1‐⑨ 兎 vs 大家さん
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
【前回のあらすじ】
かち込みに行ったら、大家さんが帰ってきた
巣穴にボスが帰って来たらしい、手下を倒されて怒っている様子。
「大家さんが帰ってきましたね、家賃払った方が良いんでしょうか?」
「いや、そんな理由で怒ってんじゃねぇだろうよ」
「冗談ですって」
狭い通路では戦えない、広間で待ち受けることにする。
そこへ姿を現したのは身の丈3m以上はあるだろう、二本の角を生やした筋骨隆々の赤黒い肌をしたモンスターだった。
「あ、ありゃオーガじぇねぇか!? Cランク上位の魔物だ!」
「あれ? ゴブリンじゃないの?」
「オーガもゴブリンの上位種だ」
「ゴブリンの幅広すぎでしょ」
オーガとゴブリンは別種族だが同系統の魔物らしく、徒党を組むことがあるらしい。
討伐ランクは『C+』、これはBランクPTで討伐すべき相手である。
一応CランクPTでも戦えるらしいのだが、勝率は低くなるとのこと。
「何か後ろにもぞろぞろ連れていますね」
「まずは手下を減らしていかねぇとな、数だけは居やがるからゴブリンは面倒だ」
オーガの後ろにはゴブリンが追加で十五匹程、倒せなくはないがオーガと同時だと大変そうだ。
さてどうするか、追い詰められるとピアちゃんにも危険が及ぶ。
「兎にも角にも、一度蹴ってみるに限る!」
クラウチングスタートからの全力ドロップキックを放ったが、易々と防がれてしまった。
体重差もあって怯ませることも出来なかったみたいで、少し悔しい。
「これは強いですね……」
「だから強ぇつってんだろうが、危ねぇから無茶すんな」
「ガルドさん、僕がオーガの気を引きますから出口に向かえますか?」
「あぁ、行けはするだろうが時間はかかるぞ? 何すんだ?」
「オーガは外で相手しましょう、それにはゴブが邪魔です。今も増えてるみたいですし一気に減らします」
先程気付いたのだが、僕がオーガを蹴っている間にゴブリンの数が増えていたのだ。
恐らく巣に横穴か何かがあり、残りのゴブリンが集まってきたのだろう。
このままでは押し切られてピアちゃんに危険が及ぶ。
何か解決策は無いものだろうかと考えた所、良い事を思いついたのだ。
「目の前のゴブを蹴散らすのは、ピアちゃんに任せて貰えてれば良いです。僕も遅れず着いていきますので走ってください」
「分かった」
「ピアちゃん、出口に向かって思い切り鞭を鳴らして!!」
ピアちゃんが持っている鞭の名前は『絶叫する蔦鞭』。
千年樹の生命力にマンゴラドラの音波攻撃を宿した鞭で、その威力は鞭の叩く力に依存する。
つまり、全力で叩けば前方数メートルを吹き飛ばす爆弾になるのだ。
「おねーちゃん、絶対着いてきてね!」
「僕がピアちゃんから離れるわけないでしょー」
「わかったの! えいっ、えいっ!!」
出口に向かって鞭を振るうピアちゃん、空気の切り裂く音がする度にマンゴラドラの絶叫が響き渡る。
この声には恐怖の状態異常を起こす効果もあるので、足止めには最適なのだ。
「さて、君には少しここで倒れていて貰うよ。僕の考えた技の実験体になってね!」
爪や牙が無い分脚力に優れている兎装備は、空中の蹴り技に向いている。
僕は万が一ごり押しが効かない敵が出てきた時の為に、蹴り技をいくつか考えていた。
まぁ格闘技を極めている訳でもないので、いわゆる『僕が考えた最強の技』みたいなやつだが、大型のモンスターには十分効果があるだろう。
オーガを睨みつけて、僕は駆け出す。
相手は人間を超えるモンスター、反射神経もその比ではない。高速で動く僕を捕えてくる。
僕はその手を避け、股抜けをしてからジャンプ。後頭部の位置まで飛ぶ。
「『ニー・ウィップ』!!」
足を鞭のようにしならせて放つ横蹴り。流石のオーガも後頭部への衝撃に踏鞴を踏む。
眩暈を起こしながらも僕を追おうとするオーガ、その姿を見て僕は。
「あばよっ、とっつぁーん!」
無視して皆の後を追った。
背後からオーガの怒声が聞こえるが、そんなものは知らん。
僕にとって君よりも、怒ったピアちゃんの方が怖いのだ。
「おねーちゃん、遅い!」
「ごめんて、でもちゃんと着いてきたでしょ?」
僕が追いついた時、皆はもう外に出ていた。
ゴブリンはまだ巣の中で倒れているようなので、作戦を開始することにする。
「よし、やるか。いくよ、ミミちゃん!」
「がぅ! ぐばっ!!」
ミミちゃんが巣に向かって大量の水を吐き出す。
それも、樽一つや二つ分などというレベルではない。
この水は僕達がミミちゃんと出会った時に、飲み水用にと飲んで貰っていた『湖の水』。
飲めるだけ飲んで貰おうとお願いしたところ、何とミミちゃんはそれを全て飲んでしまった。
湖一泓分の水、全てを巣に流し込むとどうなるか。結果は言わずもがなであろう。
ちなみにこの作戦、生前に同じことをしてゴブリンの巣を潰している冒険者の漫画があったので、参考にさせてもらった。
「あ、ついでにこれも要らないから流そう」
「何だそれ?」
「拾った毒薬」
ガルドさんが残念そうな顔でこちらを見る。
これでオーガも倒せたら良いなとは思うが、薄まると思うし効果は期待しないでおこう。
「それにしても、ミミちゃんの中にこんなに水が入ってたのね」
「マジックバッグとしても規格外ですね。これでまだ水以外にも入っているのですから、恐ろしいものです」
「盗もうとするやつも出るだろうが、噛まれるから盗めねぇな」
「それが防犯機能ってやつなんでしょうね」
ミミちゃんの説明文には『防犯機能付き』って書いてあった、たぶん盗もうとしたら噛むとか、出すのを拒むとかそういう事だろう。
未だマーライオンのようになっているミミちゃん。
だが流石に水が切れるみたいで、勢いがなくなってきた。
「飲む分もいるし、止めても良いよ。ありがとう」
「がぅがぅ!」
「さてさて、中はどうなっているかな?」
ゴブリン達は何となく予想が付く、だがオーガはどうだろう?
