6-④ 兎とみんなの推しの子
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
服屋から無事生還を果たした僕は、アルバートさん達の休む屋敷へ移動した。
貴族の常識はよく知らないが、子爵以上の貴族は王都に屋敷を持っているのが普通らしい。その為、辺境伯(伯爵)であるアルバートさんも王都に屋敷を持っているはずなのだが、伯爵にしては珍しく王都へ来る機会が少ないことと、アルバートさんが無駄なお金を使いたくないと言った理由からスピンドル家は王都に屋敷を持っていない。
貴族が王都に屋敷を持つのは半分見栄らしく、また維持するのに30人前後の使用人の雇用や維持費も掛かるので、結構ヤバめなマネーが飛ぶらしい。
本当に無駄な金である。まぁ新たな雇用を生むという側面もあるが、無駄は無駄だ。
ちなみにもう半分は、借りを作らない為である。
屋敷が無い場合、貴族宿と呼ばれる高級宿に泊まることになるが・・・まぁ誰かが居た部屋というのは落ち着かないのだろう、あまり使いたくないらしい。
そうなると他貴族の屋敷を借りる事になるのだが、それはその貴族に借りを作る事になるのである。
貴族の借りというのは恐ろしいものらしく、場合によっては無理やり結婚させられたり、没落に繋がることも・・・貴族って恐ろしいね。
さて、そのような話がある前提で王都に屋敷の無いスピンドル家は何処に泊まっているのか、それは『他貴族の屋敷』である。
当然屋敷を持っていると思っていた僕は、それを聞いてビックリ。だって、僕も王都滞在期間中そこに泊まるんだから。
「あれ、ここ? アンサス、ここで合ってるのかな?」
「はい、合っております。こちらはゲイル・シーチング伯爵様の御屋敷で御座います」
僕が貴族街にチェックを受けて入り、指定された住所に着いたとき場所を間違えたと思った。だって、スピンドル家のじゃない家紋が掛かってるんだもん。
「もしかして売られた?」
「それは無いでしょう。アルバート様でしたら、お嬢様を売るくらいなら没落を選択されるかと思われます」
「いや、それは無いでしょう。それに冗談だからね」
じゃあ何でこの屋敷なんだ? っていうか、ゲイル・シーチング伯爵って誰だよ。
「こんな事なら、僕達もガルドさん達と同じ宿が良かったなぁ」
「許して戴けませんでしたからね」
「ジーくんのパパは、おねーちゃんが心配なの」
「アルバート殿も居るのであります、変な事にはならないと吾輩は思うであります!」
「皆がそう言うなら、諦めるかぁ」
人間諦めが肝心なのだろう。
僕達がもんの前でわちゃわちゃしていたのを不審に思われたのか、二人居る門兵さんが僕達に近付いてきた。
「失礼。その御姿、兎人族のユウ様、ピリアリート様とその御一行でお間違い御座いませんか?」
「あ、はい! うるさくしてごめんなさい」
「いえ、お話はゲイル様とアルバート辺境様より伺っております。中へどうぞ」
そうして門番さんに屋敷の入り口まで連れられ、到着すると次は執事さんが何処かへ案内してくれる。
ゲイル・シーチング伯爵の屋敷は、異世界風悪い貴族な人が住んでいそうなキンキンギラギラした雰囲気は全くなく、スピンドル家の屋敷ように歴史を感じさせるものであった。
勿論多少過美な豪華さはあるもののここは王都で主人は貴族、目に見える形で威厳を示す必要があるのだろう。
「良いお屋敷だね」
「装飾に職人の拘りが見えるので御座る」
「アトスもそういうのが分かる系?」
「素人程度に、では御座りまするが。アラミスもそうであろう?」
「うむ、例えばこの柱。ここに繋ぎ目が御座いますが、しっかり繋げてあるのは当然として、丁寧に後処理をし元々一本の柱であったかのように仕上げている。素晴らしい技術です」
「アラミスが饒舌だ」
いつも口数の少ないアラミスがめっちゃ喋ってる。
僕はその様子が可愛くて、何となく腕の中にいるアラミスを撫でるのだった。
「ゲイル様が来られるまで、皆様はどうぞこちらの部屋で御寛ぎ下さい」
そう言って恭しく礼をしてくれる執事さんに礼を返したものの、知らない人の屋敷でどう寛げと?
