6-② 兎は道端で駄々をこねる
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
受付のお姉さんに案内されたのは、ギルドの裏手にある煉瓦造りの大きな建物。
敷地面積で言えばざっくり三倍はありそうだ。
「では、ここに出して貰って良いかな? あっ、絶対机の上に出さないでね、絶対よ!」
「そんなに念を押さなくても大丈夫だよぉー」
お姉さんはちょっと涙目だ、どうやらいじめ過ぎたらしい。
ひとまず僕は沼竜を出した後、指示されたモンスターの種類と量だけ追加で出していく。まだ根に持っているのか、お姉さんがバリバリ監視してくる。
「とりあえずこれで三分の二くらいかな」
「こ、これで三分の二ですか・・・ちなみに解体されていきますか? しない場合は手数料が取られます」
「俺等ぁそのままでいいぜ、嬢ちゃんはどうする?」
「別に良いかなー。あ、でも売る前に素材の選別はしていい?」
「いいわよ」
僕達は素材を置いて受付に戻る、忘れかけてたが僕達はここのギルマスさんに用事があるのだ。
カウンターまで戻ると、そこには真っ赤な髪をした凛々しい30代くらいのお姉さんが立っていた。
「キルトリンデ南冒険者ギルドマスター、ベラドンナだ。君達が『鋼の旋風』だな、そしてこっちの子が・・・」
「ん? なあに?」
「いや、シルクマリアのギルド長からの手紙は受け取った。ギルド長室まで来い」
ベラドンナさんに連れられてカウンター横の階段を上っていく、どうやらギルド長室は二階にあるようだ。ピアちゃんと手を繋ぎカウンターを横切る際、周りから色んな声が聞こえる。
「おい、シルクマリアの冒険者だってよ。強ぇんだろうな・・・」
「あの子達可哀想に、きっとギルマスにビビらされて泣いて出てくるぞ」
「鬼のベラドンナだもんな」
「ってかあの兎の姉妹、もしかして凄く良い所のお嬢様なのか? 後ろに執事っぽい奴もいたよな」
「分からないけど、すごく綺麗な子だったわね。小さな獣人達も可愛い」
ごめんなさい、庶民です。
しかし、ベラドンナさんはどれだけ恐れられているのか・・・なんか評価がひどかった。
部屋に入ったベラドンナさんは僕達を接客用のソファーへ促し、自身も対面に座ると大きく息を吐く。すると先程までのザ・仕事人といった雰囲気は霧散し、気の良いお姉さんになっていた。
「いやぁ申し訳ない! あいつ等すぐ調子に乗るうえに、アタシは女だからな。舐められるわけにはいかなくてねぇ・・・怖い思いをさせちまったかい?」
「いいえ、全然。むしろカッコいいなって思ってました」
「ピアも、きりっとしてるって思ってたの!」
「お、そりゃ嬉しいねぇ! 良い子には飴ちゃんあげよう、ほら好きなの取りな」
前に出された箱から、僕達はありがたく1個づつ貰う。ハニーキャンディーだった。
「んで、ドラさんの手紙を見たがこんな可愛らしい子達が女神様ねぇ。まぁ疑いようのない気品というか雰囲気みたいのは感じるね! 改めて、アタシは『乾坤圏』のベラドンナ、元Aランク冒険者でここのギルマスだ。よろしくな・・・って、話し方はこのままで良いかねぇ。どうにも丁寧に話すのに慣れて無くて」
「問題無いですよ! 僕はユウ、この子はピリアリート、このカバンがミミちゃんで後ろに居るのが大切な家族です」
「よろしくなの!」
それからアニマル’sとアンサスが順に挨拶をしていく。
ガルドさん達が自己紹介しないから何でかなって思っていたら、知り合いらしい。ただCランクPTが特別扱いだと高ランク冒険者がひがむので、呼び出しという体を取ったようだ。高ランク冒険者って子供かな?
