6-① 兎は騒ぎを起こさずにいられない
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
二週間の旅路を経て、僕達はようやく王都キルトリンデに到着する。
「でっけぇ・・・」
「でっかいのー・・・」
「がうぅー・・・」
僕達三人は揃って口を開けて、城郭を見上げる。
要塞都市と言われるシルクマリアの、森に面した南の城壁もかなりの大きさだったが、ここはそれ以上だ。城壁付近のお家はお洗濯を乾かすのに困りそうである。
「あっ、上の方で人が歩いてるの! おーい、なの!」
ピアちゃんは城郭の上を歩いているらしい人に向かって手を振っている。
・・・居るか? よく見えるねピアちゃん。そういえば初めてシルクマリアについた時も城郭を歩いている兵士さんに手を振っていた事を思い出した。
あれから一年、僕も随分異世界に慣れてちょっとやそっとの事では動じなくなった。
そもそも僕は元18歳の男子高校生、ちょっとした大人である。いつまでも子供では無いのだ。
だから新しい街に着いたところで、クールにダンディに過ごすのさ。
「うおっ、すげぇ! アルバートさんっ、アルバートさんっ、見て! 門の前で市が開いてるよっ、何で? 危なくないのかな、入ってからやればいいのに。それに見たこと無いものばっかりだ! うっははは、すっごい! 行きたい!」
「ユウ、はしゃぎ過ぎだ。王都の中にもっと大きな市が開いてるから、少し落ち着け」
「うふふふ、ユウちゃん初めての遠出で大興奮ねぇ。可愛いわ」
「お兄様、お兄様。市を見るよりも、お姉様を見ている方が楽しいですわね!」
「あまり言うと姉様が拗ねるよ、エリザ」
「おねーちゃん、子供みたいなの」
門の周りでは20軒ほどだが、門の左右に祭の屋台のように店が並んでいた。
地球にも中々インパクト強めな果物とかあったが、異世界ではそれが最低レベルかと思える程の見た目の果物が並んでいた。
アルバートさんに聞いたところ、一般の人は多い為入城にはかなり時間がかかるらしく、それなら減るまで商売をしようと考えた人たちが店を出しているらしい。
一度入城すると商売をするのに税金が必要だが、外では掛からないので売り物は城内より安い。じゃあ皆外で買った方が安いのではと思いがちだが、一定量以上の物を持って入城するのに税金が必要なのだ。
つまり買う側からすれば城内で買った方が安いうえに、城内なら兵士が巡回しているので治安も良い。
こうなってくると僕としてはどっちが得なのか分からなくなってくるのだが・・・手提げを持って門から出てくる人も居るので、ある程度の需要もあるみたい。各々の判断によるという事なんだろう。
遠目に屋台を見ていたが、そこにはやはり編み物に関するものが売っていなかった。
古着を売っている店で糸は売っているみたいだが、例えば毛糸、綿、棒針といったラインナップが皆無だ。綿が無いって、寒い時期にはどうやって防寒してるんだろう? 毛皮かな、もしくは王都も年がら年中暖かいのかもしれないな。
そして、やはりというか籠も無かった。籠が無いって、絶対困ると思うんだけど皆どうやって日々生活してるんだろう?
買い物をしている人の手元を見ると布バッグが多い、中には布を風呂敷のように使っている人も居る。昔の日本のようだ。あれはあれで良いものだと思うんだけど、やっぱり編み籠が無いってのは違和感たっぷりだ。
僕は絶対編み籠を流行らせようと、心に誓った。
さて、入城に関してだけど、僕達はスピンドル伯爵家御一行となるわけで、貴族用の門からの入場となる。
シルクマリアに入った時とは違い、身元をアルバートさんが保証してくれるので僕は冒険者証を見せるだけで良い。
ちなみに僕はまだFランクである、だって試験受けるの面倒臭いんだもん。シルクマリアではEランクから試験があるのだ。
「スピンドル辺境伯様とその御一行ですね、ようこそいらっしゃいました。お連れの皆様は身分証をお願いします」
そう言われ、ガルドさん、クレアさん、マルクスさん、そして馬車に乗っている僕とピアちゃんも出す。ちなみにミミちゃんも従魔証を提示している。それを見て衛兵さんがギョッとしていた、そりゃあそうだろうと思う。まさか鞄がミミックだとは思わないし、そもそも何で冒険者が貴族馬車に貴族と一緒に乗ってるんだよと思ったんだろう。
うん、僕もそう思う。でも降りようとしたらアルバートさんに阻止されて、仕方なく乗ったままなのだ。
「えと・・・はい、ありがとう御座います。ところで、その小さな獣人達の身分証は?」
「あ・・・」
忘れていた、あまりにも普通に居るもんだから身分証の事なんて考えもしなかった。どうしよう・・・いや、もしかしたらアルバートさんに考えがあって何も言わなかったのかもしれない!