僕は警戒心MAXなのだが、隣にいるピアちゃん達はメイドさんにお茶を入れて貰ったり、お茶請けを摘んだり、終いには「おねーちゃんのお菓子の方が美味しいの」と感想を漏らしたりしている。
ピアちゃんがリラックスしているということは、悪い糸が見えないのだろう。
「そこまで警戒しなくても良いのかな?」
とりあえず家族は全員揃っているので何があっても大丈夫だろうと、僕もピアちゃんから酷評を食らったお茶請けを口に入れるのだった。
そうこうしていると、扉の向こう側から聞き覚えのある足音もとい走ってくる音が。
バンッ!!
「ユウちゃんっ、お待たせぇ!」
「あ、エリちゃんのママなの」
「この人、他人の家でもこうなのか」
ある意味、尊敬するわ。
「尊敬だなんて、照れるわぁ」
「心を読まないで、あと褒めてない」
僕がマルセナさんを呆れた目で見ていると、その後ろから見慣れた子供達が入ってくる。
「あ、お姉様! やっとお会いできましたの!」
「姉様も来られていたのですね」
過ごしやすい服装に着替えたジークとエリザベートは嬉しそうに僕の近くに寄ってくると、座ろうとしたが席が無いことに気が付いた。
いち早く気付いたポルトスが気を利かせて、端に寄せてあった二人掛けのソファーを二脚持ってくる。
「ポルトスさんありがとう御座います、先生こちらで一緒に座りませんか?」
「そう致そう」
少し残念そうに僕の隣を諦めたジークは、お気に入りのアトスと二人掛けに座った。
そしてアトスが移動したことで空いた僕の隣にエリザベートが座り、ポルトスを膝に置いた。
「うふふふ、お姉様の隣ですの!」
「右側はぜったいピアなの、ここは死守なの」
「じゃあ私はこの子を貰っていくわねぇ」
「皆何を競い合ってるの?」
目まぐるしくポジションチェンジしていく中、最期にアラミスがドナドナされていく。
どの目は売られてゆく子牛のよう・・・でもないが、僕の胸から回収されてちょっと寂しそうだった。
しかしマルセナさんに撫でられているうちに、満更でもなさそうに目がトローンとしてくる。
「相変わらずアラミスちゃんの翼は綺麗ねぇ」
「お褒めに預かり恐悦至極」
仲良さそうな二人、しかしこの光景は別に意外なものでもない。
実はスピンドル一家は非常にアニマル’sの皆と仲が良い。それぞれ推しの子がいるみたいで、だいたい同じコンビで居るのを見かける。
ジークはアトス推しで、先生と生徒のような関係。
エリザベートはポルトス推しで、遊び相手。
マルセナさんはアラミス推しで、お茶会パートナー。
そして今居ないアルバートさんはダンタルニャン推しで、晩酌仲間である。
「じゃあ相手の居ないダンタルニャンは僕の膝に乗る?」
「いえ、姫の膝はセレナ殿に譲るのであります!」
「え? あ、セレナ起きたんだね。おはよう」
『マーマ、おはよう』
ポケットがもぞもぞと動き、そこからひょこっと可愛らしい鳥のあみぐるみのセレナが顔を覗かせた。
セレナは小さな羽で飛び上がり僕に頬擦りした後、ゆっくりと降りて膝に着地する。
ダンタルニャンはアンサスと一緒に僕の傍で立ち、ミミちゃんは最初から膝の上にいるので、これで家族勢揃いだ。
「これはこれは、とても賑やかだね」
僕達が落ち着くのを待っていてくれたのか、とてもダンディな声が聞こえた。
声もした方へ顔を向けると、扉から細身で背が高く、癖っ毛の目立つ男性が立っていた。口元の整えられた髭が上品でカッコいい。
傍らにはジーク達と同じ年頃の女の子と、後ろにはアルバートさんが立っていた。
「うるさくしてごめんなさい」
「ははは! いやいや、賑やかなのは大歓迎だよ。特にこの様な可愛らしいお客様ならば、娘も喜ぶ」
やだ、この人優しい!
