6-③ 兎は同郷?に出会った
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
「さて、気になるお店の名前は──」
僕達は揃ってお店の玄関屋根に掛かる看板を見上げた。
「・・・読めないの」
「何処の字かなぁ? アンサス君読める?」
「いえ、私の地方でも見たことは無いですね。外国の字でもないかと・・・」
「魔法文字でも御座らん、古代文字では?」
皆が口々に感想を漏らす、この国では見たことの無い字体のようだ。
でも一人だけ違う反応をする者がいる、僕だ。
「・・・なるほどね。いやまぁ当然可能性としてはあり得るんだろうけど・・・ちょっと予想外だなぁ」
皆が読めないのも当然だね、だってこれはリアムテラの字じゃない。これは地球の文字だ。
でも漢字、つまり日本語でも無かった。
恐らくだけど、日本人がこの字を目にする機会は比較的少ないと思う。
「『Катюша』・・・なるほど、ロシアの人か」
これは予想外だ。
僕が何故、日本語以上に習得が困難と言われるロシア語を読めるのか。
結論から言おう、実は読めていない! ただあの記号のような字の並びが『カチューシャ』と読むんだと知っているだけである。
あとは一切書けないし、一切読めない。話せるのも精々ダスビダーニャくらいだ。
ちなみに何故『カチューシャ』だけを知っているのかと言うと、一昔に流行った戦車アニメの影響である。
それはさておき、まぁ居たのが外国人だったというだけの話。
そもそも日本人だけが異世界に飛ばされるという方が変な話なので、可能性としては十分にあり得るのだ。
いやまぁ、そんなひょいひょい飛ばされても困るのだが・・・とにかく会ってみよう、全てはそこからである。
「怖い人じゃなかったら良いなぁ。いきなり『日本人キライ』って言われたらどうしよう・・・」
「にほんじんって何なの?」
「お姉さんも聞いたことのない種族ねぇ」
「かなり少ないですが居ますよ、たぶん」
雑談をしつつ、僕達は店に入る。
店内はとても広い。シルクマリアも大きかったが、あちらを普通のスーパーとするなら、こちらはコ◯トコである、超広い。
ちなみにこの世界は広い店舗が少ない。勿論ちゃんと理由があって、①『あるものから買う』『注文して作る』が普通 ②余計な在庫は作らないのでスペースが要らない ③敷地面積あたりの税金が高い ④盗難対策 以上四点が主な理由である。
なお、建物は広いより高い方が安いので、わりと三階建ての建物は多い。
あと、広いと店舗の中央が暗くなるのも理由らしい。ここは光の魔石か魔道具かを使って明るくしているようだ。
そんなわけで普通ならこれ程服が並んでいる事は少ないのだがここは違う。地球の服屋と品揃えから陳列の仕方まで、何ら遜色が無い。
「流石異世界人、考え方が違うね」
あれが可愛い、これが可愛いと女子が興奮しながら物色している中、僕は店舗を見回しそれらしい人を探す──が、ここで問題が発生した。
僕は今更ながら気付いた、リアムテラの世界の人とロシアの人の見分けがつかない!
全員がロシア顔というわけじゃないんだけど、僕がロシアの人のイメージが薄すぎて区別がつかないのである。
「う~~~ん、これは困った・・・」
僕はその人と話したいのに、どの人か分からない。
もう「オーナー呼んで!」って言うか? それもそれでどうよ? しかもよく考えたら、言葉通じるのかな? それは大丈夫か。
そんな、眉間にシワを寄せて唸る僕を不審に思ったのか、心配したのか、一人の女性が声を掛けてきた。
「あのぅ・・・大丈夫ですカ?」
「ん? あぁ、大丈夫大丈夫! いい服が多くて、ちょっと悩んでただけだから!」
「おぅ、そうでしたカ! そう言っていただけると嬉しいでス!」
話しかけてきてくれたのは長い白っぽい金髪に白い肌をした、青い瞳がすごく綺麗な背の高い人だった。
気のせいか、むっちゃ強そうである。
「宜しければ、あちらにお勧めの服がありまス。ご案内致しますので、こちらにどうゾ!」
僕達は店員さんに案内され、お勧めのスペースへ向かう。
その道中も僕は店舗を見渡すのだが、やはり見分けがつかない。もう聞こう、大切なのは聞き方なのだ。
「すみません、ちょっと聞きたいことがあるんですが」
「はい、何でしょウ?」
「あの看板の『Катюша』って字、考えたの誰かご存知です?」
僕の言葉を聞いた店員さんの足が、ピタリと止まる。
「僕ちょっと、あの文字を書いた人に用事があって。もし良かったら紹介して貰えないかなぁと──『読めたのですカ?』・・・え?」
「あの文字を・・・読めたのですカ? 知っているのですカ?」
振り返り、僕にそう質問してくる店員さんの目には涙があった。
その表情は期待、幸喜、不安、恐怖といった複雑な感情が浮かび、「そうだと言って欲しい」と目が訴えていた。