僕はアルバートさんに視線を向けた。アルバートさんも「あっ!」っと言ってた。
・・・おい。「あっ!」ってなんだ、「あっ!」って。
「あわわわわ・・・どうしよう!」
「ダルニャン達、入れないの?」
「いや、ちょっと待って。考えるからっ!」
どうしよう、このままじゃこの子達が入れない!
今からでも一般口に並ばせるか? いやそれだと夜になっても入れるか分からないし、この子達だけを暗い夜に外に置き去りだなんて絶対にしたくない。
僕が頭を悩ませる中、ピアちゃんから解決策がもたらされた。
「一度戻しちゃえばいいの!」
・・・なるほどな。
よく考えたらこの子達は僕が魂を分けて呼び出した存在だ。だから一度編みぐるみに戻って貰い、入ったらすぐ戻したらいいのだ。
ずっと一緒に居たから編みぐるみに戻すなんて考え、過りもしなかった。僕はそのアイディアを採用し、アニマル’sに一度戻るよう促す。だが彼等から猛反対を受けた、もとい「戻さないで!」と泣いて縋られた。
「お願いでありますっ、お願いでありますっ、戻りたくないのでありますっ!!」
「お姫様あああっ、後生に御座るうっ、後生に御座るぅっ!!」
「お願いだ、姫さん! 俺を戻さないでくれ!! あとでかかった金とか返すからっ、だからっ!!」
「姫様、我も治療院でいっぱい働きまする。お願いします、どうか御傍に・・・」
「いや、あとですぐに戻すから。一瞬だけ、一瞬だけだから!」
「「「「いやだああああーーー!!!!!!」」」」
もう、ニャーニャークゥンクゥンキューキューピヨピヨの大合唱である。
馬車を降りて説得していた僕に、4匹が体中にくっ付いてお願いしてくる。モフい、あつい・・・。
そして何より、みんなの視線が痛い。
「すまないが、ここであの者らの仮入城証を発行して貰えんだろうか? あの子等は召喚獣・・・のようなもので、あの様に還すのが忍びなくてな」
「しかし、宰相様からのご指示でして。我々の裁量では・・・」
「やはりこの時期の入城審査は厳しいか・・・」
先程冒険者証に何か魔石のようなものをかざしていたことから、この国王誕生祭の期間中警備が強化されているらしく伯爵であっても例外は認められないらしい。
「アルバートさん、僕とこの子達は一般の方で入ります。ピアちゃんを連れて先に行ってくれませんか?」
「「「「それはダメ!!」」」」
「何でさっ!?」
「お前、女が夜に外で居ることの危険性が分からんのかっ!?」
「ユウちゃんみたいに可愛い子は食べられちゃうのよぉ?」
それから問答は続いたが、許してくれなさそうだった。
このままじゃ僕達だけじゃなくて、アルバートさん達も入れない。でも方法が全く思いつかない、もうこの子達を夜まで並ばせるしかないのか?
そう思った時、ガルドさんが衛兵さんに声を掛けた。
「なぁ、こいつ等を従魔として入れることは出来ねぇのか? ほら獣人によく似たケットシーとか居るだろ? その辺りも取り締まり対象なのか?」
「むっ? ・・・いや、それなら入場後すぐに登録すれば大丈夫だろう」
ガルドさんの質問に、ペラペラとマニュアルらしきものを捲りながら衛兵さんは答えた。
どうやら入れるらしい、ガルドさんグッジョブ!