「冒険者ってぇのは見栄とプライドが大切なんだ、許してやってくれ」
「ガルドさん達にもあるの?」
「お姉さんたちはそのぉ・・・ねぇ?」
「ははは・・・」
「とっくの昔に、かあちゃんと怖いウサギのせいで木っ端微塵だなぁ」
なんだって、誰だその兎は!?
とまぁひとまず雑談は終了し、アンサスの咳払いで本題に入った。
「別に何がどうってぇ訳じゃないんだけどね、ドラさんからの手紙に『騒動を起こすから、気を付けろ』ってぇ書かれてあったぁわけさ。だから一度顔を見ておこうって思ってね」
「まるで僕がトラブルメイカーみたいな言い草だね!」
「反論の余地はねぇな」
「か、可愛らしいとは思いますよ?」
マルクスさん、謎のフォローありがとう。全く慰めになってないけどね!
「でもそれ以上に『強くて、優しくて、可愛らしい子達だから気にかけてやってくれ』って書いてあったよ。愛されてるねぇ、あんた! とまぁ、今回呼んだのは人となりを知りたかったからなのさ。勿論困ったことがあったら頼りな!」
「ありがとう御座います!」
ドラニクスさんが紹介状を書くだけあって、ベラドンナさんは凄く良い人だった。
それから世間話をして、ベラドンナさんが実は可愛いもの好きであることが判明しピアちゃんを膝に乗せてあげたりと楽しい時間をすごした後、冒険者ギルドを後にした。
冒険者ギルドが全部で五つあると聞いていたので他のギルマスさんの事も教えてもらった。
まず東冒険者ギルドのギルマスは人間で、穏やかなお爺ちゃんの魔法使い。東は市民の生活に付随した依頼が多いらしい。
次に北冒険者ギルドのギルマスはドワーフで、頑固な職人気質な人らしい。街が職人街という事もあり、鉱石などの採取依頼が多く期間も長め。ただし報酬がお金ではなく装備だったりすることもあるので、それを目的に受ける人も居るみたい。
西冒険者ギルドの特徴は全体的に東と同じで、ギルマスさんは戦士のおじさん。ただこちらの方が東に比べ討伐依頼もそこそこあり、東がFランク西がEランク冒険者向けとなっている。
まっ、あくまで傾向だけどね。
そして最後に中央冒険者ギルドだが、ここには気を付けろと言われた。
中央冒険者ギルドは貴族街にあるギルドで、所属している冒険者も依頼者もギルマスも全てが貴族。しかもまともに依頼が達成されたことが無い馬鹿みたいなギルドである。
ただ冒険者ギルドごっこをしているだけなら良いのだが、貴族からの無理難題を勝手に引き受け、報酬をピンハネして他のギルドに押し付けてくるのだから面倒極まりない。
実力のある冒険者や、綺麗な職員、高級素材をかっぱらっていくこともあるらしい。
えっ、それって盗賊と何が違うの? と思ったが、反抗すると大変なのでとにかく目立たないようにとのこと。
「目立たないって、おねーちゃんが一番苦手なやつなの」
「ピアちゃん、ひどいっ⁉」
妹からの評価が散々な僕である。
さて、冒険者ギルドを出た僕達が向かっているのは調教師ギルド。ミミちゃんの入城報告と、アニマル’sの従魔登録の為だ。
調教師ギルドは冒険者ギルドの道を挟んで反対側にある牛舎みたいな建物の奥にある。勿論この牛舎は大型従魔の待機スペースで、馬くらいまでの中型なら登録さえしてあれば街中まで連れて行けるし、宿で馬小屋も借りられる。
つまり従魔証は従魔用の身分証明書なのだ。なのだが、僕はそこに行くのが凄い嫌だった。
いや、別に調教師ギルドに行くのが嫌なわけじゃない。僕の可愛いアニマル’sを従魔登録するのが嫌なのだ。
だって、弟なのに、家族なのに何で従魔登録? 本人たちが良くても僕はとっても不満なのだ。
「まぁ、ミミちゃんを既に従魔登録しちゃってるから、今更な話なんだけどさぁ・・・それにも納得いってないんだよ?」
「がうぅ?」
「でもミミちゃんは気にしてないの、おねーちゃんの考え方次第なの」
「僕の気持で言えば、絶対いや。僕の可愛い弟妹達が従魔扱いだなんてっ、うえええええん!」
しゃがんで泣く僕を皆が慰めてくれるが、僕は全く納得いってない!