男性から言葉以上の優しさオーラが放たれている、正直浄化されそうだ。
男性に促され傍らで恥ずかしそうにカーテシーする女の子はとても大人しそうな子で、毛質が父親に似てくるんくるんだった。
「自己紹介が遅れたね、私はゲイル・シーチング。伯爵位で、王家の財政に携わる仕事をしているよ」
「む、娘のカトレア・シーチングです。宜しくお願い致します!」
「僕はユウと言います。隣に居るのがピリアリート、周りに居るのは僕の大切な家族です!」
僕の紹介に続いて、皆が順に自己紹介をしていく。
それを見たゲイル伯爵は目を瞬かせ、カトレアちゃんは目を輝かせた。カトレアちゃんは、動物のお人形とか好きな子なのかもしれない。
「これはこれは・・・一応話には聞いていたが、夢の中に入ったような気分だね」
「お父様! とても、とても可愛いです!」
「僕の自慢の子達です!」
良い印象を持ってもらえたみたいで良かった。
ゲイル伯爵はひとしきり家族を見渡すと、最期に僕とピアちゃんを見る。
「それに君達も。『聞きしに勝る』とは、まさにこういう事だね」
「僕たちについて何か?」
「いや、アルバートから話は聞いていたのだが、想像よりも幼くて可愛らしいお嬢さんだったものでね。それと、オーガを倒す程強いと聞いていたが・・・確かに君は強いなと思ってね」
ゲイル伯爵は「想像が追い付かないよ」と笑った。
後ろではアルバートさんも笑っている。いったい何を話したのか、後でじっくり聞く必要がありそうだ。
僕がジトっと見ていたのに気付いたのか、咳払いをして話題を変える。
「こいつは俺の学生時代からの親友でな、お互い爵位を継いでからは同盟を組んで良くして貰っているんだ」
「私のことはどうかゲイルと呼んでくれて構わないよ、素敵なレディ」
そう言って僕の手を取りキスをする。
全く違和感がなくて普通に受けてしまった! これが本物の貴族か・・・。
え、アルバートさんとマルセナさん? あれは貴族以外の何かでしょ?
「さて、君達は王都滞在中この屋敷を自由に使ってくれ。家宝以外は壊したりしてくれても構わんよ、全部アルバートに請求するから」
「おい、勘弁してくれ! お前達、絶対ユウを一人にするなよっ。こいつは一人になると何をするか分からん!」
「何で僕名指しなのさ、僕一応長女で家長なのだが?」
解せぬ! と言う僕を放置して、皆はアルバートさんの言葉に元気よく返事する。
全くもって解せぬ。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
それからは暫く雑談が続く。
アルバートさんは学生時代、結構やんちゃだったらしく、それを止めていたのがゲイルさんだったらしい。
先代同士が友達だったらしく二人はジークぐらいの年の頃から知り合いで、頭脳派のゲイルさんと肉体派のアルバートさんで全く相性が合わなさそうだが意外とそうでもなかったらしく、二人で本当に色々とやってきたそう。
「いわゆる竹馬の友ってやつですか」
「ちくばが何か分からんが、幼馴染というやつだな。その頃は俺も王都へ来ることも多かったしな」
「私がシルクマリアへ行くことも多かったね。今では私が行ってばかりだが」
「新事業もあって忙しかったんだ、仕方無いだろう?」
「忙しかったわりには、可愛らしいお嬢さんと楽しく日々を送っているようじゃないか」
「羨ましいか?」
「正直この光景を見せられると、私が代わりにシルクマリアに就きたくなるよ」
軽口を叩き笑い合う二人。その様子にマルセナさんは懐かしそうな目線を向けていた。
「本当にこの二人は・・・学生の頃から何も変わらないんだからぁ」
「マルセナさんはお二人をいつ頃から知ってるんですか?」
「アルバートは幼い頃からだけれど、ゲイルの事は高等教育科からねぇ。ほら、私はアルバートの担任だったからぁ」
「マルセナさん、先生だったの? っていうか、生徒に手を出したんかい!!」
事案だよ、事案!!