巣を調べる為近付こうとしたが必要ない事に気付く。
オーガが自分で出てきたのだ、しかも激おこ。
「GAaaaaaaa!!」
「そんなに怒らなくても良いじゃん、気持ちは分かるけどさー」
「いや、お姉さんでも怒るよ。私、生まれて初めて魔物に同情するわ」
「まぁ、私もせめて正々堂々と倒して欲しいとは思いますね」
「えー、そんなこと言われても……」
だって安全には代えられないじゃん?
だけど確かに可哀想だとは思う。なら、せめて最後は真正面から戦うべきだろう。
「仕方ない……」
僕はオーガの元まで歩き、真正面から見据える。
「僕はユウ・マキマ。いざ、尋常に勝負!」
「Guuuu……」
オーガは僕の言葉を理解したわけでは無いだろう。
だが雰囲気を察したのか、荒げていた声を抑え構えた。
オーガは人より何周りも大きい、体重は十倍近いだろう。
筋力も人とは比較にならず、それに固められた体の頑丈さも馬鹿にならない。
そして反射神経。決して魔物の中でも優れているというわけでは無い筈だが、それでも人より優れている。
だが、それでもオーガは人型だ。よって弱点も人に準ずる。
ならば狙うのは筋肉の少ない場所、例えば脛。
「おらぁっ!! って痛たぁぁあああ!?」
ここは弁慶の泣き所と言われるほど、痛みに弱い。
だが予想を超えて骨が硬かった、逆に僕の足の方が痛いくらいだ。
しかし効果が無いでもなかったらしく、少し怯んでいる。
「一応効くには効いたのか、さてどうするか……」
ピアちゃん達を見ると、手助けに入れなくて立ち尽くしている様子。
僕としてもそちらの方が助かる。
「ミミちゃん。ごめんだけど、ピアちゃんの所へ行って貰えるかな? 捕まったらオーガに千切られそうだから」
「ぎゃうぅ……」
ミミちゃんは納得いかなさそうだが、僕の言葉に従いピアちゃんの元まで這っていく。
これで気にせず全力で跳ねられる。
「ふぅっ!! ここならどうだっ!」
「GuAaaaa!!」
「やっぱり効果は薄いか……」
両内腿へ蹴りも左程ダメージが無かった、どれだけ頑丈なのか。
やはり筋肉の無い所に攻撃するしか無さそうだ。
ちょっと想像しただけで痛かったので、あまり使いたくなかったのだが仕方ない。
僕はオーガの足元を駆け回り翻弄する。
相当鬱陶しいのか腕を振り回すが、それを避け尚も走っては蹴るを繰り返す。
オーガのイラつきが最高潮に達し、僕を踏み潰す動きを見せる。
それが隙となった。
「『滝登り』!!」
金的・喉仏・眼球の順に上昇していく連続蹴り。
頭を突き抜けるような痛みにオーガは体を屈める。
僕は続けて、前に出た頭に下から強力な膝蹴りを加えた。
「『破城追』!!」
いくら頑丈なオーガと言えど、顎の力が抜けた状態で僕の全力蹴りは耐えられない。
蹴られた口から血と砕けた牙が舞う。
仰向きに倒れる巨体の鳩尾目掛け、丸鋸のように回転しながら踵を落とした。
「『大車輪』!!」
今の僕が出来る最高ダメージの技。
全体重と遠心力と重力を、人体の中で最も硬いとされている踵に乗せた攻撃。筋肉が無く、力の抜けた状態の鳩尾に落した。
これでダメージ無かったら無理、マジで無理。
僕はすぐにオーガから離れて様子を見る。
「おいおい、勘弁してよ……」
「ありえねぇ、あれを耐えたのか」
「おねーちゃん……」
信じられない事に、あれだけのダメージを受けて尚オーガは立ち上がった。
鬼「オマエ、ツヨイ」
ユ「君もすごく強いよ、あれで倒せないなんて思わなかった」
鬼「オレ、キメタ。オマエ、ヨメニスル」
ユ「待て、それは遠慮する」
鬼「オレノ、コドモウム」
ユ「絶対やだ、他の雌オーガ探してくれ」
鬼「ヤシナウ、サンショク・ヒルネ、ツケル」
ユ「ヤバい、ちょっと心が揺れる」
この後ピアにより全力で止められ、ユウは正気に戻った
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