でも入城時に従魔として入城を果たしているので、ちゃんと登録しておかないと犯罪になってしまうのだ。
泣く泣く調教師ギルドに向かうが、僕はいずれ全員に人としての身分証明を作ってあげようと硬く心に誓う。
ちなみにアンサスは先程冒険者登録を済ませている。
調教師ギルドは西部劇に出てくる酒場の様なデザインをしていた。
木目の目立つ壁面に箱を積み上げたような造詣、入り口の上部分にデカデカと『南調教師ギルド』と看板が掲げられていた。入り口も映画で見たことがあるスイングドアだ。ただ、とにかくデカイ。
トラックの搬入作業でもあるんですかと聞きたくなるくらい入り口が大きい。これはたぶん中型の従魔が出入りすることを想定されているのだろう。
「キルトリンデの南調教師ギルドへようこそ。本日は新規登録ですか?」
「はい・・・この子、達の・・・登録、お願いし・・・ます・・・ぐぬぬぬ」
「な、なんだか血を吐きそうな雰囲気なのですが・・・本当に登録しても大丈夫ですか?」
「あー、気にしねぇで良いぜ」
「ユウさん、諦めましょう。アトスさん達の為なのですから」
「ユウちゃんが弟として扱ってあげてればいいんだよー」
やだーっ、やっぱりやだーっ! 可愛い弟達を、そんな登録させられない!
最後の抵抗を試みるも、ピアちゃんに指示されたアンサスによってホールドされている間に登録が進められた。
「登録される従魔はどちらに?」
「吾輩達なのであります! 吾輩はダンタルニャン、猫騎士であります」
「拙者はアトス、犬魔導師に御座る」
「吾はアラミス、鳥治癒師である」
「俺ぁポルトスだ、俺は・・・俺は何て言えばいいんだ?」
「・・・本当に従魔登録で宜しいので?」
「こいつ等は、あそこで泣いてる嬢ちゃんの召喚獣みてぇなもんなんだ」
口を開けてアニマル’sを見ていた受付のお兄さんは、ガルドさんの説明を受けて「召喚獣、なるほど」といって書類を書き始めた。
ちなみにポルトスは『護衛狸』と登録されたらしい。
そうこうしている間にミミちゃんの入城報告も済まされ、全ての手続きが完了してしまった。膝から崩れ落ちる僕の周りにミミちゃんとアニマル’sが集まってくる。
「皆ごめんね、お姉ちゃんの力が足りないばかりに・・・」
「いや、俺ぁ全く気にしてないけどな」
「拙者も右に同じく」
「実際召喚獣と言われればその通りなのであります」
「気に病まれるな」
「がうがう♪」
その言葉に僕はぎゅーっとみんなを抱き締めるのだった。
よく考えたらこんな登録をしなきゃいけなくなった原因は、準備していなかったアルバートさんにあるのでは?