「だってほら、若い男の子のお尻って見てるとムラムラするじゃない? で、気付いたら食べちゃってたのよぉ」
「もう言葉も無いよ」
思考が犯罪者じゃん。
僕が何度目か分からない呆れた視線をマルセナさんに送っていると、カトレアちゃんがチラチラと僕を見ている事に気が付いた。
「カトレアちゃん、どうかしたの?」
「い、いえっ、何でもないです!」
カトレアちゃんはすぐに会話を切ってしまう、人見知りなのかな?
でもピアちゃんやエリザベート、あとダンタルニャン達とは普通に話してるんだよね・・・僕、嫌われてる? ちょっとショック。
僕が密かに落ち込んでいると、エリザベートが何かに気が付いてカトレアちゃんに話し掛ける。
「もぅ、カトレア。はっきり伝えないといけませんの! お姉様は心の広い方ですので、何を言っても大丈夫ですの!」
「うぅ・・・、エリザお姉様ぁ・・・」
何なんだろう? よく分からないけど、何かあるらしい。
僕がカトレアちゃんが話しやすいよう間の前まで移動し、しゃがんで声を掛けた。
「なぁに? 気軽に聞いて良いよ」
『マーマ、やさしいよ』
「あ、あの・・・その・・・ぉ、お姉様と、お呼びしても・・・良いです、か?」
何で? 既にエリザベートにも呼ばれてるし、構いやしないが、何で?
「全然構わないけど、どうして?」
「カトレアは一人っ子なんですの、お姉様が欲しかったらしいのですわ!」
「はうううぅぅ・・・はずかしぃ」
うん、可愛い。
でも僕は一応平民だ、そこんとこは良いのだろうか?
そう思い、ゲイルさんに視線を向ける。
「ははは。全く構わないよ、この子も嬉しそうだしね。それに君は女神様だろう? 逆に光栄な事さ」
「えっ、知ってたの!?」
「色々話したと言っただろう。それに陛下にお前のことはお伝えせねばならん、そうすれば必然的にゲイルの耳にも入る。後か先かの話だ」
「知った上でのこの対応、ゲイルさん凄いね」
「君は謙ったのが嫌いだと聞いていたからね」
すげぇな、やっぱりこの人アルバートさんの友達なだけあるわ。
色々バレていることが判明したので、僕は再びカトレアちゃんに向き直り声を掛けた。
「パパから許可が下りたから良いよ、僕のことは好きに呼んで」
「や、やったぁ!」
やっぱりこの子可愛い、ピュアかわだ!
「あ、あの、あと二つお願いが・・・」
「良いよ、なぁに?」
「わ、私のことはカトレアと呼んで下さい。あと、その・・・」
「分かった、カトレア。もう一つは?」
「ウ、ウサミミを触っても良いですかっ!」
「・・・どうぞ」
そこから暫く、カトレアは幸せそうな顔で僕の兎耳を撫で回した。
あとで聞いた話だが、彼女の一番好きな動物はウサギなんだそうだ。
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文章が思いつかなくなりました、暫し構成にお時間いただきます。
その間『邪神ちゃん』を更新しますので御容赦を。