに彼は肩を回しながら何ともない様に答える。
「龍人族はこの領域を目指し修練を積む一族だ、問題ない。それよりユウ、面白い見た目になっているな。君はそちらの方が似合うぞ」
「ありがとうっ、でもそれ今どうでも良くないっ⁉」
軽口を叩いているが、よく見るとギルマスさんはボロボロだった。あちら側にも何か強敵が居たのだろう。
「途中までゴンズも居たのだが、この氣に耐えられそうになかったのでアルバート殿の方へ向かわせた。ユウ、俺は何をしたら良い?」
「何でか知らないけど僕が対策を考えることになった! エリザベスさんが時間稼ぎをしてくれているから、どっちか手伝って欲しいっ!」
「承知した、俺も何も思いつかんので任せたぞっ!」
お前もかっ! 何故僕に何か出来ると思うのか、800字詰めの原稿用紙で出してこいっ!!
これで一人で考えることになってしまった。
とりあえず僕は今ある情報を整理する事にした。
相手は神、偽物の神。
エリザベスさんも言っていたが、亜神化したスライム。神を食べたスライム・・・ん?
神を食べて亜神化したスライム? なのにスクナの様子と神気から伝わってくるイメージが合致しない。神自身がこんな苦しそうな神気を放っているなら、もっと暴れていなきゃ可怪しい。
でもスクナは相変わらず少し歩いてはボーっとし、時折エリザベスさん達を払うように手を動かすだけだ。その動きは緩慢で何かを考えているようには見えない。
そもそも亜神とは何だ? 『亜人』は人間と似た人間と非なるものを指す言葉、なら『亜神』は神とは非なるものを指す言葉の筈だ。
神ではないのに神気を帯びているという事は──神は別に居る?
そこまで考えが至った時、僕のすぐ近くの瓦礫に何かが飛んできて突っ込んだ。
崩れた建築材の中に緑色の尻尾が見える──ギルマスさんだった。
「ギルマスさんっ、大丈夫っ!? 死んじゃダメだよっ!?」
「──ぶはっ! いやはや、死ぬかと思ったぞ。ただ払われただけにも関わらずこの威力、人族だと死んでいるかもしれんな」
「・・・・・・無事そうで良かったよっ、もうっ!!」
「痛いっ、何故蹴る!」
心配して損したっ!!
でも折角飛んできてくれたので、先程の考察について意見を求める事にした。
「うむ、その考えは的を得ていると思うぞ。更に言うならば、神の力を得る為に神本体はあのデカブツの中に居ると考えた方が良い」
「あの中・・・もし引っ張り出したら、どうなります?」
「その神自身がどうなるかは予想がつかない、だがあのデカブツは弱体化するだろう。あの体は魔力だけでは支えられん、必ず神力を使っている筈だ」
『ドラ坊っ、早く帰ってきなっ!!』
スクナがエリザベスさんを払い除けようと本格的に動き始めたようだ、流石の彼女でも相手は厳しいのだろう。
「ギルマスさん、リョウメンスクナが暴れ出したら三人で止められますか?」
「絶対に無理だな、神本体を引っ張り出すにしても動きを止めなければならない。回避では動きを止められない、あやつを引き付け且攻撃を受け止められる者が要る」
それだけを言ってギルマスさんはエリザベスさんの元へ戻った。
だがこれで分かった、スクナの中にはあれとは別に神が居る。
その神を分離させれれば奴を倒すことが出来る。
何処に隠されているか分からない神、それを見つけるのはピアちゃんが居れば出来るだろう。
あれの動きを受け止める方法にも当てがある。
ただ──引っ張り出す方法が無い、そもそも引っ張り出せるのかも怪しい。
天の岩戸じゃあるまいし、中にいる神様だけを引っ張り出すなんて都合の良い糸、僕は持ってない。そんな材料も無い。
僕は視線をスクナに向けた。
あれからは相変わらず心が締め付けられるような神気が放たれている。
(一か八か『爪研ぎ』で居そうな所を削り取ってみるか?)
爪研ぎなら肉を削ることが出来る、手段としては有りかも知れない。
そう思い爪に力を込め、前に視線を感じ目を向けると──スクナがこちらを見ていた。
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