よし、アルバートさんに後でいたずらしよう。僕の王都でのやる事リストに、新しい予定が書きこまれた。
ちなみにギルド内ではミミちゃんとアニマル’sが可愛さと珍しさで大人気だった。皆に合わせて僕とピアちゃんも撫でられたのが意味わからないけど、まぁ良しとする。
やるべきことも済んだので、ガルドさんとマルクスさんは荷物を置きに宿へと向かった。
今回ガルドさん達は帰りの護衛も受けているので、その間の宿をアルバートさんの名前でとってあるらしい。宿はガルドさん達が他の街で普段泊まる場所より良い所らしく、クレアさんは大喜びなんだそう。
ちなみにシルクマリアに居る時はエリザベスさんの孤児院に泊まっている。
ガルドさん達が居なくなり、美女、美少女、美幼女、ミミック、アニマル、美男子の四人四匹となった僕達はこれからの行動について話し合った。
「これからどうしようか、ピアちゃんお菓子買いに行く?」
「お菓子はおねーちゃんが作ってくれた方がおいしいから、別に良いの!」
「吾輩も特に何もないのであります。ただ、道中ブラシがあったら買って欲しいのであります」
「うむ、身だしなみも大切に御座る」
「がっつり肉が食いてぇ」
「市で果物を見とう御座います」
「お嬢様をお守りするのに剣を購入したいと思いますが、明日でも構いません」
「ブラシはギルドで売ってるかも、それ以外だと市に行くかなぁ」
みんなの意見から予定を組み立てていると、クレアさんから声が上がった。
「ユウちゃん、大切な事忘れてるよー! お姉さんと服を買いに行きましょう!」
「それこそ今日は休んで、明日で良くない?」
「だめだめ、シルクマリアであんまり服買えなかったんでしょ? その服だってだいぶ汚れてるしねー」
旅の途中、勿論洗濯なんてしている暇はない。体はお風呂に入れば綺麗になるが服は洗った後乾燥させる必要があり、それは勿論下着も同じだ。
でも幸い下着に関しては出発前に一ヶ月分くらい買えたので同じものを穿くなんてことしなくて済んでいる。でも服は数着しか買えなかった、だから服に関しては五日くらい着てから着替えるという方法を取っていた。
日常生活ならそこまで汚れないかもしれないけど、旅をしていた上に戦闘も行っている。正直臭い。
この体になってから嗅覚が鋭くなったのか、臭いが凄く気になる。
荷物を大量に持って動ける僕ですらこうなんだから、他の女性冒険者の苦労が偲ばれる。
正直な所、僕も綺麗な服が欲しい。それも古着じゃなくて新品の服が!
でもこの世界、新品な服というのは既製品ではなくオーダーメイドが普通でクソ高い。服一着で金貨数枚(数万円)が軽く跳ぶ。
それにオーダーメイドをしてくれる服屋なんて貴族街にしかないので入るのに紹介状が要るらしいと聞いた。まぁ紹介状はアルバートさんがくれると思うけど、問題はオーダーメイドという事。つまり完成まで時間がかかる。それなら洗濯した方が早いんじゃないかなって思う。
「僕だって服は欲しいけど、すぐ欲しいんだよね。だから洗濯で良いよ」
「何言ってるのよ、ユウちゃん。王都にはあの店があるじゃない!」
「あの店? ・・・あの店かっ!」
クレアさんの言葉で思い出した! たった二回とはいえいっぱい買い物をさせて貰って、今も着てる服のお店だ。
「あの名前の分からないお店か!」
「そうそう、店員さんも王都に本店があるって言ってたでしょ? お店の名前も気になるし、服買いに行こうよ!」
「うん、そうしよう! やったねピアちゃん、またお揃いの服が着れるよ」
「おねーちゃんとお揃い? やったのー!」
余程嬉しいのか、ピアちゃんがぴあぴあしている(?)
くるくると踊るピアちゃんと手を繋ぎ件の服屋さんへ向かう。僕がシルクマリアでお店を訪れた時、焼けた看板に『山』みたいな字が書いてあったのを思い出した。
山って書いてあるという事は、店名を決めたオーナーさんは日本人である可能性がある。僕は初めて同郷に会えるかもしれない喜びに心が躍った。
道中売っているものを見て商品御傾向を見たり、アラミスが気に入りそうな果物を探したりしながら進むと遂にお店が見えてくる。
シルクマリアでもそれなりに大きな店だったが、王都だからか、本店だからか、こちらのお店はさらに大きく綺麗だった。
「さて、気になるお店の名前は──」
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