「従魔登録になるけど、入れるらしいよ。皆どうする?」
「問題ないのであります!」
「問題御座らん、我等はお姫様にお仕えできれば一向に構わん」
「俺も問題ねぇ! ありがとうな、ガルド!」
「礼を言う」
解決策を提示して貰ったアニマル’sは、お礼を言いながら次々とガルドさんに群がっていった。
「あちぃ・・・」
「ガルドさん、ありがとう! 良かったね。ほら、みんなでお礼言うよ。せーのっ」
「「「「ありがとう御座いました!」」」」
こうして僕達は一悶着ありつつも、無事入城を果たしたのであった。
「・・・なんかユウの嬢ちゃん、母親みたいになってないか?」
「気にしちゃダメなの」
◇
入城を果たした僕達だけど国王の誕生日祭までは一ヶ月ほど時間があるので、ここからは各々自由行動になる。
アルバートさんは献上品を持って国王との謁見へ。
マルセナさんは他貴族の婦人たちとお茶会へ、エリザベートも連れて行かれるらしくブーブー言っていた。なんかマルセナさんが怪しい笑みを浮かべてこっちを見ていたのが気になるが・・・よし、誕生祭中は出来るだけ逃げ回ろう!
エリザベートとジークは基本的に屋敷に引き籠るらしい。誕生祭に合わせて集団デビュタントみたいな貴族の子供達の顔合わせがあるみたいで、それまでは出歩かないみたい。
ちなみにデビュタントとは地球では女性貴族の社交界デビューイベントの事を指すみたいなんだけど、こっちでは襲爵前の子も一緒にするらしい。お見合い的な意味合いもあるとのこと。
「ジークにお嫁さんが出来るのかもしれないのかぁー、可愛い子が居たらいいね!」
僕がそう笑い掛けると、ジークは何故かもじもじしながらというか言葉が詰まったというか、はっきりしない感じで「えー、あ・・・はい」とだけ答えた。何かあるのかな?
「お姉様・・・あまりにお兄様が可哀想ですわ」
「ユウちゃん、ジークが可哀想だからそこまでにしてあげてねぇ」
「おねーちゃん、そういう所なの」
「な、なんだよぉー」
何故か皆に責められた。
ちなみに出歩かない理由としては、王都はシルクマリア程治安が良くない為貴族の子供は危険だからと云うのもあるらしい。出来るだけ僕が連れ出してあげようかなと思う。
ところで何で、王都よりも辺境の方が治安良いのかな?
さて僕達冒険者組はまず何をするのかと言えば、まず冒険者ギルドへ向かった。
これは冒険者の義務みたいなもので、何か理由が無い限り冒険者は着いた街の冒険者ギルドに顔出しをしなければいけない。これをすることで「僕達今ここにいますよー」と宣言すると共に、緊急時の戦力計算をし易くする為らしい。
王都はシルクマリアの5倍近い面積を誇るうえ、商人や貴族など常に多くの人が出入りする。その為、人口密度がシルクマリアの比ではなく、利便性と人の一点集中を避けるためにギルドもいくつかに分かれていた。
王都は地形の関係上※印の様な形をしており、近くに大きな川が流れている。✕字の四つ角に一つづつ、そして貴族専用のギルドが中央に一つの合計5つである。
王都は✕字を右上、右下、左上、左下、中央で区切り専門エリアで分ける形になっているらしい。それぞれ「第一市民街」「商人街」「職人街」「第二市民街」「貴族街」と呼ばれ、その周囲に防衛塔が4つ建っている構図だ。
非効率な構造をしているなと思ったのだが、街の下には運搬用の水路があり最速で物が移動できるようになっている為、市民街には販売店だけあれば工房を併設する必要が無く国が管理しやすいらしい。
工場だけ田舎に作るみたいな感じなんだろう。火事とか有事の際に対応しやすいし、騒音問題も起き辛い。同種の職業は生活スタイルも似るからね。ただ、どうやってこんな形にまで至ったのかが不明である。
ちなみに街の中にも移動用の水路があり、街の形こそ違うものの地球のヴェネチィアを思わせる光景が広がっていた。
僕達が向かうのは✕字の右下、シルクマリアからの道程から一番近い門の近くにある商人街の冒険者ギルドだ。
ここでシルクマリアのギルマス、ドラニクスさんからの紹介状をこちらのギルマスさんに渡すのだが・・・建物に入った瞬間の視線が痛いこと痛いこと。
「何かめっちゃ見てくるんだけど・・・」
「ユウさんはお綺麗ですから」
「可愛い子はみんな注目しちゃうんだよー!」