「あぁ、そうか。この人が・・・」
僕はすぐに分かった、この人だ。この人が異世界人だ。
それが分ると色々察せるものが出てくる。この人がどうやってこの世界にやって来たのかは分からない、人の街に降りたのか、僕のように森の中に降りたのか、もしかしたら信じられないような場所からのスタートだったのかも。
それに僕にはピアちゃんが居た、ミミちゃんだって居てくれた、でもこの人にもそんな人が居たとは限らない。ずっと一人だったのかもしれない。
こんなお店を開けるくらいだ、友達だって増やして、お金を稼いですごい努力をしたんだろう。でもきっと、この人は自分が異世界人だって言える仲間が居なかったんじゃないかな? だから僕に期待している、「そうであって欲しい」と。
嘘や誤魔化しをしちゃダメだね。
「読めた・・わけじゃないです、ただ知ってます。あれはロシア語ですよね? 地球の言葉です」
「──っ! ゔゔゔううううう・・・ゔあああああああっ!!」
店員さんは僕に抱き着いて泣き始めてしまい、クレアさんやピアちゃんが何事かとわたわたしている。
この人は今までずっと怖かったのかもしれない。
いや、ずっと寂しかったのかもしれない。
僕だけがこの人の気持ちを分かる。だから泣き止むまで抱き締めて、優しく背中をさすってあげるのだった。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
「ぐすっ・・・すみませんでした、取り乱してしまっテ」
「いえ、全然。気持ちはすごくよく分りますから!」
僕達は今、別の店員さんに促され店の応接間に居る。
この女性も落ち着いたのか、漸く話せるようになってきた。
「改めて、僕はユウ。日本から来た巻麻 結と言います」
「私はエカテリーナ。ロシアの軍で狙撃手をしていましタ」
「軍人さんだったんですか!? どおりで強そうなわけだ・・・しかもスナイパー」
僕の驚いた様子に、エカテリーナさんは少し恥ずかしそうにした。大人なのに少女のような人だ。
「いえ、私の方こそ驚きましたヨ。まさか最近の日本の方には兎耳が生えているだなんテ!」
「いや、生えてねぇよっ⁉」
えっ、最近の日本ってそんなイメージなのっ!? しかもそうだと言われても否定できん!
オタク文化の最先端だからな、仕方ない。
僕のツッコミに「ウフフフ」と笑っている、エカテリーナさんはすごく嬉しそうだ。
ただ一つ分かったことがある、この人は天然だ。ペースに飲まれないようにしないと、話が脱線したまま行方不明になる。
「でも本当に良かったです、同郷の方が見つかっテ・・・あの看板を掲げていた意味もあるというものですネ」
「え、それどういう事?」
「だって、ロシアの文字なら、地球の大半の人が読めますよネ?」
「無理ですけどっ!?」
ロシア語の習得難易度ナメんな!
あれ、そういえば僕達話せてるな? 異世界人特権かな?
というかこの人、自国の言葉を誘蛾灯みたいに使ってたのか・・・まぁ僕が釣れたみたいだしある意味成功と言えば成功なのだが・・・僕は、蛾か・・・。
いかん、また話が持っていかれた。僕は話を元に戻す。
「エカテリーナさんはどうやってこの世界に来たんですか? ちなみに僕は日本で死んで、こちらで生まれ変わりました」
エカテリーナさんはその時の事を思い出しているのか、少しの間指をあごに当て「んー」と言いながら目を閉じた。そして思い出したようで、何処か照れたように話し始めた。
「ウフフフ。実は、任務中に砲撃にあいましテ・・・」
「シリアスッ⁉」
「狙撃手って、動けないんですヨ。なので見つかると、そうなっちゃうんですよネ。怖いですネ!」
想像の斜め上を行った!
まぁ、これで何となく分かった。砲撃を受けて死んでしまって、転生したのだろう。
という事は、他の国の人間も居たりするのだろうか? そんな事を考えていると、実はそうではないらしいことがエカテリーナさんから告げられる。
「その砲撃で大怪我を負いまして、戦場で狙撃手が救護して貰えるわけもなく死にかけていたのでス。その時神の声が聞こえたのでス」
「神様の声?」
「はい! どうせ死ぬのなら傷も治すし、すごい力もタダであげるから異世界に行かないかと誘われましタ。その神は『天国の方から来た』と言っていたので、私も信用してお話を受けたのでス!」
なんて凄い人なんだろう。僕はあまりの衝撃に開いた口が塞がらない。だって──。
「まさか、その手の詐欺に掛かる人がまだいるとは・・・」
そう、詐欺。たぶんこの人、神に詐欺られた。これは日本における詐欺の常套句『◯◯の方から来た』である。
これ例えば『警察署の方から来た』だった場合、何となく警察関係者に聞こえるけど警察署の横にある民家から来ていても『警察署の方から来た』で間違いないからややこしい。それこそ、連れてきた人物も本当に神なのか?