「まぁ、それだけが理由じゃねぇけどな・・・」
「がるるるるるっ・・・」
ガルドさんが言い淀んだことは分かる。シルクマリアでは皆慣れていたが、一般的に兎人族は一般人に毛が生えた程度の強さしかなく戦闘に向かない。その為、こんな荒くれ共の巣窟に来る兎人族なんてのは依頼者か、『奴隷』かだけである。
兎人族が他種族よりも優れている・・・と言ったら良いのか、特徴的なのが容姿らしい。
整っているのに愛嬌のある顔立ちに、小柄なのに非常に女性らしい体、纏う雰囲気が庇護欲と嗜虐心を誘う、そう言う存在らしい。
つまり見てくる人の大半は僕を一晩買おうと考えているか、良い依頼なら受けようと考えているか、という事なんだろう。ちなみに僕を冒険者、もしくは実力者と見抜いた人も居るらしい。その人たちは恐らく高ランクの冒険者だ。
それにしても、兎さんちょっと恵まれなさすぎじゃない? 今まで良く生き残ってきたな。
僕は今なお注がれるエッチな視線に耐えながら、受付カウンターへ向かった。
「いらっしゃいませ、キルトリンデの南冒険者ギルドへようこそ! あら、可愛らしいお嬢さんですね。本日は・・・依頼の達成報告ですか?」
受付のお姉さんが僕を見ながら話し掛けてくる、どうやら服装から僕達が依頼者とでも考えたようだ。
「いや、到着報告とギルマスに届けもんだ。俺達CランクPT『鋼の旋風』とこの嬢ちゃん達が護衛で、シルクマリア帰還までの継続依頼・・・ユウは護衛で良いんだよな?」
「護衛だよっ!!」
何だと思ってたんだ。
僕達が護衛だと思っていなかったのか多少驚きを見せたお姉さんだったが、そこはプロ。すぐに持ち直し、手続きを進める。
「あの、この子達の従魔登録ってここで出来ますか?」
「申し訳ありません、従魔登録はここから少し進んだところにある調教師ギルドへお願い致します」
「あ、王都では別々になってるんですね」
「普通はそうなんだぜ、シルクマリアが特殊なだけだ。まぁ王都の場合は大型の従魔が居る可能性もあるからなんだがな」
「へぇー」
聞けば聞くほどシルクマリアの特異性が浮かぶ、アルバートさんって凄かったんだな。ただのネコ好きの親父だと思っていた。
ギルマスさんから返事が来るのを待つ間、暇なので旅の途中で回収した素材を売っておこうと再度お姉さんに話し掛けた。
「ねーねー、素材を売りたいんだけど何処に出したらいいの?」
「あら、何か採ってきたの? すごいわねー! 良いわよ、お姉さんに見せて」
・・・なんか相当子供に見られてないか?
そういえば獣人は成長が早いんだっけ、お姉さんは僕を10歳くらいと見ているのかもしれない。さっき冒険者証見せたんだけどなぁ・・・。
まぁ出していいらしいので、出そう。
ドンッ!!
「「「「ぎゃあああああああああああっっっ!?」」」」
「「「「きゃあああああああああああっっっ!?」」」」
「ス、沼竜・・・」
「まだまだあるよぉ、ほいっほいっほいっ!」
ドンッドンッドンッドンッ!!
「た、大量のウルフ・・・」
「おいっ、あれオーガだぞ⁉」
「ミミックプラントまで・・・」
「っていうか、何処から出したんだっ!?」
「ま、まってっ! お嬢ちゃん、待って待ってもう出さないでえええっ!?」
お姉さんの叫びでひとまず出すのを止めた僕は首を傾げる。
何故ならシルクマリアでは素材の大きさを聞かれて、問題無ければその場で出していたからだ。グレートボア(600㎏)クラスのものでもカウンター前にOKだったし、出していいっていうから出したのに。
「ど、どこから出したの? とりあえず仕舞いましょ、ねっ? お姉さんが悪かったわ」
「えー、出して良いって言って──ぎゃっ!?」
突然頭に拳骨が落ちてきた、ガルドさんだ。
いたい。ぐすん。
「嬢ちゃん、仕舞え。ただでさえ目立ってんだから騒ぎを起こすんじゃねぇ」
「はーい、ミミちゃんごっくんしましょうね。お姉さん手伝ってあげる」
「ピアも手伝うのー!」
・・・僕悪く無いんじゃないかなぁ。
まぁ、途中から僕もミミちゃんも出すのが楽しくなってきていたんだけども。
それから僕は皆を連れて、案内された保管所へ向かうのだった。
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