天国だか天界だか知らないが、そちらから来ていないと仮定するならば話は嘘の可能性が高い。
という事は、タダでスキルが貰えるだなんて話も怪しくなる。僕だって体を失ったんだから、この人も何かしら失くしてる可能性が高い。
まぁ今生きてるってことは、傷は治してはくれたみたいだから結果的に良かったのかもしれないが・・。
「でも、傷は治してくれなかったのでス。ひどいです!」
「何一つ良いところないじゃん!!」
ただ騙されただけじゃん!
でもじゃあ、どうやって生き残ったんだろう? 見た感じ大怪我をした様子はないので聞いてみると、興味深い話が出てきた。
「私はナントカ帝国という場所に『ユーシャショーカン』というのをされましタ。私は兵士として必要とされていたらしくて、魔法で治して頂いたのでス! ただ、そこでの私達の扱いがあまりにも酷く、一緒に呼びされた日本人の男性と帝国から逃げたのでス」
「勇者召喚っ!? しかも日本人居るのっ!?」
「はい、他にも色々な国の人居ましタ。でもみんなどこに行ったのか分かりませン。私はそれから手に入れたスキルというものを使って冒険者になり、稼いだお金を元手にお店を開きましタ。皆を探す為ニ!」
やっぱりあるんだ、勇者召喚。しかも色々な国から人が呼ばれたらしい。
リアムテラには地球で言うところのアジア顔の人が居ないのか、今の所見たことがない。まぁ日本人にも濃い顔の人も居るし見ても気付かないかもしれないけれど。
更に話を聞くと、エカテリーナさんには無事スキルが付与されていたらしい、それもかなり強力なものを。ただそれがあまりにも強力過ぎて隷属の魔道具を嵌められてしまったらしいのだが、それを一緒に召喚された日本人が怖し共に逃げることが出来たそうな。
「洗脳してまで戦わせるだなんて、人のする事とは思えませン。戦争は戦う意思を持っている人同士でするべきでス! あのショーカンという魔法は壊さないといけませン!」
「それは同感です、僕の方でも地球の人と帝国の情報を集めておきます」
僕はエカテリーナさんといつでも連絡を取れるよう、彼女に糸伝話と念話のミサンガを渡した。勿論ピアちゃんの許可は貰い済みだ!
アルバートさんの許可? ・・・大丈夫じゃない?
期待していたものとは違ったが、出会いと重要な情報の交換をし終わった僕達は本来の目的に戻った。
「そういえばユウさん達は、今日何をお買い求めに来られたのデ?」
「あぁ、それは──『ユウちゃんに似合う、可愛い服よ!』『おねーちゃんの可愛い下着なの!』・・・らしいです、はい」
この二人は僕をどうしたいのだろうか?
ただ着せ替え人形にして遊びたいだけなのだろうと思うが、元男の僕にとって誰かを着せ替えるという事がどう楽しいのか全く分からない。
可愛い服なら自分で着たら良いじゃんって思わない? だって、可愛い服を誰かに着せたって自分が可愛くなるわけじゃないんだよ?
僕は成長したピアちゃんの姿なわけで、ピアちゃんに関しては未来の自分を想像している可能性もあるし意味もあるが、クレアさんは全く意味不明。お金だって安くないのに、自腹を切ってまで僕に服を着せる。
「まぁ、アニマル’sも楽しそうだし・・・好きにさせるかぁ」
人間諦めが肝心なのだ。
それから言われるがまま着替えポーズを決める僕だが、頭の片隅では帝国の事が気になって仕方なかった。
シルクマリアで発生した誘拐事件、あれも帝国が関わっていた。それに加え勇者召喚。異世界人の兵隊化。
帝国は何と戦っているのだろう? そして、どうして勇者召喚なんて事が出来たのだろう?
倫理的には兎も角、簡単に強力な兵士が手に入る技術が広まっていないわけがないし、そもそも人間を別の世界から連れてくるだなんて魔法がホイホイあるとは思えない。
どうも帝国にこれまでの色々な話の答えがあるような気がしてならない僕だった。
「おねーちゃん、今度はこっちのスケスケを着て欲しいの!」
「待ってピアちゃん、その凶器を下ろそうか」
何でそんなのあるんだ。
世界もピンチだが、目の前も割とピンチだった。
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